☆第二十八話 裸レディ疾走!☆
『パドック終了のお時間でございます』
(とうとう パドックって言い出した)
地球領界の惑星郡に於いて、地球世紀三四五六年の現代でも人気の高いイベントが、古来より続く「ケェバー」である。
それぞれの惑星ごとに馬的な生物を走らせたり、あるいは地球本星からの移民たちが持ち込んだ子孫馬を走らせたりして、勝ち馬投票券で楽しむという、伝統の公営娯楽だ。
特に、各惑星で年に一~二回行われる、様々な惑星の代表馬を集めて競う「惑星賞」などは、領界でも一~二を争う程の盛り上がりを見せていたりする。
現在マコトたちが参加をしている「レディー・ホース」も、そのケェバーにあやかっているからか、コンパニオンたちの行進をケェバーと同じ「パドック」とか言っていた。
まんまセミヌードの女体観察だけど、富豪たちは、裸女体を見慣れているからだろうか。
性的な興味よりも、ランナーとしての見極めに熱心だった。
(……うぅん…)
(……なんと言いましょうか…)
マコトもユキも、特に不満というワケではない。
ただ、以前に潜入捜査のステージ上でヌードダンスを披露した際の、犯罪者としては底辺な男たちから体験をさせられた「ムシャブリ付くような強い性的嗜好の熱視線」を知っているだけに、感じなくても良い違和感を感じてしまっていた。
柔軟体操をするコンパニオンたちの中には、必要以上に肢体をくねらせ大きく動いて、裸身をアピールしているランナーもいる。
はたして大胆アピールが功を奏したのかはともかく、大型スクリーンに、いわゆるオッズが標示された。
「…本当に、ケェバーの馬にされた気分…もぅ…」
オッズを見るに、マコトは三番人気で、ユキは二番人気で、一番人気は「ハリエンナ」という、業務でも面識の無いコンパニオンだった。
マコトたちとは、別の班なのだろう。
二人は、自分の人気や賞金の倍率など、何番でも気にはならないけれど、ユキよりも人気があるランナーがいるのは、マコト的に何となく面白くなかったり。
(…ユキよりも人気がある コンパニオン…)
特別に気にするワケではないけれど、ついゼッケンを参考に、十番のハリエンナを、チラと見た。
ハリエンナ嬢は、栗毛色の髪が馬のタテガミみたいに盛り上がっていて、面立ちはとても凛々しくて勇敢なイメージ。
身長はマコトより少し高いくらいで、プロポーションは過不足無く綺麗なシルエットを魅せていて、素の立ち姿も美しかった。
頭頂の左右には菱形で縦長なケモ耳が伸びていて、丸いヒップの尾てい骨部からは長い体毛のような尻尾が揺れている。
ケモ系の知的生命体としては、マコトがネコ系でユキがウサギ系と分類すれば、間違いなく馬系女子であった。
ムラ無く日焼けをしたような肌の色艶は輝く宝石みたいで、艶と陰影から見える筋肉はかなり引き締まっていて、相当に鍛えられていると解る。
爪先も長めで、如何にもスピードが出そうな感じに見えた。
(…確かに速そう)
一番人気の理由も、美貌や裸体だけでなく、確実に一着を取れるであろう疾走ボディーにも、あるだろう。
マコトだけでなく、ユキも、ハリエンナ嬢を注視していた。
しかし、マコトのようにランナーとしての注視ではなく、格好良いヌード女性をよく見たいという、一種のファン視線だったり。
『それでは、レディーたちが ゲート・インを致します』
コンパニオンたちが、係員たちの指示に従って、コースの内側からゼッケンの順に、等間隔でスタートラインへと整列をする。
(ゲートって、たしか…)
捜査資料か何かで見た、太古のレースの映像が、思い浮かぶ。
同じように金属の狭い枠が連なったようなゲートかと思ったら、各コンパニオンを四角く囲むように、コースからクリアー・ピンクな光の壁が出現をした。
「あ…」
優しく明るい光の壁は、触れると温かくて、そして物理的に通り抜ける事が出来ないブロック・レーザー光線である。
ヌード・ランナーたちの諸肌が、ピンク色の優しいライトで、艶やかに照らし上げられていた。
肘を曲げた両腕を拡げられるくらいの左右幅と、寝転がって脚が伸ばせないくらいの前後幅。
(つまり、この範囲で スターティング・ポイントを取る。という事だよね)
マコトと同じく理解をしたランナーたちは、それぞれのポーズで、スタートに構える。
「…っ!」
なんであれ、手を抜いたと思われてしまうのはマズい。
ユキは身体の左側を前にして、マコトは恥ずかしさを押し殺してのクラウチング・スタートで、それぞれの体勢となった。
個々のランナーの周囲をカメラ・ドローンが飛び回り、スタート直前の緊張感ある迫力映像を収め、会場の掲示板でも標示をされる。
ユキ以外の立ち姿勢ランナーは美顔やバストを、マコトのようなクラウチング・スタートのランナーは美顔やヒップを、富豪たちへと大写しで晒されていた。
「「「「「………」」」」」
構えたランナーたちが、みな「スタートまで長い」と感じた頃、ゲート前に標示をされたレーザー・シグナルが、カウントダウンを開始。
縦に三つ並んだ光学信号が、下から赤く点灯してゆく。
――ピッ、ピッ…。
(((((来るっ!)))))
ヌード・ランナーたちが緊張をした瞬間、シグナル・グリーンが輝く。
――ピーーーーンっ!
同時に「ザンっ」とゲートが開く古式ゆかしい効果音が轟き、光ゲートが消失をした瞬間に、全ランナーが一斉で掛け出した。
「っ!」
コンパニオンとして必要な体力維持のためか、出走者たちはみな、女性の平均よりも、かなりのスピードで走り出す。
(みんな、速い…っ!)
捜査官として日々鍛練を積んでいるマコトとユキがトップに立てるとは、流石に思ってはいなかったけれど、それでもみんなスピードあった。
一番人気のハリエンナ嬢がトップを取り、先頭集団の先端をマコトが走り、後方集団のトップがユキで、やや後ろへと列が伸びている。
ヌードなコンパニオンたちの疾走で、豊かなバストがタプタプと弾んで、控えめなバストもフルフルと揺れている。
大きなヒップも丸い小尻も、走るに合わせて左右へと振られていた。
上下するバストのゼッケンも、右に左に素早く揺れるお尻のゼッケンも、富豪たちの目に留まることは不可能。
ランナーたちと併走飛行をする小型ドローンたちの映像によって、コースを駆ける美顔や肢体が、大型モニターへ次々と大写しにされていった。
第一コーナーを廻って大きなカーブを走り抜ける間に、トップ以外のランナーたちの順位が、小さく変化。
「っ!」
誰もまだ全力疾走ではないとはいえ、二位だったマコトが、三位だったゼッケン四番のランナーに追いつかれて、並ばれてしまう。
(抜かせるものか!)
個人的な競争意識と、鍛えている捜査官としてのプライドで、マコトの負けん気もゴオォっ燃え上がった。
ゴールまでの距離は三百メートルであり、本物のケェバーと同じく、最終コーナーまでは脚の力を維持する必要がある。
マコトは、追いついてきた四番を意識しつつペースを乱されないように、そして走る速度を上げすぎないよう注意をしていた。
後方グループでトップのユキは七位をキープしながら、逆に先頭グループとの距離を詰めてゆく。
(! ユキが来る!)
ランナーたちの足音に混じっていても、ユキのクセを無自覚にも知り尽くしているマコトは、足音だけで解った。
(ユキ、悪いけれど!)
日頃の訓練でも、体力や運動神経は、マコトが常勝し続けている。
ユキと競うのは胸が痛む程に心苦しいけれど、不自然さも無く勝ちを譲れる程の器用さも、マコトには無い。
なので今は、心を鬼にして、勝負を続けるしか無かった。
というマコトの心情を、やはり完全に理解をしているユキは、優しく悩めるマコトが、愛おしくて堪らなかったり。
『第三コーナーを回って、いよいよ第四コーナー、最後の直線でございます』
大きなカーブが終わる頃、長くてやや上り坂な第四コーナーを、視界が捉える。
疾走する裸美女たちのしなやかな柔肌が、照明に照らされる汗を散らしつつ、キラキラと官能的な輝きを纏う。
直線からゴールまでが、勝負どころ。
(! ここっ!)
第四コーナーへ入った瞬間、マコトだけでなくヌード・ランナーのみんなが、全速力で駆けだした。
マコトの前を走るハリエンナの背中が、グングンと近づいてくる。
(抜ける――ぇえっ!?)
そう確信をした瞬間、何とハリエンナの脚力が、まだ余裕を見せ付けてきた。
届きそうな汗散らす背中が、追い付くよりも速い速度で、遠ざかる。
(わぁっ、速い…っ!)
それでもゴールまでに追い付こうと、更に脚力へとムチ打ったら、なんと外から追い抜いてくる二人が。
「え…ぇえっ!?」
ハリエンナに意識を釘付けにされていたマコトを抜いたのは、ナナイーとヤチエ。
二人は、瞬く間にマコトを抜き去ると、トップのハリエンナと競りだして、そしてゴールは。
『ただいま、ゴールをいたしました。一着はハリエンナ嬢。二着はヤチエ嬢。三着はナナイー嬢。以下、ラトト嬢、フミリィ嬢と 続きます』
「はあぁ…はあぁ…」
マコトが四着でユキが五着で、息が整わないままのマコトへ、同じくユキが笑顔。
「はぁ…はあぁ…マコト、それでも私たちは いわゆる馬券に乗れましてよ♪」
~第二十八話 終わり~
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