☆第十八話 お皿に乗って☆


「「それじゃあ、頑張ってください!」」

「ありがとうございます」

「行って参ります♪」

 担当さんズに見送られて、マコトとユキはディッシュの上で仰向けヌードとなって、カジノフロアへと出勤をしてゆく。

「この姿でお見送りをされるのも、なんだか おかしな気分だよね」

「担当さんのお二方、マコトの艶姿に 視線を奪われておりましたわ♪」

「ユキも見てたよ、あの人たち」

 やや薄暗い、アングラな雰囲気に包まれたカジノ会場へ入ると、裸の美少女を乗せた反重力ディッシュは、人々の間をユックリと進み始める。

 床からの高さを一メートル程に安定させつつ、富豪たちへ自らの存在をアピールするように、優しく控えめながら、淡く目立つ色合いのライトをチカチカ。

(そんな集客とかしなくても…)

 まるで、自ら裸身を宣伝して廻っているストリーキングみたいな気分だ。

 会場はとても広いので、ユキのディッシュとは早々にルートを変更させたらしく、もはや同じく裸体を誇示させられているパートナーの姿は、見られない。

 ほんの数秒と進んだ頃に、富豪たちが、裸身ディッシュに気がついた。

「…ほほぉ」

 軽い驚きと同時に、女性の裸を見て、フ…と笑顔になる。

「………」

 三人ほどの初老男性にヌードを見られ、しかし隠す事は非礼にあたるので、出来ない。

 反重力ディッシュに飾られた無垢な女体は、高貴な美顔と細い首筋、滑らかな肩から平均的だけど鍛えられて引き締まった上半身と、上向きでも形を崩さない双つの白い柔球体を、誇示して魅せている。

 細く括れたウエストや縦長のヘソと、優しく拡がりながら引き締まった裸腰の、スベスベな下腹部が、より男性の視線を惹き付けていた。

 カクテル・グラスに隠された秘処や、グラスを挟んでニュっと伸びる、ムチムチな左右の艶腿。

 引き締まる膝から緩やかなカーブを描いて細い足首へと繋がる、滑らかな美脚のシルエット。

 小さな脚の指が、モジモジとうごめいて、恥ずかしさを隠せずにいた。

 薄暗いカジノの空間でも、白い美裸身が輝いて見えて、女性慣れをしている富豪たちの目に、銀河でも指折りな裸体観賞を提供していた。

(まったく…)

 世の男性はナゼこうも、女性の裸を見たがるのか。

 しかもマコトたちの知る限り、グラビアやムービーやストリップやヌード・ダンスなどなど、女性の裸を楽しむ為の手法に関して、驚く程の発想力だ

 今だって、マコトだけでなくきっとユキも、富豪たちに囲まれて隠せない裸体を観賞されているだろう。

「戴くよ」

 一人の男性が、巨乳先端を隠すクラッカーを、ソっと摘む。

(…っ!)

 女性の本能として「クラッカーでイタズラをされる」と警戒をしたら、紳士の指やクラッカーは、桃色の媚突へは全く触れず。

(………っ!)

 イタズラをされなかった事にホっとしたものの、束の間も於かずに、クラッカーがカクテル・グラスへと伸ばされ、クリームを掬い取られた。

「………っ!」

 クリアになったグラス越しで、秘めやかに閉じられた清純な桃色一筋を、見られてしまう。

 恥ずかしさにうなじまで上気をして、中性的な王子様の如く美顔が、羞恥で悩ましく染められる。

(…もう…っ!)

 桃色媚突は弄ばれなかったけれど、最も大切に秘めたい処は、数瞬とはいえ男性たちに観賞をされているのだから、恥ずかしい事に違いは無かった。

「私も、宜しいですかな?」

 別の富豪に囁かれて、マコトはハっと思い出す。

(そうだった…クラッカーと、クリームを…っ!)

 左右の桃色な先端も、ピタりと合わさった柔肉も、男性たちにジっと公開をしてしまっていた。

 マコトはやや慌てた指操作で、新しいクラッカーを射出して、新しいクリームで小さなグラスを満たす。

「ありがとう」

 男性は、やはり指先やクラッカーで女体を弄ぶ事をせず、クリームを付けると僅かに視線を注いだだけで、賭け事へと戻って行った。

 そしてまたすぐに、別な男性がクラッカーを手にしてクリームを付け、僅かに裸身観賞を楽しまれる。

 という流れが、十数人ほど続いた、マコトとユキだ。

「………」

 この数分で、想った事。

(…たしかに、紙マッチは戴かなくて 済んでいるけれど…)

 トップレス・スーツ以上に裸身を晒し、僅かな時間とはいえ大切な秘処も見られてる、ディッシュのお仕事。

 マコトたちも捜査官の歴史書で知った、太古の地球本星にて一部の好趣家たちに喜ばれた伝説の遊興「女体盛り」を、想像させられる。

(それに、よく考えると だけれど…)

 紙マッチでのデートの申し込みを最初からお断りする代わりに、裸身を魅せて許しを請うているような、軽く屈辱的な気持ちもしていた。

 とはいえ、ただ裸で寝ているだけでお給料が戴けるのだから、人によっては夢のようなお仕事だろう。

(とにかく、これも潜入捜査…!)

 そう思い直し、マコトとユキは、皿の上の裸美女を努めた。


「「いやぁ二人とも、凄く好評ですよ!」」

 一日のコンパニオン業務を終えると、担当さんズが、とても嬉しそうにハモって褒めてくれる。

「どぅも」

「お喜び戴けて、光栄ですわ♪」

 裸を晒して大好評という評価に、マコトは言葉も無く、ユキは素直に喜んだ。

「ギョギョっ。二人とも、新しいサービスだったですね」

「かちり。トテモ素敵ナ 会場廻リネ♪」

「恥ずかしかったですよ」

 部屋へ戻って大浴場で汗を洗い流しながら、別室のお姉さま方からも、好評を得る二人。

「ねえねえ、あれって どういうサービスなの?」

「私も聞いたよ~。トップレスよりも、脱いでるんだって~?」

 別の時間帯のコンパニオンたちへも、既に情報が届いていたようだ。

「なんとお伝え致しましょうか…そうです、伝承に聞く旧世紀の『女体盛り』のような サービスでした♪」

「「「女体盛り~?」」」

 メカに明るいユキの説明を聞いて、中には自分もそのサービスが良いと考えるコンパニオンたちが、数名だけどいる。

「わたしも、紙マッチのお誘いを断るの 気持ち的にちょっと…って感じなのよね」

「わかるわよ。無理なんだけど、断るのも悪い気がしててー」

 コンパニオンたちも、それぞれ色々な考えがあるのだ。

「それなら、担当さんの話してみるのも 良いのでは。あのサービスは、この船では今回が初めてで、ボクたちは実験のような感じでしたし。評判は悪くないようでしたので、希望者がいると解れば 担当さんたちも聞いてくれると想います」

「そうよね~♪」

「私も、頼んでみようかな♪」

「あたしはっ、何としても紙マッチを…っ!」

 燃えるコンパニオンたちの野望も、それぞれだった。


 ここ数日のコンパニオン業で、マコトとユキが感じたのは、乗務員たちの、いかにも怪しげの無い対応である。

「担当さんとか、みんな普通に、コンパニオンさんたちを気遣ってくれているよね」

「はい。私も、そう感じておりますわ。いわゆる 過剰な労働を強いる違法な組織…という対応は、全く見られませんもの」

 休日のプールで、マコトとユキはビキニ姿で寛ぐ姿勢のまま、小声で話していた。

 労働が、一日に休みなしでの約九時間とはいえ、二日こなせば次の二十四時間は休暇だったり、浴室や遊興などにも配慮がある。

 これで時給が異様に安かったりする事もなく、富豪たちが相手のクルーズだから、ツインホたちのような売り出し中の女性たちにも、掴めるチャンスがある。

「普通に 真っ当なクルーズ船だよね。表向きとの印象としては だけど」

「はい。考え方ではありますけれど、それだけに 裏の業務に関しての疑惑を覚えられ辛い、とも…」

「うん」

 事実、潜入捜査をしているマコトとユキでさえも、密輸をしているという情報に、早く証拠を得なければという、焦りのような気分も出ていた。

 毎晩のドローンたちによる調査結果も、船体の構造には、特別怪しい箇所はなし。

「やっぱり 逆に常套手段だけど、船倉かな」

「私も、もはや船倉しかありえないのでは。と、考えておりますわ」

 二人が最初に目を付けた、密輸品の隠し場所としての倉庫ブロックだけど、電気系統などが不思議と別設計されていて、ドローンたちが調査できる行動範囲外にもなっていた。

 さりとて、コンパニオンの居住ブロックとも離れていて、二人がその身で近づく事も出来ない。

「どうすれば 宜しいでしょうか…?」

 メカ意外に関して、ユキはマコトの指示に従う。

「うん。もうすぐ 最初の寄港ステーションだよね」

 言いながら、マコトは美しい中性美顔を、自信タップリの笑顔で輝かせる。

「はい♪」

 パートナーの微笑みに、ユキは捜査の進展を確信して、お姫様のような媚顔を微笑みで輝かせた。

「ステーションには 白鳥が先に到着しているタイミング。なんだよね?」

「はい♪ 私の白鳥ちゃんと再会出来る事が、楽しみでなりませんですわ♪」

 二人の専用航宙船である、白鳥を模した白銀の船内には、ユキの工作道具などが、当たり前に積み込まれている。

「寄港をしたら、コンパニオンたちにも 休憩とか惑星上陸の許可が出るから。ユキにはそこで ちょっとした工作をして貰う事になるかな」

 その言葉だけで、ユキには、マコトの考えが解った。


                    ~第十八話 終わり~

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