☆第十三話 ネズミ取りちゃん☆


 女性のトップレス・コンパニオンばかりなブロックのためか、二人は仕事の衣装のままでも、食堂へ行ける気分になっていた。

 どこへ行っても皆が半裸だからか、むしろ隠す方が恥ずかしいとさえ感じられるレベルだったり。

「あの、もしかして お体の具合でも?」

「ツノ?」

 お姉さまたちと一緒に、夕食を済ませた二人。

 五人で自室へと戻る際にマコトが尋ねた内容が、お姉さま方には、おかしな質問だったらしい。

「私も、そのようにお見受けを致しました。もし必要とあれば、すぐに 福利厚生担当のお医者様へ 連絡をいたします」

「ギョギョっ、どうしてですか?」

「はい。先ほどの食事で、随分と小食で済まされておりましたので」

「かちり。ァア~♪ ネ~♪」

 二人の問いに、三人娘は、なんだかニヤニヤしている。

 その目は、可愛い妹たちを見守る大人の姉な感じでもあり、自尊心を刺激された女の笑顔でもあり、またどこか、不意の懐かしさを刺激された様子でもあった。

「マコちゃんたちは~、まだ解らないツノね~♪」

「「?」」

 ニヤニヤな三人の意味が素で想像できないマコトとユキは、想わずお互いを見合って、また三人へと向き直る。

 マコトたちにとっての心配の種となったのは、昨夜に比べて、三人の食事量が異様に少なかった事だ。

 理解出来ない美妹たちに、大人な艶姉たちは、やや声を潜めて教えてくれる。

「ギョギョっ。私たちはホラ、これから、オジ様たちとの デートですから♪」

「はい」

 そこは理解をしている。

「かち。でーとデハネ、おじ様ガタノ印象ッテ、トテモ大事ナノヨ♪」

「はい」

 そこも、デート経験の無いマコトとユキでも、想像が出来る。

「でもねツノ♪ いっぱい食べちゃうと~、お腹ポッコリになっちゃうでツノ~♪」

「「…はい」」

 女子として、それもわかる。

 いまだキョトンとしている二人が、お姉さまたちにとって、純粋で無垢で可愛い妹、そのものに思えるようだ。

「んふふ~♪ つまりツノねぇ♪」

 ベッドの上で、お腹が鳴ったらオジ様たちに失礼だし、かといってお腹いっぱいに食べてポッコリなお腹では、恥ずかしくてベッドへ上がれない。

「でツノ~♪」

「…まぁ」

「な、なるほど」

 説明をされて、お互いの顔をまた見合わせたユキとマコトは、ようやく理解が出来た。

 つまり三人娘は、デート中にお腹が鳴らない程度の食事に押さえて、夕食を終えたという話だ。

 異性とのデートどころか、お互いに子どもの頃から知り尽くしている間柄だから、精神的に夫婦なマコトとユキには、現在でも縁の無い考え方なのである。

 しかも、二人とも特種捜査官として鍛錬を重ねているから、全身がバランス良く引き締まっていて要所に柔らかいムッチリ皮下脂肪が乗っていても、無駄なお肉は全く付いていないのだ。

 そんな事実を知る由もなく、お姉さま方は、理解が出来た妹二人へと、優しく頬をすりすり。

「んん~♪ もぅ、マコちゃんとユキちゃんはツノ~♪」

「ギョギョっ。そのまま、綺麗な無垢のままでいて欲しいです~♪」

「かちり。ウフフ…。オ姉サンタチガ、守ッアゲルカラネ♪」

「「ど、どうも…」」

 お姉さま方の頬は、柔らかくてスベスベでシットリとしていて、甘くて良い香りがした。

 自室へ戻ってから、お姉さま三人は歯を磨いて大胆な衣装に着替え、コロンなども纏って、イザ戦場へと出陣をする。

「今夜のデートっ!」

「ギョギョっ、絶対にっ!」

「かち。ものニスルワヨッ!」

「「「おぉ~っ!」」」

「それじゃ♪ 今夜は帰らないツノ~♪」

 円陣を組んで気合いを入れて、それぞれのお相手の部屋へと向かった。

「お姉さま方は、モデルとしての仕事を得る為に デートへ向かったんだよね?」

「そう仰っておりましたわ」

 つまり、一晩のデートと引き替えに、チャンスを掴む。

 という決意だ。

「…凄いんだね」

 根性というか、その熱意に頭が下がる思いはあれど、春を売るような行為であっても、捜査官でありながら軽蔑する意志は全くない二人。

 自分たちも、犯罪者を捕らえる為に、時には肌を晒したり場所によっては肌を晒したり相手によっては肌を晒したりと、もろ肌状態は必然の一つなのだと、覚悟もしている。

 なので、その身に換えても目的を果たさんとする心意気は、自然と理解が出来るのであった。

「とにかくさ。今夜はお姉さま方、戻られないのだし」

「ええ。今のうち ですわ♪」

 二人は脱衣を始めると、荷物のバッグから、化粧品に偽装をしたユキ自作のマシーンたちを取り出す。

「これとこれと…。マコト」

「うん」

 言われずとも、マコトは両掌一杯な感じの機材を、一緒にシャワー室まで運んだ。

 全裸のままシャワーの足下へ機材を置くと、マコトは、気になっている事を尋ねる。

「このいっぱいの機械が、船内用の捜査機器なんだよね? でも、この船の内壁は ブロック毎の一体構造で、いわゆる継ぎ目とか無いよね? どうやって、壁の中の捜査をするの?」

 二人で運んできた機器は全て、口紅やコンパクトやコンシーラー、更にコロンや化粧水の瓶など、メイク道具に偽装している形だ。

 マコトがユキ程メカに明るくないとはいえ、ハンディ・サイズな小型のX線機器では船壁の中を調べるにしても、範囲が小さすぎてほぼ無意味。

 と知っている。

「うふふ♪ そこは、私のユニットちゃんたちに お任せですわ♡」

 ウィンクをくれたユキが、床に正座をして、機器たちをいじり始めた。

 偽装化粧品を組み込んだパーツを全て分解して、変形をさせて、別のパーツたちとテキパキ組み合わせてゆく。

「出来ましたわ♪」

 ほんの五分と待たず、ユキの両掌に乗るサイズの、旧世紀なネズミ取りが完成をした。

「ネズミ取り?」

「ご名答♡ とも言えますわ♪」

 ノンビリ穏やかなお姫様が、ちょっとイタズラな愛顔で輝く様に微笑む様子は、ユキのヲタク魂が高揚している証である。

 マコトからすれば、何を話したいのか、勝手知ったるパートナーだ。

「ネズミ取りでは ないんだね」

「はい♪ この子の名前は『ラットラッパー』ちゃんと言いまして♪ 一見するとネズミ取り(ラット・トラップ)ですが、この内部には多数のネズミちゃん型な自走式小型捜査ドロイドが収納されておりますの♪ ネズミちゃんたちが囓った情報を、このネズミ取りちゃんが集めて整理をして、私の端末へと送り届けてくれますわ♪」

 ヲタク特有な早口解説だけど、笑顔は無垢な楽しみで純粋に眩しい。

「そうなんだ。それで、そのネズミたちを走らせる為に、シャワー室を使うの?」

 軽く見回した感じでは、シャワー室の壁も一体構造で出来ていて、まさしくネズミが入り込む隙間もない。

 ネズミだからと、壁に歯を立てて穴でも開けようモノなら、すぐにバレてしまうと想われた。

「はい♪ マコト、よくご覧下さいな♪」

 ユキが指し示したのは、シャワー室の、湯量や温度を調整するタッチパネル。

「…あぁ、なるほど」

 マコトも納得をしたのは、よく見るとパネル機器そのものは壁と一体構造ではなく、後から取り付けた機器だった。

「このような機器は、不具合時などの交換もありますけれど、メンテナンス等の容易さなどの理由で、後付け設計の機器である場合が 殆どなのですわ♪」

 他にも、湯気を排出する換気口や、湯を流す排水溝なども、同様な造りらしい。

「ですので…失礼をいたしますわ♪」

 ユキが工具を持ってパネル機器をいじくると、実に容易に、パネルそのものがパカっと外れた。

「ご覧の通りですわ♪」

 得意な笑顔も自慢げで、小さな鼻息も熱いところとか、可愛らしい。

「へぇ…」

 タッチパネルを外すと、壁の中は腕を入れられる様な空間があり、更にパイプ類や配線も覗けている。

 更に、全てのタッチパネルは間接的にとはいえ、船の中央コンピューターとも繋がっているので、対策プログラムがあるとはいえ、ハッキング等にもココは最適らしい。

「なるほど。さっきのネズミ取りは、この中で能力を発揮するんだね」

 パートナーの手腕に感心をするマコトは、中性的な王子様が、愛しいお姫様を愛でるような、優しく凛々しくキラキらした笑顔だ。

「うふふ♪」

 マコトに褒められて純粋に喜ぶユキの笑顔を見ながら、フと思いつく。

「あれ。だったら、どうしてシャワー室なの? 部屋の入り口のタッチパネルでも、良かったのではないの?」

 二人で裸になって機械工作とか、よく意味がわからない。

「シャワー室の方が、都合が良いのですわ♪ 万が一にも 工作中にお姉さま方が お部屋へと戻られた場合、工作現場の説明が困難ですもの」

「…ああ、そうだよね」

「それに、工作が終わり次第 このまま、汗も流せますもの♪」

「…それもそうだね」

 壁の中へネズミ取りをセットすると、後はプログラム通りに壁の中を走り、ハッキングに最適な配線を吟味して、電源などを接続後に、ネズミ型ドロイドを発進。

「これで 明日から一日一度、ネズミ取りちゃんから 情報が送られてきますわ♪」


                    ~第十三話 終わり~

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