☆第十九話 初上陸☆


 更に数日間の銀河クルーズを過ごし、大型旅客航宙船セカンド・タカラブネ号は、地球太陽系脱出後にしてピーリンカ太陽系に属する最初の寄港惑星ピーリンカのステーション「ピーリンカル・アーカ」へと、定刻通りの到着をする。

 ピーリンカ太陽系は、地球人類が外宇宙へと進出を開始して最初に直視をした記念すべき太陽系であり、同時に人類初の居住可能な惑星でもあった。

「さぁーっ♪ 三日間のお休みナナーっ♪」

「タップリ遊ぶジャキ~♪」

 とワクワク顔なお姉さま方は、ステーションへ接続をした旅客船から惑星上へと、遊びに出掛ける計画である。

 クルーズ船は、それぞれの寄港惑星ごとに、数日間の停泊をする。

 旅行のメニューとしては惑星観光であり、観光コースも設定されているけれど、殆どの富豪たちは、休暇というより商談が目的だったりする。

「マコト、私たちも まずは下船を致しましょう♪」

「うん」

 休日でステーションへと降りるマコトとユキは、地球本星のステーションで乗船をした際の、大胆な上下ミニのコーディネイト姿だ。

 白い首も艶めく肩も深い谷間も、引き締まったお腹も括れたウエストも、更にムッチリパツパツと張りのある腿も、全てが剥き出し。

 布面席も小さくて、恵まれたプロポーションを、よりピチピチに引き立てていた。

「やっぱり ちょっと大胆じゃない?」

「正式スーツよりは 控えめですわ♪」

「…そうだね」

 大きな船体を横付けにして、ステーションとはチューブで繋がって接岸をしている豪華客船は、宇宙航行用のエンジンだけを停止していて、船体視認用などの各コーション・ライトは煌びやかに輝いていた。

 必要最低限の動力のみを動かし停泊をしているセカンド・タカラブネ号は、船体のチェックや物資の補充だけでなく、乗員たちの休息という意味もある。

「あら~、マコちゃんもユキちゃんも 遊びツノ~?」

 同室のツインホが、残念そうに尋ねて来た。

 潜入捜査中である二人の目的は、当然ながら観光やバカンス等ではなく、極秘捜査に関する新たな準備である。

 なので当たり前に、正直に返答をするワケにはゆかない。

「はい。ピーリンカ・リングというお菓子が 有名との事ですので」

 食べる事も作る事も好きなマコトとしては、半分は事実であるので、心も少しだけの傷みで済む。

「ギョギョっ。ユキっちも 遊びですか?」

「はい♪ 大切なお相手と デートなのです♪」

「かち。アラマァ…仲ノ宜ロシイ事ネ♪」

 三人は、ユキのデート相手がマコトだと考え、ニヤニヤしている。

(…まあ、いいかな)

 ユキの言う大切なお相手とは、当然、離ればなれで一人旅をして寄港している専用航宙船ホワイト・フロール号だ。

 そしてデートとは、久しぶりにお船に会える、という意味である。

「お姉さま方は、上陸をされないのですか?」

「うっふっふう~♪」

 マコトの問いに、意味ありげで微笑む三人娘。

「あたしたちはぁ~、助っ人組ツノ~♪」

 助っ人組とは、コンパニオンに対して船側が募集をする、自発的なお手伝い要員の事である。

 船が停泊をしている間、船内での遊興は一時閉館され、旅行客はステーションや惑星で過ごす事が基本だ。

 しかし乗客の中には、それでも船内でノンビリダラダラ過ごしたいというリクエストもある。

 なので船側としては、食事やお酒やムービーなど、健全なサービスを提供するメニューも用意していた。

「そのお手伝い というお仕事なのですか」

「かち。ソゥ♪ コウイウ時ッテ…♪」

 ソフティはウインクをくれながら、右手の指で円形をつくる。

 つまり、時間外手当てがそれなりに良いのだ。

「なるほど」

 助っ人組は同室の三人だけでなく、全コンパニオンの二割ほどが立候補をして、競争倍率も高かったのだとか。

「だからツノ~♪ 私たち~、三人とも選ばれて 良かったツノよ~♪」

 助っ人組の美味しい点は、給料の上乗せだけではないらしい。

「ほら~♪ なんだかんだで~、お客様たちも、退屈でツノ~?」

 旅行先で、必要以上に部屋から出ないとか観光をしないのは、いつの時代も殆どが男性だという。

 そして、そんな男性たちもやはり、クルーズには開放感を求めるモノなのだとか。

「? いわゆる、その…んん…か、紙マッチ…の ぉお話ですか?」

 マコト的にも、そのものズバりを尋ねるのはやはり恥ずかしいから、珍しくドモってしまい、そんなパートナーの様子に、ついユキも微笑んだり。

「ん~♪ って、言うよりもツノね~♪」

 ツインホたちは肯定しながら、二人にヒソヒソと、耳打ちで教えてくれた。

「普段ならね~、紙マッチは お客様一人が一晩で一人指名~、っていうルールなんだけどツノォ~♪」

「ギョギョっ。助っ人組の場合はですね、お客様お一人が一晩につき、ですね…♪」

「かちり。複数人ヘノ指名モ、暗ニ 認メラレテイルノヨ♪」

 と、イタズラっぽくウインクをくれる、お姉さま方。

 助っ人組の真相に、マコトもユキも、絶句をする。

「…え」

「それは、つまり…」

 一人の富豪を相手に、複数人の女性が、同時にベッドでデートをする。

 しかもメンバーは、富豪の指名次第。

 つまりお姉さま方で言えば、ツインホとリュグとソフティの三人で、一人の富豪と一夜を共にする。

 という可能性もあるのだ。

「…という お話 ですよね」

「うふふツノ♡」

 正解らしいけれど、精神的な夫婦としての生活や行動はともかく、夜の行為や、そもそも自覚のないマコトとユキの頭には、三人の関係性に「?」が浮かんでしまう。

 特に、女性三人で一人の男性と関係を持つ。

 というあたり。

「不思議ツノ~? ふふふ♪」

 ナゾの微笑みをくれる三人は、手を振りながら、マコトたちを送り出してくれた。

「…ユキ わかる?」

 と振ってみて、ユキは、余り自信の無い笑顔で。

「その…なんとなく、では ありますけれど…」

 と、頬を染めて恥ずかしそうに、俯いてしまった。


 ステーションの入港ゲートを通った二人は、商船用の停泊ブロックへと移動。

 第一番から第百三十番までの、各航宙船の停泊エリアを、ステーション内専用のエレカで走る。

「第三十五番の船着き場 だっけ」

「はい。まあ、おられましてよ♪」

 目的のゲートへ到着をすると、商社マンに偽装をした、現地捜査官の男性が待っていた。

「ご苦労様です」

「ご苦労様です♪」

「え…あ、ど、どうも。現地捜査官のアリャハリャハ・ソリャハリャハです」

 二人よりも頭一つ分は高身長な、若くて面立ちの整った少し年上の男性捜査官は、少々ドモりながら自己紹介をくれる。

 アリャハリャハ捜査官、通称アリヤ捜査官は、特に新人ではない。

 なれど、銀河に轟く美貌のケモ耳美少女捜査官が、色々と大胆な衣装でやって来たのだから、ドモったのも無理はなかった。

「どうも」

 マコトにもユキにも慣れた反応であり、笑顔で握手を差し出す。

「ど、どうも…」

 またドモってしまったのは、中性的な王子様の如き美顔のマコトも、無垢なお姫様のような媚顔のユキも、その笑顔がナチュラルに高貴で眩しく、しかも無自覚に男性の性的欲求まで刺激をしてきたからである。

 顔が赤く染まって緊張しつつ、アリヤ捜査官はそれぞれの美少女捜査官と握手をしながら生体認証装置で、そしてお互いに相手が偽物でない事を確かめた。

「確認が取れました。お疲れ様です、ユニット・ホワイトフロール」

 小声で敬意を伝えながら、仕草は商業関係者ぜんと、胸を張るアリヤ捜査官。

「お船へ ご案内を、お願い出来ますでしょうか?」

「は、はい。こちらです」

 ゲートのキーを開けてくれた捜査官は、無重力となる乗船チューブへと先に乗って、二人を導く。

 今回の潜入捜査では、万が一の事態に備えて二人の専用航宙船も待機しているので、各停泊ステーションにて、現地の捜査官による協力態勢が敷かれていた。

 コンテナ船のカバーで偽装をした白銀の白鳥は、中流の富豪が中古の貨物船を購入して新事業を始める為の、船体航行チェックという設定である。

 透明なチューブを通って船体格納ブロックの扉を潜ると、四角くて暗色系で更に味気も無い、目立たない偽装に包まれた中型船が停泊をしていた。

「ああぁ…♡ 私の白鳥ちゃん…っ♪」

「違うけれどね」

 中身を知っているから、ユキは無重力を良い事に、船までジャンプ。

 特種捜査官に与えられた専用航宙船とはいえ、公僕である以上、その装備一斎は地球連邦から貸与されている、いわば税金の塊である。

 メカヲタクなユキが好き勝手に改造しまくって、二人のモチベーションを理解しているクロスマン主任が許してくれているだけであって、決してユキの私物などではない。

「中身、ご覧には なれませんでしたでしょう?」

 マコトが、申し訳なさそうに尋ねると、やはり予想していた答えが返ってくる。

「はい。ロックが厳重なのか、あるいは キー・コマンドに不具合が生じてしまった影響なのか…ぁあれ?」

 説明をしているアリヤ捜査官の目の前で、ユキは鼻歌交じりで、乗降ロックを解除。

「白鳥ちゃ~ん♡ 寂しかったですわよね~♪」


                    ~第十九話 終わり~

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