☆第十四話 コンパニオンの夜☆
捜査機器の設置もシャワーも終えると、二人は無意識に、裸のままベッドへと戻ってしまっていた。
「…あ」
「あら」
この船のシャワールームが、二人の住む捜査官用の寮のシャワー室と似ているワケではないけれど、完全に別な作りの部屋へ戻った事で、逆に日常的な裸だと気が付いたのである。
「やっちゃったね」
「習慣とは 恐ろしいものですわ」
などと反省をしながらも、着替えのショーツなどは、やはりいつも通りなベッドの上なので、マコトもユキも、水滴を拭った裸身のままベッドへと戻った。
「そういえば、明日はボクたち 休日なんだよね」
「そうですわ♪ 丸々二十四時間 自由時間と伺ってますわ♪」
休日前夜という意味では、気分もワクワクしてくる。
とはいえ、果たして航宙客船のコンパニオンたちに、楽しめるような場所があるのだろうか。
「部屋で寝てるしか ないかなー」
「うふふ♪」
マコトの呟きに、ユキは一段目のベッドから愛顔を覗かせながら、イタズラっぽい笑顔を魅せてくる。
その笑顔は、既に楽しむ目的を見つけているという輝きだ。
「? なにか あるの?」
「このお船には、コンパニオンやステージ・エンターティナー用の 娯楽設備も用意されておりますわ♪」
「そうなんた」
潜入捜査に関しての情報を特に重要視していたマコトを良く理解して、どちらかと言えば娯楽関係を調べていたユキ。
「ここのお船は、なかなかに充実した娯楽を 用意して下さっておりますわ♪」
休日を楽しもうと笑顔を輝かせながら、ユキは裸のまま、二段目のベッドへと上がって来た。
「ご覧下さいな♪」
食堂へ行った際に、ユキはデジタル・ペーパーのデータを、リングへと読み込ませていたらしい。
まるで使い慣れた自分のシステムみたいに、ベッドのディスプレイへ鼻歌交じりで接続をすると、この船の娯楽情報が映し出された。
「…なるほど」
データには、クルーズ客である富豪用の娯楽だけでなく、ゲストやコンパニオン、船の関係者たちが利用可能な娯楽設備が、閲覧出来た。
「富豪のお客様方の娯楽としては、私たちが接客をするカジノや劇場やステージ等の室内娯楽の他にも、銀河を見上げるプールやサイクリング・コースなどがありましたわ♪」
「宇宙船の中に サイクリング・コース…凄いね」
ステージへ上がるゲストたちにも、少人数用のシアターやアミューズメント、バーやフィットネスなどなど。
「こちらの娯楽施設でしたら、私たちコンパニオンにも 利用可能でしてよ♪」
一通りの説明を受けて、マコトは応える。
「なるほど…それで、ユキはプールに行きたいんだ」
「ご名答ですわ♪」
パートナーの考えは、ほぼ解るマコトであった。
なんであれ、広いとはいえ豪華客船という、閉鎖空間でもある。
人類には未だ認識しをきれない程に超広大な宇宙空間とかを想像すると、人によっては惑星を離れた恐怖感でパニックを起こしてしまうことも、極めて稀だけど事案はある。
なので、富豪用のプールもだけど、広い空間であればこそ、窓や壁や床などの空間には立体映像や香りなどで、惑星上と酷似した空間を演出する設備も常設されているのだ。
「ユキとしては、広い草原のプールとか 入りたいのでしょう?」
「はい♪ マコトも、森林の湖など、楽しみたいでしょう?」
「そうだね」
パートナーの好みや考えを理解しているのは、ユキも一緒である。
「あ、でもユキ。水着 持ってきてないよ?」
出発前に、ユキが詰め込んでいた荷物には、下着はともかく水着は無かった。
「大丈夫ですわ♪ お化粧品などもですが、それぞれの娯楽施設で 色々と購入が可能ですもの♪」
「そう」
水着が買える事に、ホっとしているマコト。
理由は、もし購入出来なくても、ユキはプールを楽しみたいだろうし、その為ならヌードでダイビングする事も、きっと厭わない。
そして巻き込まれるのは、やはりマコトだからだ。
いつものような会話をしていると、やや違和感があったとしても、無意識に普段通りの行動をしてしまう。
「とにかくですわ♪ 船内捜査の ネズミちゃんたちからの報告も、明日の夜ですし♪ 明日はノンビリ お仕事の疲労を解消いたしましょう♪」
無垢なお姫様が、翌日のピクニックを心の底から楽しみにしているような愛らしい笑顔で、ユキがマコトのベッドでタオルケットへと、くるまった。
「まあ、コンパニオンとか 初めての仕事だからね」
一日八時間とはいえ、ほぼ休憩なし食事なしで接客をし続けるのは、肉体的にも精神的にもかなりの重労働である。
そして休む事も、任務を続行させる為には大切だ。
中性的な美しい王子様が、愛しい姫のワガママを受け入れるかのように、落ち着いた心持ちなマコトの美顔も、ユキの乙女心をドキドキさせていた。
「うふふ♡」
ベッドで一緒にくるまると、いつも通りの安心感で、ウトウトとしてくる。
「………ん…」
真夜中になって、何だか人の気配を感じ、マコトは目を覚ます。
「あら~? 起こしちゃったツノ~?」
「ギョギョっ。とても仲が良いのですね?」
「かちり♡ オ邪魔シテ シマッタカシラ?」
声のする方を見たら、二段ベッドをニコニコと覗いている、三人娘と目が合った。
「…お姉様がた。お帰りなさい。ふぁ…ぁふ…」
欠伸の美顔も、女性寄りでセクシーでユニセックスの王子様みたいに、官能的な輝きを魅せるマコト。
「…んん…マコト…?」
パートナーが起きた事を感じたユキも、無垢で隙だらけなお姫様みたいなボンヤリ寝起き顔が、愛らしく輝く。
「二人とも~、一緒のベッドで寝るツノね~♪」
「ギョギョっ。しかもパジャマ無しですか?」
「え…あ…!」
「あら…」
言われて気付いた二人は、シャワー後にいつもの感じで、裸のままベッドに転がってしまった事を、思い出した。
「す、すみません。おかしなところを…」
「失礼をいたしまして…」
大きなバストがタプんと揺れて、二人はタオルケットで裸身を隠しつつ、詫びる。
「かち♡ フフ…。デモ、ヤッパリアナタタチ、可愛イワネ♪」
「ね~♪」
「「? ?」」
ベッドから降りた三人は、マコトたちにはよく解らない納得をして、やはりニヤニヤしていた。
「ぁの…」
何かおかしなトコロがあったのかと想い、マコトは三人へ尋ねると、やはり二人にはまだ解らない、少し大人な認識があった。
「ギョギョっ。二人とも、石鹸とかシャンプーとかコロンの香りしか、しなかったのですね♡」
「…? はい」
やはりユキにも、どういう意味なのか解らない。
「かち。ウフフ…ツマリ二人トモ、汗ヲ流スヨウナ事ハ、シテナイッテ話♪」
「「……あぁ…」」
言われた意味が漸くわかって、二人は想わず見つめ合い、納得し合ってしまった。
幼馴染みで精神的に夫婦で、更に色々とヌードな懸案は体験しているけれど、進展としては、まだキス以前なマコトとユキだ。
「ぁの、それで ですか」
マコトはシャツに袖を通しながら、お姉さま方へ尋ねる。
今夜は三人とも、富豪のオジ様たちと、デートと聞いていた。
「お姉さま方は、そのまま お泊まりをされるものかと、想像をしておりました」
「ギョギョ」
「かちり。フフフ、ナルホド♪」
二人の想像が、可愛らしく感じられたらしい、お姉さま方。
「お泊まりとかはね~、どこかの惑星なら~♡ だけどツノね~♪」
「…?」
お姉さまたち曰く、今回のようなクルーズ船での長旅の場合、お相手とそのまま夜を明かす事は、ほぼ無いという。
「デートが終わったら~、少しだけ ピロートークはするツノね~♪ 後は シャワーで汗を流して~、戻って来たってツノ~♪」
相手によって様々だけど、惑星やステーションなどのホテルなら、普通にお泊まりもあるけれど、クルーズ船では違うという。
「お相手もね~、ノンビリと息抜きで船旅をしているワケだからツノ~♪ 広いベッドで一人ノンビリと朝を迎えたいっていう男性が、多いツノよ~♪」
「…そうなのですか」
なんだか、二人も読んだ事のあるレディース・コミックなどでも、わりとモチーフになる「男性にとって都合の良い女性」みたいにも感じる。
ものの、当のお姉さま方は、そんな扱いに怒れる様子もなかった。
むしろ、鼻歌でニコニコしている。
「それ程までに、デートは楽しかった…。という事なのでしょうか♪」
ちょっとワクワクで夢見心地なお姫様フェイスのユキに、お姉さまたちは、教えてくれる。
「だってぇ♪ 気に入って貰えたら~、大々的なデビューのチャンスツノ~♪」
「かちゃ。仮ニ ちゃんすヲ掴メナクテモ…♪」
「ギョギョっ。お小遣いが貰えるのです」
その金額が、つまりは紙マッチの本数であると、二人はあらためて理解が出来た。
~第十四話 終わり~
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