☆第二十七話 レディー・ホース開催☆
控え室にて暫し待ち、担当さんから呼ばれたセミヌードのコンパニオンたちが、コースへと向かう。
途中の通路では、この規模での新しいイベントを成功させようと、スタッフたちが走り回っていた。
「あっ、失礼しますっ!」
「コンパニオンの皆様っ、ランナーの準備室はこちらです!」
こういう現場は、やはり体力なのだろう。
スタッフたちの殆どは男性で、特に大道具系の力仕事は、体力自慢っぽい屈強な男性たちが努めていた。
半ヌードを飾った、うら若き女性たち十二人が歩いている通路を、男性スタッフたちが忙しそうに行き来をしている。
「……凄いね」
「本当ですわ♪」
正直、ユキもマコトもコンパニオンたちも、ローブは控え室に置いてくるように言われていたから、コースまでは男性スタッフたちの淫らな視線に晒され続けると、したくも無い覚悟をさせられていた。
しかし実際に移動が始まると、男性スタッフたちは裸というより、ランナーたちの存在に気付いてコチラを確認し、一瞬だけチラとヌードを見て、また仕事に意識を向ける。
普段は見たくて仕方が無い筈な女性たちの裸だけど、仕事を目の前にしては、最早女性の裸どころでは無い。
みたいな、特に男性特有な仕事意識という空気を、出場コンパニオンたちみんなが感じていた。
「ここがぁ~、準備室だねぇ~♪」
ナナイーが扉を明けると、狭い室内はいかにも急造な感じで、人数分にすら届いていない椅子しか無かったり。
「…ここも 凄いね」
「せめて、全身姿見は 欲しい処ですわ」
とにかく、イベントが始まるまでは閉じ込められている感じだった。
それから、スタッフの人たちが足りない椅子を持ってき来てくれたり、人数分のミネラルウォーターを持って来てくれたりして、十分程が過ぎて、再びコンパニオンたちが呼ばれる。
「それでは皆さん、お待たせしましたっ! これから、コースへと出て戴きます! ゼッケンの順番で整列をして戴いて、係員の指示に従って、順番にコースを歩いて下さいっ! あ、言うまでも無いと思いますが、歩く姿は綺麗を心掛けて下さいねっ! お客様の掛けの判断基準にもなりますしっ、好印象を戴ければ、そのコンパニオンさんにもチャンスが訪れるかもしれませんからっ!」
「「「「は~い♪」」」」
コンパニオンたちに混じって、マコトたちも良い返答を返したけれど。
(要するに、裸を見せ歩いてアピールしなさい。という事だよね?)
準備室を出ると、コースまでの通路はやや暗く、緩い上り坂になっていた。
(ですわね♪ マコトには、どれ程の好評がもたらされるのかと想像をいたしますれば…きっと一番人気に選ばれますわ♪)
(一番はユキだよ。ボクだったら ユキにしか大切な一票 入れないもん)
小声でヤリトリをしながら、二人もコンパニオンの列へと並ぶ。
ゼッケンはマコトが三番でユキが八番なので、二人は離れてしまった。
整列をした先はコースへの入り口が大きく口を開けていて、更に大きなカーテンで閉じられていて、隙間からは光が漏れていて、観客たちのサワサワとした静かな興奮の声も、届いている。
「それでは皆さん。順番にコースへ入りますが、まずはゴール・ラインを越えてスタート・ラインまでのコースを一周、歩いて下さいっ!」
十二人のセミヌード女性たちを前にして、係の男性は、熱心で真剣な表情にて指示をくれる。
何としても、このイベントを成功させんと、仕事への熱気が燃えていた。
カーテンの向こうから、富豪客へのアナウンスが、聞こえてくる。
『お待たせを致しました。これより、本船セカンド・タカラブネ号の新らたなイベント「レディー・ホース」を開催いたします。それでは、出走レディーたちの入場でございます』
コンパニオンたちの格好も相まって、出走とか言われると、いよいよ競馬の牝馬になったような気分だ。
カーテンが開かれると、静かな歓声が「ワァ…っ!」と、熱と注視の圧になって、裸女たちを包み込んでくる。
『ゼッケン一番 マスティール嬢。惑星トルネイディー出身』
「それじゃっ、ユックリと綺麗に コースを歩いてっ!」
「はいっ!」
係員の手で優しくコルセット背部を押された、付けケモ耳のコンパニオンが、慣れた綺麗なモデルウォークで、コースへと歩み出る。
「「「「………」」」」
富豪男性たちの、静かな興奮。
みたいな見えない熱が、マコトだけでなく後方のユキにも、感じ取れていた。
最初のヌード・ギャルが十メートルほど進むと、次のケモ・ネイキッド・ガールがコースへ歩み出る。
『ゼッケン二番 アゥール嬢。惑星バドラス出身』
鳥系知的生命体のアゥール嬢は、極薄い羽毛状の体毛をコースのライトでキラキラさせながら、胸もお尻も過ぎない程度に左右へと振り魅せつつ、自身をアピールして歩く。
(………)
自分に、あのような堂々としたアピールが、出来るのだろうか。
(…向いてない事に悩むよりも、いま自分に出来る 精一杯を…っ!)
とは、幼馴染みのユキと共に、飛び級で進学をした中学校の先生が教えてくれた、人生に於ける心構えである。
「すうぅ…ふうぅ…っ!」
マコトは深く息を吸って、静かに吐いて、気持ちを集中させた。
「じゃ、次は三番っ!」
「はい…っ!」
優しく背中を押されたマコトは、ユキが割と意識をしているモデル歩きの姿勢を思い出して、マネをした。
薄暗い通路から、明るいコースへと、一歩踏み出すと。
「「「……サワ、サワ…」」」
富豪たちの反応に、静かだけど確実な変化を、マコトは感じた。
(――っ! 正体がバレた という可能性は…)
考えたものの、そもそも対外特種捜査官である捜査官ユニット「ホワイトフロール」が潜入捜査をしているとか、ましてやヌードで闊歩しているとか、逆に信憑性を自ら否定してしまうだろう。
『ゼッケン三番 ラトト嬢。 地球本星出身』
(…あ、ボクだ)
本人だけど、本人のソックリさんとして潜入をして、客受けとキャラクター性が良いから本人と同じ名前を源氏名として名乗っていた事を、すっかり忘れていた。
「「「……サワ…」」」
ソックリさんだと理解をすると、富豪たちのザワつきも落ち着いた。
むしろソックリさんだからこそ、どこか安心をしたように、マコトの裸身が注視をされてしまう。
そもそもこの行進の意味は、裸体を披露する事ではなく、ランナーたちの全身バランスや筋肉、歩行による不調の有無や肌艶を観察して、どのランナーのゼッケンを買うか。
という参考の為である。
そんな言い訳も用意されているので、富豪たちは電子望遠鏡を操作して、美しく歩を進めるホース・レディーたちの肢体を、つぶさに観察していた。
ヌード・コンパニオンたちが歩くコースは、左カーブの三百メートル・コースとして、設定調整がされている。
コースの外側はグルりと観客席になっていて、富豪たちはみなテーブル席でお酒や葉巻を楽しみつつ、ランナーたちを観察していた。
更に、青空を投影している天井の複数なカメラや、コース上を飛行しながら迫力のある映像を中継する超小型撮影ドローンなど、人の目カメラの目で囲まれている。
コンパニオンたちからすればタダの裸体披露のようでもあり、マコトにとっては本当に競馬の馬にでもされた気持ちだ。
何より、全方位から肌へと感じる、男性たちの好奇な視線。
(……見てる…)
望遠鏡越しの意識が、美顔や項や巨乳や背中、ウェストや両腕や引き締まった下腹部や大きな裸尻、腿の間から細い爪先に至るまで、全ての肌へ遠慮無く突き刺さってくる感覚だった。
周囲を飛行するドローン撮影は、会場席ではなく自室でギャンブルに興じている富豪へ向けた、サービスでもある。
女体の周囲を、二~三機で周回しつつ撮影をして本部から中継をされている画像には、さり気なく通過する際の、美顔や双乳先端や清純な縦媚筋などが、絶対に写されているだろう。
(………)
とはいえ、恥ずかしさに負けて裸身を隠してしまったりすれば確実に出走取り消しだろうし、後々の捜査に支障をきたす危険もある。
なので、今はネコ耳もネコ尻尾も羞恥でピンと立てつつ、そしてつい振るわせてしまいながら、我慢をするしか無かった。
マコトがコースの半分へ差し掛かる頃、ユキも入場。
『ゼッケン八番 フミリィ嬢。地球本星出身』
マコトと同じく、富豪たちがややザワついて、名前を知ってソックリさんだと知って、また少し静まったり。
(ユキ、平気…だよね)
心配をして視線だけでさり気なくパートナーを見ると、ウサ耳とウサ尻尾が僅かに震えている感じには見えるものの、無垢なお姫様のような笑顔は、むしろ正体を隠したヌード行進という開放感で、輝く様な笑顔であった。
(うん。やっぱりユキだ)
納得出来てしまった。
十二人の出走コンパニオンが紹介をされて、スタート・ラインで横並びとなる。
観客的にも十分な女体観察は終えられているので、これから十分間は、選択をしたゼッケンに対する投票券の購入時間となる。
『では皆様、勝ち馬…ウィナー・レディー投票券のご購入を』
(あ、勝ち馬って言った)
もう拘っても仕方が無いと、マコトも覚悟をしていた。
馬券購入の待ち時間の間、コンパニオンたちは更なるアピールをする為か、それぞれ柔軟体操などで、裸身を見せ付ける。
(…まあ、ボクたちも 手を抜くワケには、行かないからね)
マコトもユキも、全力で走る為に、全身をほぐし始めた。
~第二十七話 終わり~
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