☆第二十一話 ユキのいいこいいこ☆


 観光惑星へ寄港中の豪華客船に於いて、助っ人組ではない休暇中なコンパニオンたちは原則的に、客船への乗船は不可とされていた。

 理由は、休暇中のコンパニオンが恋人を連れ込んで、出港までの数日を豪華客船で過ごすという事案が、時々だけど発生するからだという。

 なので、マコトとユキもステーションへ降りた今日から、船が出航をする明後日の午後までは、セカンド・タカラブネ号へ戻る事が出来ないのだ。

「それで、アリヤ捜査官が 部屋を用意してくれているのだっけ」

「はい。どのようなお部屋でしょうか♪」

 二人は簡単な荷物だけを肩から下げて、データで貰った地図を頼りに、徒歩で宿へと向かっていた。

 惑星ピーリンカは、地球人類最初の移民惑星でもあって、都市や街の環境などは、移民当時の地球環境を色濃く残している、郷愁感を刺激してくる街並みである。

「…僕たちが生まれるよりも ずっと前の都市造りなのに、なんだか懐かしく感じてしまうね」

「私もですわ♪ なんと言いましょうか…旅行気分も、とても穏やかに 満たされてゆきますわ♪」

 バイト先であるギャラクシー・エスポワール社の契約規則によると、休暇中とはいえ契約期間中のコンパニオンは、休暇先でも宿泊施設は届け出る必要があるのだとか。

「緊急招集 とかの対策だよね」

「そのように、表向きは とてもまともな会社ですのね。あ、ここですわ♪」

 到着をしたのは、ステーションとのシャトルバスのバス停から歩いて十分程の、繁華街近くのホテル。

「ホテル・ハイピストン? 南国のお花みたいな名前だね」

「はい。とても可愛らしいですわ♪」

 二十階建ての小さなホテルで、外壁は白系で清潔感があるけれど、屋上の看板は派手で大きい。

 近辺のビル群も同じくらいの階層な造りのようで、外見の構造や壁の色はともかく、共通しているのは、やたらと派手な看板だった。

「質素な感じなのに、看板は みんな派手だよね」

「この惑星の特色 なのでしょうか? では 宿泊の手続きを致しましょう♪」

 ホテルの入り口は通路がとても狭い構造で、扉の無い門を潜った正面玄関の前にも壁があり、表の通りからは、真ん中の壁を避けて左右の短い曲がり道を歩く感じである。

「正面玄関は、表の通りからは 見えない造りなのですね」

「ね。そういう文化なのかな」

 やや暗い色合いの、半透明なガラスの自動扉を潜ると、フロアは薄い桃色の照明で薄暗く、フロントは人では無くドロイドだけが接客をしていた。

『イラッシャイマセ。ほてる・はいぴすとんヘ ヨウコソ』

「…?」

 金色の構造材も剥き出しなドロイドは、メカヲタクではないマコトから見ても、数百年は前の機種だと解る。

 ヘッドユニットは人間タイプではなくモニター型で、二足歩行が完成し一般普及をしてから現場改修を重ねて完成された、いわば最初期の量産型二足歩行システム機であった。

 一般的に、宿泊ホテルのグレードには銀河共通の基準があり、最も高級なホテルは知的生命体が接客を行う。

 グレード・ダウンに従って一部がドロイドだったり、更に使用されるドロイドの機種によっても、ランクが推察できるのだ。

「接客を こういう古いタイプのドロイドが努めるくらい、このホテルの宿泊料金が安いのかな。ねぇユキ。あぁ…」

 パートナーのメカ知識からの解答を期待したマコトは、ある意味で最も予想される反応に、美しい溜息を零す。

 メカヲタなユキは案の定、もはや中古廃品回収のカタログか、あるいはレストア趣味な重度のメカヲタクのページでしか見かけないようなビンテージ・ドロイドへ、興味を惹かれまくっていた。

「~~~~~っ♪ マ、マコトっ! ご覧になっくださいなっ♪ この子はっ、地球本星歴にして二百三十三年前の八月二十五日に、完全生産停止とされたっ、その名も高き『ゴールドマン・V‐一〇〇七四式』ですわっ!」

 興奮して、耳まで真っ赤に上気しているユキとの温度差が激しいマコト。

「そうなの?」

「そうですわっ♪ 私も、データでしか閲覧した経験の無い、ビンテージ・ドロイド中のビンテージ・ドロイドですわっ♪ それがこのようにっ…実物と対面をさせて戴いているだけでなく…現役として可動されているなんて…ああぁ♡」

 まさしく、無垢なお姫様が何かに騙されて、身も心も蕩ける程の想いに身を焼かれている、みたいなメカヲタっぷりであった。

「このようなホテルを予約して下さるなんて…アリヤ捜査官とは、なんとメカ愛に対して深くご理解をされている方でしょうか…♪」

「………」

 目の前で、アリヤ捜査官を絶賛するユキが、マコトには、なんだか面白くないように感じられる。

「部屋へ 行くよ」

「はぁい♪ マコト…?」

 マコトとしては、モヤモヤする感情を隠しているつもりだけど、ユキは、マコトが何かに怒っている事を、気付いていた。

 ホテル内の通路は、やはり薄暗くてやや狭く、マコトとユキは、ツルツルな剥き出し肩が触れ合う感じで、部屋を探す。

「ナンバーは 〇一〇二。ここだね」

 通路の最奥部屋の、一つ手前。

 扉はシックな色合いで、取っ手は金色だった。

 二人が公務で泊まるホテルとはいえ、公務員が使う全ての経費は、税金である。

 今回のホテルも、出来るだけ安く、しかし不自然にならないよう、一般的な旅行客に比して結構安め、くらいで設定をされている筈だ。

「値段に見合った感じ なのかな」

 フロントで受け取ったカード・キーを差し込んで、少し重たい扉を開けて、室内を伺う。

 天井の室内灯が桃色でやや暗く、部屋は狭いけれど、シンプルで機能的だと、二人は感じた。

「へぇ…丸いベッドって、初めて見たね」

「はい。それに、室内はベッドと小さな冷蔵庫と…まあ、マコト 向かいの壁をご覧になって」

 言われて、見ると、ベッドの枕側の壁一面が、鏡張り。

 壁へ向かうと、二人とも全身が足下まで映っていた。

「あ、解りましたわ♪ これは 姿見なのですわ♪」

「なるほど。たしかに 全身がチェック出来るものね」

 更に室内を見回すと、シャワー室とトイレがあって、それらの壁は完全にクリア素材である。

「シャワーもトイレも、壁は遮光に出来ないタイプなんだ。珍しいね」

 スイッチ類を探すけれど、シャワーの湯や温度調整や、トイレの排水用しか、見当たらなかった。

「ふむむ…」

 メカヲタクの血が騒ぐのか、ユキはイマイチ理解出来ないシステムを究明しようと、愛顔も悩ましげに考える。

「あ、私 解りましたわ♪ きっとこのお部屋は、少人数の家族用のお部屋 なのですわ♪」

「少人数? パパとママと子供 みたいな?」

「はい♪ シャワーやトイレの壁がクリアーなのも、一人でトイレをするようになった小さなお子様を、ご両親が見守られる為なのですわ♪」

 愛らしいお姫様フェイスで自信満々に言われると、マコトもそう思えてきた。

「そういうニーズもあるって 確かに聞くものね」

 ナゾが解けた処で、マコトは、ユキが忘れている事実を指摘する。

「ユキ、シャワー 浴びないと。お顔が 機械の油で汚れているよ」

 オシャレに明るいユキだけど、メカの事となると、全てを忘れてしまう。

 今も、新型捜査ドローンを製作した満足感で、ほっぺたの僅かな機械油汚れとかが、そのままであった。

「まあ、すっかり忘れておりましたわ」

 荷物を床へ置いた二人は、脱衣室の無い部屋で全裸になって、シャワー室へ。

「やっぱり、手狭ですわ♪」

「そうだね」

 起伏に恵まれた美少女二人が一緒に入ると、お尻やバストが触れ合ったり、クリアな壁へ押しつけてしまったり。

「マコト、お背中を お流しいたしますわ♪」

「え、ぁ、ぅん…」

 自分でもよくわからないモヤモヤで、いつものユキの行為なのに、なんだか遠慮をしてしまう。

 白い背中を、泡で優しく撫でる、ユキの小さな手の平。

 子供の頃から、洗浄時に二人ともタオルは使用しないので、柔らかい指やプニプニの掌が、背中を滑ってくすぐったかったり。

「~♪」

 パートナーの背中を流すユキは鼻歌交じりで、黙って従うマコトへも、なんだか楽しげでもあった。


「サッパリと いたしましたわ♪」

「ね」

 ユキの油汚れも二人の全身も、綺麗サッパリ流し終えて、ユキ曰く全身姿見を前に、乳液などでお肌のお手入れ。

「冷蔵庫のドリンク、少し 割高な感じだけど」

 飲むか尋ねると、ユキは笑顔で応えた。

 いつもの習慣で、二人は裸身のまま、ベッドへ転がる。

 仰向けで晒されるマコトの大きな双乳がプルっと揺れて、ヒジをついた俯せなユキの丸尻がフルルんと揺れた。

 マコトが、明日の予定を確認し始めると、ベッドに異変が。

「明日のお昼には、アリヤ捜査官から連絡が来る――あれ?」

「あらあら?」

 二人の体重を感知したベッドが、ユックリと時計回りで、回転を始める。

 天井のライトも更に薄暗くなって、ミラーボールのような虹色の小さな光が、壁を照らしながら反時計回りで回転をしていた。

「ベッドが回っているのって これも仕様なのかな?」

「私、赤ちゃん用の メリーゴーラウンドを 思い出しましたわ♪」

 赤ちゃんのベッドに吊す、回転式のオモチャだ。

「ああ、なるほど」

 納得をした裸のマコトへ、ユキが裸身を寄せて、抱き占める。

「ユキ?」

 そんな行為だけで、マコトの中のモヤモヤが、サァ…と晴れていった。

「マコト…ふふ…♡」

「…ぅん…」

 アリヤ捜査官とのヲタク談義など、マコトがなんだかモヤモヤしていた感情を、ユキは感じ取っていたのだろう。

 シャワーで背中を流してくれたり、躊躇いなく自ら素肌を密着させるユキが、いつもより愛おしく感じるマコトだった。


                    ~第二十一話 終わり~

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