☆第四話 面接☆


 クルーズ船の人事担当者との面会が、地球のステーションを出発する前日、つまり明日になったのは、二人にとっても幸運である。

「これが ボクたちの設定…」

「トーホクから上京してきた モデル志望の、中等科卒業生。ですわ」

 アイコ捜査官のお見舞いからの帰りに、マコトとユキはクロスマン主任へ報告へ伺った席で「明日の面接の為の資料を 潜入捜査科で受け取って すぐに準備へ掛かってくれたまえ」と、指示を受けていた。

 受け取った資料には、クルーズ船のコンパニオンとして潜入をするマコトとユキの、偽造の身分証や偽名、偽りの経歴などが纏められている。

 本部から地下駐車場へ降りる間、マコトが資料を速読にてチェックをして、横からユキが覗き見をしていた。

「中等科を卒業して上京…。なかなか チャレンジャーな人生だよね」

 言いながら、ビークルの助手席へ座ると、運転席のユキがエア・エレカを走らせる。

「私も 同意いたしますけれど…マコトでしたら、それでもトップ・モデルになれると、私は思いますわ♪」

 と、幼馴染みの美貌と立ち居振る舞いとスタイルを誰よりも熟知しているユキは、確信を以て微笑んだ。

「どうかな。ボクは身長が高い方だし。むしろ ユキみたいに、可愛くて清楚で小動物的な愛らしい女の子の方が、モデルさんには引く手数多だと思うけれど」

 ユキを気遣っているワケではなく、ナチュラルにそう思って口にする正直なマコトの意見に、ユキは頬が上気して、また楽しそうに輝く笑顔。


 エア・エレカを車道で走らせながら、フと思う。

「それにしてもさ、クロスマン主任って…」

「はい。本当に、まるでエスパーみたい ですわ」

 潜入捜査科で二人に資料を渡してくれたのは、中年男性の「トン・トォン」と名乗る潜入捜査官だった。

 アイコ捜査官と一緒に、今回の潜入捜査を計画していたトン・トォン先輩は、アイコ先輩の飲酒転落事故により、捜査が一時凍結せざるを得ないと、悩ましかったらしい。

 そんな折に、クロスマン主任から三日前に「うちの科のホワイトフロール用に、同じ潜入捜査の資料を 作成して戴けますか」と打診をされて、急いで設定をしたという。

 更にその翌日、トン・トォン捜査官はアイコ捜査官から「噂のホワイトフロールちゃんに、代役して貰うっていうの、どぅ~?」とか、提案をされたらしい。

「いや~正直、なんで急に? とか思ったんですがねぇ。いや~まさか、お二人が潜入捜査を買って出てくれるなんてねぇ。いや~本当、今回の計画が無駄にならなくて良かったよ~。いや~まったく、ヨロシクお願いしますよぉ♪」

 とか、ホクホクの笑顔で歓迎をされた。

 それは良い。

 ただ二人にとって不思議なのは、アイコ捜査官の飲酒転落事故が五日前で、対してマコトとユキの有給開けが、今日だった。

 という、時間軸的な事実である。

「ボクたちが 主任から相談を受けたのも、今日だものね」

「ええ。つまり クロスマン主任は、私たちが潜入捜査科よりのご依頼を受ける。と、確信をされていた。という事でしょうか」

 それだけなら特に疑問はないというか、それたけ二人を信頼しているという事で、納得が出来る。

「なんで、ボクたちなんだろうね」

 まるで、この捜査はマコトとユキが最適。

 と言わんばかりだ。

「以前にも、こういう事案が ありましたわね」

 二人に対してというよりも、鉄火場大好きな先輩捜査官が「主任のカンで、いつもと違う無人の宙域をパトロールさせられていたら、潜み隠れていたテロ組織のアジトを見つけて、大歓喜の大興奮で制圧をした」という実績があったのである。

「ですので 今回も、主任のカン ですのでは…と、私は考えておりますわ」

「…もしそうなら、クロスマン主任のオカルトパワーも凄いけれど、それだけ乱闘騒ぎになる。という前触れなのかな」

 美しさと愛らしさと、魅惑的なプロポーションと露出過多な制服以外に、犯罪組織のボスを宇宙の塵と化してしまう事で有名なホワイトフロールという頭痛の種を、あえて主任自身が選んだのだから。


 朝に出発をした捜査官専用の寮へ帰り着くと、明日の面接の為に、与えられた設定を完璧に覚えるべく、自室へと籠もる。

「それじゃあ ボクが『ラトト・アイミサキ』で」

「私が『フミリィ・セノ』ですわ」

 元の名前と母音を合わせているのは、万が一の聞き間違いでも、言い訳が出来るようにだろう。

 と同時に、二人には名前に関する、もう一つのアイディアもあった。

「ですがマコト。きっとまた、尋ねられますわ」

「そうだろうね。そっちも怠りのないように、だね」

 以前のヌード・ダンサー偽装潜入の際、女性のラン先輩潜入捜査官から「どうせなら本名で行っちゃえば、逆にバレないわよ?」とか、アドバイスをされた二人。

 ヌード・ダンスバーへ面接へ行ったら、支配人が「お前たちはホワイトフロールに似ているな」と疑いの視線を寄越したので「良く言われます」と返したら、支配人は大笑いをして信じた。

「あの時は なんて言うか」

 犯罪者からして「憎きホワイトフロールそっくりな女のヌードダンスが見られるならウヒヒ」みたいな欲求が、働いたような気もする。

「どのようであれ、私たちはこのスーツも含め…地球連邦のイメージ戦略として銀河に広く広報されているのですから。疑われた際には、あえて同名の別人を再度 名乗ってみましょう♪」

「…まぁ、そうだよね」

 そう納得をし合いつつ、二人は与えられた設定を、日常生活でもトチらないよう、徹底的に頭へ覚え込ませていった。


 翌日。

 マコトはヘソ出しホットパンツ、ユキはタンクトップにミニスカートで、ギャラクティック・エスポワール・クルーズ社の所有する銀河一周豪華客船「セカンド・タカラブネ号」が停泊をしている外宇宙用のステーションへと上がり、人事担当者との面接へ向かった。

 ステーションの支社事務所を尋ねると、出迎えてくれたのは、人当たりの良さそうな小柄の中年男性。

「やや、あなた方が、ミス・アイコから聞いている、ラトトさんとフミリィさんですか。やや、どぅもどぅも」

 頭頂髪のやや薄い緑色肌な担当者は、低姿勢ながら、二人の顔と露出過多な身体をさり気なく注視し、観察をしていた。

「やや、私はですね、ギャラクティック・エスポワール・クルーズ社のですね、銀河周遊クルーズツアー、セカンド・タカラブネ号のですね、コンパニオン等の人事を担当しているですね、アラハイホーと言います。はい」

 アラハイホー氏は、事務所の椅子へと促しながら、ニヤニヤだけど正直そうな笑顔で、二人に名刺を寄越した。

「こちらこそ、自己紹介が遅れまして♪」

「申し訳ぇ、御座いませ~ん♪」

 マコトとユキも、作り笑顔と作り言葉で、用意された偽造の名刺を差し渡す。

「やや、こりゃあどうもですね。やや、どうぞ腰掛けて下さいね。え~ね、あなたがラトトさんで、あなたがフミリィさんですね。はいはいはい」

 高さ一メートル程な箱形のドロイドが、三人分の紅茶をテーブルへと並べて、アラハイホー氏が紅茶を勧めた。

「戴きます♪」

「戴きま~す♪ 美味しそうー~♪」

 紅茶を戴く二人を、アラハイホー氏はやはり、さり気なくしかし注意深く、観察を続けている。

(…疑われている かな…?)

(…可能性は 考慮すべきですわ…)

 二人にしか聞こえない目配せ会話で確認をし合い、警戒を怠らなかった。

 特種捜査官だと知られたら、潜入捜査そのものが台無しである。

 二人の美顔と、バストとウエストと少女腰を丹念に観察をしたアルハイホー氏は、さり気なく探りを入れてきた。

「やや~、お二人ともぉ、美人でお美しいですね~。え~、モデルさんのタマゴというお話ですが~、お仕事の経験は?」

 長々と探られるよりは、一気に詰めた方が疑われなくて済むので、マコトは「相手が一番、考えるであろう事」を、ハッキリと言い切った。

「はい♪ わた――んん…ボクたちは以前、セクシー・ダンスの舞台で、ポール・ダンスを披露させて戴いた事があります。その際の、ボクの源氏名は、マコト。です」

 マコトの言葉に、ユキも続ける。

「うふふ…。その際の私の源氏名は…ユキ、で御座いました♪」

 二人の口調が、いつも通りな素の響きへと、戻る。

「ほ、ほほぉ~…。ぇえと~、その源氏名はぁ~…」

 真実に混ぜる嘘として、マコトは一人称を、再びワザとトチったり。

「はい。わた――ボクは そう名乗った方が、お客さんのウケが良いのです」

「私も、そのように名乗らせて戴いた方が お仕事を戴けるもので♪」

 いつもの余裕の視線を向けると、アルハイホー氏は暫し驚きを隠せずに、二人をジっと見つめていた。

 二人も当たり前に予想をしていたけれど、ホワイトフロールの姿は銀河に広く宣伝されていて、知らない人の方が圧倒的少数である。

 しかし同時に、特に男性たちは二人について、大胆スーツとバストとヒップに意識を奪われ、顔は「美人だ」程度でしか認識していない事が多い。

 なので、思いきって本人のフリをすると、逆に「ああそうだよな。特種捜査官の二人がこんな所にいるワケないよな」と、自分を納得させてくれるのだ。

 そして、今回もそう。

「やや~、はいはいはい。確かに確かに。あのホワイトフロールが目の前で拝めるとなったら~、ね。そりゃあ、ソックリさんであればある程~、ね、お客さんも喜ぶもんですよね~」

 本物のホワイトフロールが目の前で脱いでくれるなんて、あり得ませんからね~。

 とか、ニヤニヤと下心を隠さない、正直者なアラハイホー氏だった。

「それでは、わた――ボクたちの コンパニオン契約は」

「えぇえええ~。ゼヒともゼヒとも、ヨロシクお願いしますとも~、ね。やや~、あなた方のようなお嬢さんを紹介して戴いて~、ミス・アイコには感謝感謝~、ですよ~、ね♪」

 コンパニオンが足りないという上からの叱責が無くなった事にも、深く安心しているような、アルハイホー氏だった。


                    ~第四話 終わり~

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