☆第八話 銀河一周クルーズ船、出港☆


「はいはいはい。それじゃあ皆さんね、え~、ね。はい、並んで並んで~」

 コンパニオン担当のアラハイホー氏が、フロア中に響く声で集合をかけると、半裸のコンパニオンたちが集まって、十人十列で整列をした。

 トップレス女性たちの前に立つアラハイホー氏の、床ブロックが迫り上がって、後ろの女性たちも、担当者の顔が見える高さとなる。

「はいはい。え~、ね。それではですね。これからのお仕事に関するですね、皆さんの生活全般に関してですね、え~、ね。説明させて戴きますね。はい」

 クルーズ期間中は当然この船内での生活になるし、コンパニオンたちの生活空間はこのブロック一帯であるので、まずは利用出来る施設の説明だ。

「え~、ね。まずは、皆さんのお食事等ですが~、ね」

 各部屋のブロックに対して、現在集められているフロアを挟んだ反対側のブロックが、大浴場や食堂などである。

「え~ね。食事は、食堂で購入して下さいね。大浴場は~ですね。え、二十四時間いつでもね、利用可能ですから、ね」

 大浴場と言っても、百人の女性たちの中で三分の一は常に仕事中で、仮に五十人が一度に入れる一般的な浴室の広さでも、セカンド・タカラブネ号ほどの大型客船としては中規模だという。

 それでも、各部屋のシャワー室には湯船が無いので、タップリの湯へ伸び伸びと浸かりたいのなら、十分にリラックスが出来るだろう。

 食事は「食堂でも食べられる」というだけで、基本的には、自動販売機で自腹購入である。

 自販機には、他にもドリンクやお菓子類や化粧用品なども、並んでいた。

 旧世紀でも、極めて一部のマニアに愛されていた「自動販売機のハンバーガー」等のような、出来合いを温めたり湯を注ぐカップ食品ではなく、トレイに乗せられた料理として販売されているタイプである。

「…コンパニオン用の食事としては かなり優遇されている気がする」

 小声でユキに話したら、ユキ曰く。

「そう考えて 間違いはありませんですわ。あくまで可能性として ですが――」

「うん。少しでも密輸を怪しまれないように…という可能性も あるかもね」

 コンパニオンの担当者の人当たりの良さや、コンパニオンへの報酬や待遇など、一般的な同職業と照らし合わせても、微妙なラインで好条件なのだ。

 全てを疑うワケではないけれど、マコトとユキは捜査官として、確かな情報に基づいて行動しているのだから、色々と用心は欠かせない。

(…ボクたちの事だって、バレてる可能性も考えて 行動してるから…)

「え~、ですね。え、食堂の隣にですね。え、女性の先生がおられますのでね。え、身体の具合が悪いなー、とか感じられたらですね。え、遠慮無く 相談して下さいね」

 アルハイホー氏が、掌で女性たちの背後を示すと、高齢な女性のお医者さんがニコヤカに挨拶をくれた。

 福利厚生も完備されているようだ。

 それから一通り、一般客のブロックへは、特に用事が場合以外は立ち入らないように。

 とか、寄港時の自由時間は惑星への下船も許可されているけれど、出航時間には絶対に遅れないように。

 とか、行動に関する注意を受ける。

 マコトとユキは、引っかかった文言があった。

「特に用事…?」

「いかな用件 なのでしょうか…?」

 二人のそんな疑問に構う事なく、ある意味、コンパニオンにとって最も大切な説明を受ける。

「それから、え~ね。このリング、ですね」

 アルハイホー氏が掲げた掌には、手首に巻き着けるサイズな、銀色の細いリングが乗せられていた。

「え~、ね。このリング~は~ですね。え、これから皆さんにお配りしますが、ね。皆さん個人の認識票というかですね。え、勤務状態などもね。え、記録されますんでね。え、このリングを無くしてしまうとですね、え。折角の勤務時間も記録消失ってね。え、なってしまいますからね。え、ですのでね、え~決して~、無くさないようにですね、え」

 最前列からリングが渡されて、女性たちがそれぞれ手首に装着をする。

 リングが淡く光って、個人が認識をされたと解った。

 マコトとユキも、小さく頷いてから装着。

(後で ユキが中を調べてくれるし)

 万が一、何か詮索機能が仕込まれていたとしても、ユキなら解析や解除や偽装まで、何でもござれである。

「え~、ね。皆様のですね、え。日ごとの報酬などもですね。え、このリングで確認をして戴けますし、ね。この船内での買い物などもですね、え。このリングで、報酬から購入する事もですね。え、出来ますからね」

「…なるほど」

 この船内限定の、サイフと身分証みたいなリングだ。

「え~ね。それではですね、え。あと三時間弱でね、出航ですのでね、え。班分けのですね~、え。今回は、三班から、という事でですね、え。三班の方々はね、え。会場での準備をね、早めにお願いしますので、ね、え」

「「………」」

 コンパニオンの第三班とは、マコトとユキも含まれている。

「早速、だね」

「そのようですわ」

 潜入捜査の目的は、密輸品を探し当てて、近隣の惑星警察へシグナルを送って、この船ごと取り押さえる事にある。

 その為には、この船内のどこかに隠されている密輸品と、それが武器であるという証拠を見つけ出さなければならないのだ。

 恥ずかしいトップレス衣装のまま、ウンと頷き合うマコトとユキ。


「はいはいね~。え、では第三班の皆さんはね~。え、彼らにね、え~、付いて行って下さいね~」

 アラハイホー氏の指した、教育係と思える二人の青年に先導をされて、三班みながイベント・ブロックへと案内をされながら、二人で確認をし合う。

「ボクたちの白鳥は、もう 地球から出航したんだよね?」

「はい。このお船の 次の惑星寄港ステーション『ピーリンカル・アーカ』へ向けて、プログラム通りに航行中ですわ♪」

 特種捜査官ホワイトフロールの専用航宙船「ホワイト・フロール号」は、マコトとユキがいつでも呼び出せるよう、このクルーズ船より少し早く、同じルートを自動航行させているのだ。

 特種捜査部へ捜査が廻って来たという事は、荒事になる可能性が、それなりに高い。

 マコトとユキにとって最も扱いの慣れたホワイト・フロール号を、最も身近に置いておく為の手段であった。

 二人の正式コスチュームと同じく、地球連邦政府のイメージ戦略の一環として、白鳥を模した白銀色の艶めく白鳥型という、かなり目立つ形状をしている専用船。

 本体表面はデジタル迷彩が可能だし、二人にあやかって同型を模した航宙船も、一般的に存在してはいる。

 しかし、マコトとユキにとっては不本意ながら「ホワイトフロールのパトロール領界に犯罪者の屍あり」とか、犯罪者たちには噂されているので、本物は現在、無骨で不格好な運搬船のカモフラージュを、身に纏っているのだ。

「あのような、あえて廃船の如くな お化粧をさせられて仕舞うなんて…白鳥ちゃん…くすん」

 自らのメカヲタク精神の荒ぶるままに魔改造をしまくった可愛いお船が、敢えて廃船から取り外した外装で囲まれた四角い汚れ船を着込んでいる現実に、ユキは愛の涙を禁じ得ないらしい。

「ボクたちが 当初の予定通り、指定された宙域のパトロールに出ている。っていう情報は 訂正されていないからね。犯罪者たちが、あのカモフラージュに気付く事はないと思うけれど、あの衣装を纏ってるから、白鳥だって安全なんだよ。ボクたちみたいに」

 と言って、マコトは両腕を拡げてトップレス衣装をアピールして、ユキを慰める。

「それは、その通りなのですが…私は、どうしたって心配ですわ」

 二人の潜入捜査は、クロスマン主任など、一部の人間しか知らない。

 同時に、停泊予定の惑星ステーションには、潜入捜査部の担当官たちが先回りをして、偽装した白鳥の到着と出航を確認する手筈でもあった。

 ホワイト・フロール号はユキの魂の魔改造航宙船でもあり、もはやユキ以外の人間が触ると何が起動しだすか解らないので、むしろ担当官たちの方が、冷や汗モノだろう。

「まあ、何かあったら シグナルが来るからね。それに…」

 こういう時に、パートナーを元気付ける一番の言葉を、マコトはさり気なく無く囁く。

「ユキの組んだ防犯プログラム だよ?」

 最も信頼している幼馴染みからの理解ある言葉に、ユキは、愛らしいドヤ顔を輝かせた。

「勿論ですわ♪ 私の施した施錠プログラムや防犯システムを突破出来るハッカーなど、この銀河に存在してなど おりませんもの♪」

 その防犯が、味方である捜査官たちにも発揮されてしまうあたり、クロスマン主任にして「完璧なる欠陥」と言わせしめたユキでもあった。

「…それにしてもツノ~♪ 順番は、第一班からって事ツノね~♪」

 背後から、三人娘の会話が聞こえてきて、気になったのでマコトが尋ねる。

「お姉様がた。順番 とは…?」

「ギョギョっ、まだ知らなくても、無理は無いですね」

 マコトたち第三班がこれから受け持つのは、午前中のコンパ二オン業であり、業務全体は午前中と夜と翌日休み、という、三班が一日交替ずつのローテーションだ。

「かち。コウイウ船デ 一番オ客ガ喜ブノハ、夜ノ部デショウ? ツマリ めいんハ夜ナノヨ。第一班ノ人タチハ、こんぱにおんノ べてらんガ多イノ」

 接客に慣れている班から、夜の部を担当させて回す。

 という事らしい。

「夜のコンパニオン業務とは、それ程までに キビしいお仕事なのでしょうか?」

 愛らしいお姫様が不安がるような、小動物的な愛顔に、マコトだけでなく、三人娘も心が刺激をされてしまう。

「ぁあん、ユキちゃんてばぁ。そんなに怖いお仕事じゃあ、ないツノよ~♪ ただねぇ~♪」

「ギョギョっ! と、させられるような、お肌の露出に関してはですが…ねぇ」

「かち。ツマリ、モット大胆ナさーびすモ ゴ提供イタシマス。ッテイウ事」

「なるほど…」

 つまり、午前中よりも夜の方が、遊興の内容や雰囲気も、よりアダルト。

 と、マコトは理解をした。

(…明日は ボクたちも、夜を担当するだろうから…)

(ええ。トップレスの本領発揮 という事でしょう♪)

 何気に楽しそうなユキに、マコトは、中性的な王子様が純粋で悪意の無いお姫様のイタズラに手を焼くような、美しい悩みフェイスを輝かせる。

「あらあら~♪ マコちゃんも、可愛いツノねぇ~♪」

 お姉様たちも、嬉しそうだった。


                    ~第八話 終わり~

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