☆第十七話 富豪たちの気分を害さずに紙マッチを断る方法☆


 翌日、マコトたち第三班は、カジノブロックを担当する夜番が回ってきた。

「また 紙マッチを断らないとね」

「それだけ 好意を寄せて戴いている事は、理解してはおりますけれど…」

 男性経験どころか、異性とデートすら経験の無いマコトとユキにとって、富豪たちとの夜のデートなど、想像も出来ない。

 対して、お姉さま方モデル・コンパニオンたちは、チャンスを掴む為にと、やる気も満々であった。

 ステージなどの清掃も、お姉さまたちは鼻歌交じりで、ノリノリである。

 いつも通りのトップレス衣装で、マコトの美顔もユキの愛顔も美しく愛らしく曇ってしまっていると、ハモる担当さんズから、声をかけられた。

「「二人とも、ちょっと良いですか?」」

「「はい」」

 男性担当者の声も固く、なんだかクロスマン主任のお説教を思い出したり。

(…まあ、主任の圧に比べたら)

(そよ風ですわ)

 そういった意味での恐怖は無いものの、別の心配は、してしまう。

(…お断りしてばかりだから お客様の評判が悪い…とか)

(…今夜からは 応じるように。とか…)

 お互いへの目配せで、そんな不安を想像し合ってしまっていた。

 もし、強制的に富豪とのデートをさせられるのなら、清純少女たちとしては絶対に無理。

 とはいえ、万が一にもそれが原因でコンパニオンを首になって、自室待機の後に次のステーションで強制下船にでもさせられてしまったら、潜入捜査は失敗である。

((………))

 どうしたものかと、二人で頑張って考えるものの、当然の如く、なかなか良いアイディアも出てこない。

 そんな間に、カジノの裏方へ連れられた二人へ、振り向いた担当さんズが、綺麗にハモりつつ少し秘めた声で、話してきた。

「「キミたち、紙マッチを断っているんですよね?」」

 来た。

 と想い、出来るだけ現状維持を考えて、返答を試みる。

「…はい」

「…えぇ」

 任務失敗とか、無理矢理デートをさせられるとか考えると、自然と返答も控えめとなるマコトとユキ。

「「ならばクビかデートか、二択を今すぐ、好きな方を選ぶんだ」」

 などと選択を迫られるかと想ったら、担当さんズは、予想外な提案をしてきた。

「「ふむ、なるほど…。では今夜から二人とも、今回のクルーズから採用された『クラッカー・ディッシュ』を、担当してみますか?」」

「「クラッカー・ディッシュ…?」ですの…?」

 共に初めて聞いた仕事であり、つい、お互いに見合ってしまう。

「「ああ、知らないですよね。クラッカー・ディッシュというのは…簡単に言うと、コレまでのようなトレイでのサービスではなく、クラッカーのみのディッシュでサービスをする仕事の事です。見た目にも紙マッチを携帯していないから、お客様にも『デートお断りのコンパニオン』だと、一目でわかるんですよ。どうですか?」」

 しかもコレまで通り、コンパニオンへのタッチも禁止など、仕事上のルールも守られているという。

 そんな好都合な仕事があるなんて。

 マコトとユキは想わず見合って、笑顔で頷き合って、了解の返答をする。

「有り難う御座います。ぜひ」

「クラッカー・ディッシュを 努めさせて戴ければ♪」

 マコトの中性的な王子様みたいに美しい笑顔が、ユキの純粋無垢で優しいお姫様のような愛らしい笑顔が、喜びでパァ…と一際輝く。

「「――っ! …あ、あぁ…」」

 乗船時より、二人を一際綺麗で可愛いと感じていた男性担当者さんたちは、マコトとユキの笑顔に、想わず意識が釘付けにされていた。

「…担当さん?」

「どうか なされましたのですか?」

「「――ハっ! そ、それじゃぁそのっ、コッチへ…」」

 美顔と愛顔に、つい惚けた担当さんズを心配をしてくれた二人の声で、色違いな双子のような担当さんたちは我に返って、二人を準備室へと先導した。


「……はぁ」

「……ふぅ」

 準備室にて、クラッカー・ディッシュの仕事内容を聞いたマコトとユキは、後悔というか、予想に反するその内容に、アンニュイな溜息を零してしまう。

「クラッカー・ディッシュ ね」

「伺った時点で 気が付くベキでしたわ」

 準備室で、全ての衣装パーツを脱衣したマコトとユキは、アクセサリーに偽装をした最低限度の機器のみを着けた、ほぼ全裸の姿だ。

「このマシーンが、女性が乗る 所謂ディッシュですわ♪ 説明書は…あ、こちらですわ♪」

 目の前には、長さ二メートル強ほどの、反重力サーフボードのようなビークルが浮かんでいて、つまりこれが「ディッシュ」に相当するパーツ。

 細長い先端部分の一方には、人目を引く派手な色使いの小さなライトが付いていて、反対側には豪華で美しい造花が散りばめられている。

 部屋の壁沿いには長いテーブルが設置されていて、デジタル・ペーパー式の取扱説明書が、用意してあった。

 ユキが心底から楽しそうに、初めて見るメカの説明書を、閲覧開始。

 デジタル・ペーパーの表面に映し出される説明動画を、ユキは指操作で飛ばしながら、速読の如く読み進めていった。

「…なるほどですわ♪」

 機器に対する基本的な知識があるメカヲタクにとっては、説明書の殆どは読まなくても推測が出来るうえ、初めて見た操作系なども、ほぼ想像と合致していた様子。

「理解が出来ましたわ♪ マコト、ディッシュの上へ、そちらのお花に頭を向けて、仰向け姿勢で横になって下さいな♪」

「こうするの?」

 ヌードのユキに言われるまま、全裸のマコトは、ディッシュの上で仰向けとなる。

「ええ。両腕は 頭の上ですわ」

 メカに明るいユキから教わるために、マコトはユキの言うままに、ディッシュの上へと美しく官能的に、収まった。

 縦に長い楕円形なディッシュに合わせて、ヌードのマコトが両腕を頭の方へと上げた姿勢で、仰向け状態。

「なんだか、まな板の上の鯉 みたいな気持ちだけれど」

 ディッシュそのものは虹色に淡い光を走らせていて、バスト位置に左右から、薄い何かを排出するスリットが設置されている。

 両腿の間というか股の付け根というか、裸腰の秘めたい箇所には、ディッシュから伸びるように、小さなカクテル・グラス形の、透明な容器が設置してあった。

「それで 頭の上に、ディッシュのスイッチが二つ、ありますでしょう?」

「ええと…これ?」

 マコトの手探りで、確かに二つのボタンが、左右の人差し指へと触れる。

「右掌の人差し指で、ボタンへ 軽いタッチをして下さいな」

「こう? わ」

 タッチ式のスイッチへ、人差し指で軽く触れると「ポン」と小さくて優しい射出音と共に胸部左右のスリットから、小さくて温かい出来たてのクラッカーが、ユックリと排出をされた。

「…このクラッカーが、バストのトップを 隠してくれる仕組み?」

 位置的にも、そこで止まっている。

「はい。次に、左側のスイッチを タッチして下さいな♪」

「うん」

 最初のタッチでトップレスから解放されたので、次は何かと期待をしたら、ある意味で案の定、最も秘めたい箇所のカクテル・グラスへと、白い粘体が湧いて満たされる。

「? なにか、甘くて良い香りがするのだけれけど…?」

 天井向きなマコトには、解らなかったけれど。

「マコトの大切な処が、クラッカー用のクリームで 隠されてしまいましたわ♪」

「えー…」

 腿の付け根に挟まれるような位置のカクテル・グラスに、ディッシュから供給されるクリームが満たされる事で、秘処が隠れる。

 というシステムらしい。

 カクテル・クリームも、酸味より甘味の香りを優先しているのは、女性の裸身を甘く魅惑的に演出をする為なのだろう。

 ユキが左右のクラッカーを摘むと、取り出し口でサクっと剥がれて、マコトの処女桃色な先端媚突が露わとなる。

「あ…」

「このように お客様がラッカーを手にされたら、再び 右側のスイッチへ触れてくださいな♪」

 言われてタッチをしたら、再び焼きたてのクラッカーがユルユルと出てきて、媚突を隠す位置で停止。

「それで」

 ユキの指で取り外されたクラッカーで、裸腰のカクテル・グラスのクリームを掬われると、粘体を失った容器のクリア部分だけが、マコトの秘処を覗かせていた。

 左のスイッチへタッチをしたら、減った分だけクリームが追加をされて、また処女秘処を隠してくれる。

「という仕組みですわ♪」

 説明を終えたユキが、楽しそうにクラッカーを一つ戴いて、マコトは呆れたり。

「…こんな事をさせてまで、女性の恥ずかしい姿を 見たいのかな…?」

「ご覧になりたいのでしょう♪ はい、ア~ン♪」

 美しくアンニュイな悩めるフェイスのパートナーへ、ユキは愛らしい笑顔で、クリームを乗せたクラッカーを差し出した。

「あむ…美味しいけれど」

 温度を維持された焼きたてクラッカーと、甘さがくどくなくて香りも良いクリームが、無駄に絶妙な感じ。

「このディッシュちゃんは、どうやら オートで会場を廻ってくれるようですわ。とても愛らしいです♪」

 こういったドロイドがユキの好みである事は、終始輝く様な笑顔の説明がなくとも、マコトには想像が出来ていた。

「それでは、私も準備を致しますわ♪」


                    ~第十七話 終わり~

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