☆第二十六話 色素でゼッケン☆
控え室には、既に出場コンパニオンたちが集まっていて、マコトとユキは最後になってしまった。
集合時間までタップリと時間もあるし、そこは全く問題ではない。
二人が驚かされたのは、既に着替え終わっている出場者たちの格好であった。
コンパニオンたちは皆、首の大きなリボン、腹部にはコルセット、両前腕と両スネ部に巻き物だけを身に着けた、ほぼほぼヌード。
細い首に巻かれたリボンは、後ろ側で大きく蝶結びに飾られていて、リボンの尻尾はマフラーみたいに、左右のバストへ掛かる長さだ。
お腹に巻かれたコルセットも官能的な緩い波形で、上下の肌を、より引き立てている感じ。
両の肘から手首までは、縫い目の無い筒状の艶々な生地を纏っていて、両の美脚もスネから足首まで、やはり艶生地を纏っていた。
リボンと手足の生地は、それぞれコンパニオンごとに単色で統一をされていて、パっと見だけで誰だか識別出来るデザイン。
コンパニオンの中でも、マコトたちのようなケモ耳星人系や角星人系などはともかく、そうでない惑星人のコンパニオンたちは、アクセサリーとしてのケモ耳やケモ尻尾などを装着していた。
「………」
トップレスと言えばトップレスだけど。
と、小声でユキと確認をしようとして、フと「あぁ、こんなおかしなスタイル、ユキが絶対に着たがるデザインだ」と、訊かずとも理解が出来てしまうマコト。
「やっぱり」
案の定というか、隣に立つユキは、陸上競技として全く見た事の無い格好に「着てみたい欲求」が、強く刺激をされていた。
「マ、マコト…っ♪」
「うん。着がえようか」
どんな恥ずかしい服装であっても、一度でも目にしたら着てみたくて仕方が無くなるのがユキであると、幼馴染みだから知り尽くしている。
そしてマコトも、ユキ一人を恥ずかしい格好にするのがモヤモヤしてしまうので、結局は付き合って、共に恥ずかしい格好をする事になるのだ。
既に着替え終わっているコンパニオンたちを見るまでもなく、パーツとしては簡単過ぎる程、迷わない。
「ボクたちのロッカーは…」
空いているロッカーに、手首のリングを近づけると反応をして、一時的に専用ロッカーとなった。
「私も。それでは~♪」
鼻歌交じりで全裸になるユキと、諦めモードで脱衣をするマコト。
コンパニオンのスーツであるトップレスのままなので、ロッカーを開ける動作で巨乳が揺れて、白い柔曲肌が張りを見せつつ弾んで魅せる。
大きなヒップを全く隠していないTバックをスルんと下ろすと、脱衣に合わせて突き出された丸い巨尻が、艶めいて張って官能媚を見せ付けてしまう。
「ふう」
中性的な美しい王子様が全てを脱ぐと、魅惑的過ぎる起伏の引き締まった女体が完全に晒されて、人目を集める。
愛らしく無垢なお姫様が全裸になると、庇護欲を刺激しながら触れる事さえ躊躇われる様な愛しい裸姿が、無自覚に晒されていた。
二人の着替えに、同じ女性であるコンパニオンたちも、無言で魅入ってしまう。
「「「「「………」」」」」
中には胸を押さえて落ち込む女性いるけれど、確実な事は、参加者みながそれぞれに人目を引く程の美人であり、富豪たちに選ばれたトップレディーという事実だ。
着替えが終わると、マコトもユキも、同じ露出過多を通り過ぎたスタイル。
「…これでいいの?」
「はい♪ よくお似合いですわ♪」
ユキの心からの微笑みはともかく、褒め言葉を貰っても、あまり嬉しくない格好ではあった。
マコトとユキはケモ耳ケモ尻尾なので、裸身に首リボンとお腹にコルセット、両手足の巻き物のみ。
衣装の色は、ユキがオレンジ色で、マコトがライトグリーンである。
リボンはともかく、手足に纏った生地という外観は、まんま競馬馬の人類バージョンという露出加減だ。
この格好で、これから観客たちを前に、徒競争をするのである。
「………」
溜息しか出ないマコトとは対照的に、ユキは全身姿見を前に、屈んだり伸びをしたり、クルっと一回転をして全身を確かめながら、楽しそうだ。
「あらためて着用をさせて戴くと、とても大胆な衣装ですわ。うふふ…♪」
「ユキ。リボンよりも 手足の生地しかない辺りに、ワクワクしてるよね?」
「はい♪ マコトも、とても格好良ろしくて 美しく感じられますわ。きっと どれ程までに、殿方の視線を集めてしまう事でしょう♪」
「それなら、ユキの方が集まるよ。お互いに凄い格好だけれど、ユキの方が可愛いもん」
「うふふ…♡」
そんな会話をしていると、扉がノックをされて、若い男性の担当さんが入って来た。
「みなさん準備は――おぉ…っ!」
女性陣の裸体を合法的に見られるのだから、ニヤニヤしながら居座ると思っていたけれど、しかし担当さんは、慌てて扉の向こう側へ隠れてしまう。
『みなさん、ガウンがありますよね? それを着て、コースへ向かう事になりますです』
中央のテーブルに畳まれていた純白のガウンを、それぞれが裸体に纏う。
内側はサラサラと気持ち良い肌触りで、ガウンそのものも薄くて軽い。
袖を通して柔らかい帯で留めると、光学ガウンの表面にそれぞれのカラーが、斜めに波打つストライプ柄となって、標示をされた。
「凝ってるね」
「素敵ですわ♪」
出場コンパニオン全員がガウンで裸身を隠すと、再び担当さんが入室をする。
「はい、では皆さん、準備は完了してますですね」
若い担当さんの掌には、手の平サイズで正面が平らな、小型のレーザー発信器が携えられていた。
「それでは皆さん、これから皆さんのお体に、これで色素ゼッケンをマーキングしますですので。ゼッケンは、レース終了時 すぐに回復をさせますですので、どうかご安心を」
担当さんが見せてくれたレーザー発信器に関して、ユキが小声で、そして嬉しそうに、マコトへ伝える。
「あの発信器は、生体色素変更レーザーガン ですわ♪ マコトは、覚えておいででしょうか?」
「生体色素変更レーザー…あ、思い出したよ」
かつて、地球本星へと珍しいうえ輸入禁止の惑星生物を持ち込もうとした密輸入の犯罪グループを、二人はパトロール中に発見し、捕らえた事があった。
その密猟団の備品にも、これと同型の機器が、いくつか発見されたのである。
「私、あの事件で初めて 実物を拝見いたしましたわ♪」
「うん、そうだったね。ユキ、あの時のあれ 凄く欲しがっていたっけ」
件の生体色素変更レーザーガンとは、生物の体表へ色素変更レーザーを当てて、任意の文字や数字や記号などを、色素を変化させる事で標示させる仕組みのレーザーガンである。
色素が変更された体細胞には、色だけでなく短波の発信性能も付与されて、色素変更をした個体の鼓動や脳波を電波として発信し、観察者がなるべく野生生物の生活環境へ踏み込まず、生態観察が出来るのだ。
更に、外科医療の現場に於いて、切除が必要な患部などを、人体表面や患部などに表記をしておく場合も、あったりする。
モチロン、色素変更にも電波発信にも、生体へは全くと言って良い程、悪影響は皆無だ。
唯一の影響があるとすれば、三十年ほど色素変更をしたままだと、その色や模様が遺伝子にも記憶をされてしまう事、くらいである。
なので現在、レーザーで変更された色素そのものは、生物の新陳代謝からの影響を受けるように調整がされていて、どのような色素変更でも銀河標準時間にして一年で、完全に消滅をする事が、銀河基準でのルールであった。
更に、色素変更はレーザーガンのスイッチ切り替えで、イレイザー・レーザーを発信できるようにも作られている。
レースの後に、すぐにゼッケンを消して貰えるので、とても安全だ。
なので、今回のような多人数でのイベントなどの、様々な場面で利用されていたりする。
「それでは皆さん。こちらのクジで、番号を引いて下さいです」
四角い箱の天面に丸い穴が空いていて、中には番号の書かれたペーパーが、十二枚入っていた。
古式ゆかしい手動式のナンバー割り当てシステムだが、今回のような小規模イベントでは、逆に手間暇が掛からなくて便利。
コンバニオンたちがクジを引いて、マコトは三番で、ユキが八番を引いた。
「ゼッケン 離れてしまいましたわ」
それぞれの番号を確認すると、一番から呼ばれて、肌にゼッケンを描かれる。
「えー、一番は…カリマッサさんですね」
「うえい」
母惑星語で返答をした、頭髪が熱の無い真っ赤な炎のカリマッサ嬢は、担当さんの前でガウンを脱衣。
「それでは、痛かったら言って下さいですね」
「うえ…はい」
ゼッケンは各リボンと同じ色で、左バストの外側斜め上の肌曲面と、ヒップの右斜め外側の柔肌へ、色素表記をされる。
不燃性の着けケモ耳と着けケモ尻尾と、首リボンや前腕や下肢だけを隠したヌードの女性の乳房とお尻で、ナンバーがラメに輝く。
「………」
「~♪」
いよいよ、女性を恥ずかしい競技の駒と扱っているように感じられて、不満げな表情も中性的で美しいマコトと、このような恥ずかしいボディー・ペイントにもファッション心を刺激されて無垢なお姫様笑顔を輝かせる、ユキ。
女体へのナンバー染めは進み、三番目。
「えー、三番は、マコトさんですね」
「はい」
呼ばれたマコトも、男性である担当さんの前で、自らガウンを脱衣して、セミヌードを晒す。
巨乳と巨尻に色素変更のゼッケンを飾られると、ヌードや首リボンも相まって、まるで女性奴隷にでもされてしまったような気分になった。
「えー、八番は、ユキさんですね」
「はい♪」
出場コンパニオン全員へゼッケンが与えられると、後は、呼び出されるまで控え室で待つ事になる。
ユキの裸体ナンバリングを見ながら、マコトもナゼか、ミョーにドキドキしたり。
~第二十六話 終わり~
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