☆第十二話 お誘い☆
「~♪」
潜入捜査の為とはいえ、トップレス接客という恥ずかしいコンパニオン業務を、ユキはそれなりに楽しんでいた。
富豪の男性客が、お姫様のような笑顔も輝くウサ耳ガールのトレイから、一箱の葉巻を手に取って、封を切って口にする。
コンパニオンが、切られた封を預かり携帯式シューターで回収をしている間に、富豪男性は紙マッチを開ける。
「………」
ユキへ向かって、紙マッチを三本切って、トレイへ載せた。
(これは…今夜、三本でどうか。というお誘いですわ)
紙マッチ一本が、女性会社員の平均月収の、約四ヶ月分。
なので今、ユキに呈示された「今夜のデート代」は、約一年分という計算になる。
ユキは、紙マッチを摘むと火を付けて、富豪の咥えた葉巻へと、火を捧げた。
「………」
富豪男性の目が、魅惑的なコンパニオンの返答を待つと、ウサ耳コンパ二オンは、愛らしく輝く笑顔を返す。
「………」
ウインクではなく笑顔なので、今夜のお誘いには応えられない。
という返答に、富豪は残念そうに、そして優しく苦笑いを見せた。
そのまま、お客さんの間をユックリと歩むユキへ、また別の男性が葉巻を手にして、紙マッチを四本で、誘って来る。
コンパニオンはやはり、魅惑的で無垢な笑顔を魅せるだけで、男性の誘いには応じなかった。
(皆様 とても情熱的ですわ♪)
アダルトな場での交流を初めて体験するユキは、それ自体が楽しいと感じている。
周囲の先輩コンパニオンたちを見ると、同じように笑顔でお断りをしたり、ウインクでお誘いに応じていたりと、それぞれだ。
同室の三人娘も、お誘いを受けて、応じたようである。
(…おりましたわ。うふふ…♪)
ネコ耳のパートナーも、歩く度に男性たちからデートのお誘いを受けて、その度に中性的な美しい笑顔で、お断りをしていた。
トレイの上のグラスも葉巻も尽きて、準備スペースへと戻る、マコトとユキ。
新たにブランデー・グラスと葉巻と紙マッチを乗せながら、ユキがマコトを、イタズラっぽくからかう。
「とても情熱的なアプローチを 戴いておりましたのね。マコト♪」
「どうしてみんな あんなに積極的なんだろうね。女性のパートナーが同席をしているのに、紙マッチをケースのままでくれる男性もいてさ。なのに 同席の女性、笑顔なんだよ」
まるで、目の前で浮気宣言をしているパートナーを容認しているかのような、よく解らない対応である。
同じく、トレイの補充に戻ったツインホたちが、マコトの疑問に答えをくれた。
「あはは~、マコちゃんたちには、まだ理解出来ないツノね~♪」
「? どういう事なのですか?」
「かちり。まこチャンタチガ、見タ通リヨ。ツマリ ソウイウ富豪タチハ、普通ノべっどトカ、刺激ガ足リナイノヨ」
「刺激…ですか?」
ユキにも、よく解らないようだ。
「ギョギョっ。つまりですね、富豪たちの中には、女性同士とか、夫婦+コンパニオンとか、より強い刺激を求める人たちも、いるんですよ」
その場合、誘うコンパニオンは、夫婦ともに気に入った相手だったりするらしい。
「女性同士…」
「夫婦+コンパニオン…ですの…」
性にはそういう世界もあると、まだ若いマコトとユキには、想像し辛い。
同じベッドで裸で寝たりするマコトとユキは、幼馴染みなうえ精神的に夫婦と同じなので、女性同士という部分も、理解でき辛かったりした。
「あ、ところでなのですが、お姉様がたは、その…」
今夜のお誘いを受けたのですかと、尋ねてみる。
「かち。ウフフ♡」
「ギョギョっ♪」
「えへへツノ~♪」
モデルやタレントを目指す三人は、それぞれ目当ての富豪からのお誘いを、無事に手にしたようだ。
「まぁ♪ それでは、今宵は…」
「うんツノ~♪ マコちゃんとユキちゃん、今夜は二人で、お留守番ツノ~♪」
今夜は自室へ帰らないと、笑顔で教えてくれる。
((………))
マコトとユキは、目配せで頷き合った。
お姉さま方のデートの予定を知りたかったのは、二人きりの時間と空間を確保できるかどうかを確かめたかったから、である。
少なくとも今夜からは、潜入捜査の目的である「密輸品の探索」が、行えるのだ。
トレイを補充したコンパニオンたちが、再び、お客さんたちの中へと散ってゆく。
「…ユキ」
「ええ…」
今夜の捜査開始を確認し合うと、二人もトップレスを揺らしながら男性客の中へと戻って行き、やっぱりまた紙マッチのアピールを幾つも戴いた。
マコトたちのチームが朝イチの仕事を終えると、引き続きのチームと入れ替える形で、裏方へと姿を消す。
「「ご苦労様です。それでは 休憩に入って下さい」」
「「「お疲れ様でした~♪」」」
八時間ちょっとの労働を終えて、あとは休みだ。
「うふふ~♪ それじゃあ~、珠のお肌を磨くツノ~♪」
「お姉さま方は、これから その…」
富豪男性との、デートなのですか?
と聞きたいけれど、マコトもユキも、まだハッキリと聞くのは恥ずかしい。
「ギョギョっ。船内時間の夜になったら、ですけれど♪」
「かち。ダカラネ、今夜ハまこチャンモゆきチャンモ、オ部屋デ のんびり過ゴシテネ♪」
コンパニオンの大半が今夜、初対面の男性と、一夜を共にするのである。
鼻歌も弾む三人に、男性経験の無い二人は、美顔を見合わせるしかなかった。
昼食を済ませると、三人は今夜に備えて準備を進め、ユキとマコトはベッドで雑誌を眺めて、ワクワクな会話をする。
「マコト、次の惑星には 美味しそうな名物料理が ありますわ♪」
「本当だ。パーリャプーリャパエリヤ…? 変わった名前だよね」
紙媒体の観光雑誌を眺めながらも、ページにはユキの手元の機器から、この船の設計図が標示されていた。
乗船をする前日、潜入捜査班から受け取っていた資料の中に、地球連邦政府へ提出されている、関係者のみ閲覧可能な公式設計図が入っていたのだ。
宇宙船などを建造する場合、どのような会社であれ、連邦政府へ正式に届け出なければならないという決まりがある。
二人の手へ渡されていたのは、その設計図のコピーデータであった。
船の構造でいえば、太古のような鉄製ではなく、かなりの大きさで一体成形をされたブロックの集合体として組み立てられているのが、普通である。
(…内壁の殆どは やっぱり、一体成形がされてるね)
(まあ 当然と言えば 当然ですわ)
見たところ、航宙エンジンや慣性機器への通路、設置義務がある脱出ポッドやポッドへの通路や航路探査機用の船頭部ドローンなど、必要最低限な隠し扉があるだけで、内装の殆どは継ぎ目などの無い一体成形型だった。
(という事は、密輸に関して言えば この船は、最初からそういう意図で設計された船ではない。という事…?)
仮に、船体完成の後に届け出も無く改造を施した場合、大変な罰金、最悪は運行停止処分になる。
(ですわね。つまり、密輸品に関しましては 正直に貨物ブロックへ積み込まれている可能性も、大いに考えられますわ)
木を隠すには森というか、密輸品を貨物室へ隠すとすれば、コンテナそのものを偽装するだろう。
(食料品とか 嗜好品とか…だろうね)
数百種類と摘まれるコンテナ郡の、同じコンテナが数十とかになれば、寄港ステーションの検査官でも、全てを検査するのに膨大な時間が掛かってしまう。
(仮に そのような検査を実行するとなれば、ともすればギャラクシー・エスポワール社から 名誉毀損や威力業務妨害で訴えられても、致し方ありませんですわ)
しかも、万が一にも密輸品が発見されなかった場合、港の管理側の不手際となり、その後の密輸そのものが容易となってしまうであろうデメリットも、あるのだ。
(だから 潜入捜査になるのだけれど)
(はい♪ その為の この子たち、ですわ♪)
と、ユキは枕元に置かれた自分のカバンを、ポンポンと叩く。
カバンの中には、女子として必要な着替えや化粧品に紛れて、ユキが自作をした捜査機器が詰め込まれているのだ。
もちろん、マコトのカバンもユキが色々と詰め込んでいるので、きっと簡単な工作すら可能でもあった。
(ユキだもんね…)
幼馴染みについては、銀河一よく理解をしている同士である。
隙あらば自作のマシーンを試したくてウズウズしているユキが、今回の任務をこれ幸いにと自前の機器を持ち込む事など、マコトから見れば当然な行動であった。
(とりあえず ですが。船体構造に関しての捜査は、やはり実行する必要かあると 考えますわ)
(…そうだよね。船体の改造だって バレなければ良し。って考える可能性も あるのだからね)
とかヒソヒソしていたら、結構な時間が過ぎていたようだ。
「あらあら~♪ 二人で何か~、えっちな相談ツノ~?」
ツインホ先輩が、ニヤニヤしながらベッドを覗き込んできた。
「あ、いえ。次の寄港ステーションに、美味しそうな名物があるらしい。という相談 でして…」
ちょっと慌てたけれど、なんとか誤魔化す。
「それより~、私たち、早めの夕食~、食べるけれどツノ~♪」
誘ってくれた三人は、髪もお肌も艶っ艶に磨き上げていて、これからのベッドタイムに向けた戦闘態勢が整いつつあった。
~第十二話 終わり~
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