☆第三話 先任女性捜査官☆


 マコトとユキが気になっていた事の一つに、先任捜査官の怪我に関してがあった。

『ふむ。その点についても、前任者と直接会ってみると良いね。私から連絡を入れておくので、これから病院へ向かってほしい』

 と言われ、二人はパトロールから潜入捜査へと正式に任務が変更され、住宅ブロックに建設された捜査官専用病棟へと、エアエレカで向かっている。

「前任捜査官の怪我って、原因に事件性は無い…。っていう感じだったよね」

「私も クロスマン主任からのお話は、そのように感じられましたわ」

 だとすれば、何かの病気とか交通事故とかだろうか。

 とにかく、任務を引き継いだ以上は直接に面会をして、色々と話を聞いておくに越したことは無い。

 二人は病棟へ向かいながら、商業ブロックで、お見舞いのケーキと花を購入した。

 病棟へ到着をして、受け付けで面会を求めると、五分程で許可が下りる。

「ホワイトフロール様、西塔の六十五号室へどうぞ」

 純白のナースさんに案内をされて、高速エレベーターで六十階へと上がって、五号室へ到着。

「ここだね」

 入院患者の札には「コントルレール様」と記されていた。

「それでは、マコト」

「うん」

 ちょっと緊張しながら、ユキがノックをする。

『はい。おぉー~…あ、開いてますよ』

 扉の上にはカメラが設置されていて、二人の姿は確認されている筈なので。

(…ボクたちの格好に驚いたのかな…)

(くすくす…でしょうね♪)

 若い女性捜査官が、二人来る。

 と、クロスマン主任から知らされていても、そしてホワイトフロールの姿を知っていたとしても、直接に合うのが初めての捜査官は大抵、二人の大胆な正式スーツに驚くのだ。

「失礼いたします」

 姿勢を正したマコトが、挨拶をしてから静かに扉を開けると、一人用のベッドには、緩いウェーブのブロンドを靡かせた、眉目麗しい女性捜査官が寛いでいる。

「わざわざ すみません。私は、潜入捜査班・第三捜査本部所属、コントルレール・アルコール・アイコンロールです。長いので、アイコと呼んで下さい」

 美しいアイコ捜査官は、艶やかな金髪も豊かなオットりとした雰囲気の、色香も豊かな大人の女性だと感じられた。

 ベッドの向きから、左目が前髪に隠れて見えないけれど、それだけで更なるセクシーさを見せ付けている。

 長い睫毛に大きなタレ目と、細い鼻筋とポッテりと柔らかそうな、赤い脣。

 目尻の泣きぼくろも庇護欲を刺激して、入院患者用のパジャマで隠された肢体は、中から胸部を大きく膨らみ魅せていた。

 括れたウエストや、ムッチりと拡がる女腰から官能的なカーブの腿、細いヒザから滑らかな脹ら脛を経て、成人女性の片手でも一周出来そうな細い足首。

 手足は指先まで細くしなやかで、少女であるマコトとユキから見ても、大人の世界の色気を存分に感じさせていた。

 クロスマン主任の話では、年齢は二十三歳。

 フと思う。

(…この人が前任者 という事は)

(クルーズ船での、コンパニオンのお仕事は…)

 限りなく大人の世界に近い、官能露出的な仕事だと、聞かずとも確信が出来てしまった。

「…初めまして。挨拶が遅れて、申し訳ありませんでした。ボク――んん、私は、第二特別捜査課の特種捜査官、ユニット『ホワイトフロール』の、ハマコトギク・サカザキと申します」

「同じく、ユキヤナギ・ミドリカワ・ライゼンと申します。お見知りおきを」

 年上であり先輩捜査官であるアイコ捜査官へ、二人は美しい敬礼で、自己紹介を終える。

「お口に合いましょうか…」

 と、ユキがケーキを手渡し、マコトは花束を、ベッドの側の花瓶へ立てた。

「あらぁ、ご丁寧にどうも♪ お花も素敵だわぁ♪ あなたたちが、噂に聞くホワイトフロールなのねぇ♪ その衣装、とても素敵に似合っているわぁ♪」

 気遣いではなく本当にそう思ってくれている事が、頬の上気や弾む声色で、よくわかった。

「有り難う御座います♪」

 アイコ捜査官とユキは、ファッションに於いて、とても気が合いそうだ。

(大胆が過ぎると思うけれど…)

 と、マコトは思っているものの、ユキが喜んでいるから文句はないのも事実。

「それで、引き継ぎの件なのですが…アイコ捜査官、お怪我の具合は…」

 出来れば怪我の原因も知りたいと思って尋ねると、年上捜査官は恥ずかしそうに頬を赤らめて、教えてくれた。

「恥ずかしいわぁ♪ お酒に酔って、階段から転げ落ちちゃったのよねぇ♪ 五日前だったかしらぁ? ふふ…ドジでしょう?」

 そう笑いながら、布団を被せていた右足を見せてくれたら、ヒザから足首にかけて、骨治療効果のある医療用包帯が、グルグル巻きにされていた。

「飲酒による転落、ですか。大丈夫ですか?」

 他に打撲をした箇所は、無いらしい。

「今回の潜入の為にねぇ、成人コンパニオンとしてぇ、お酒にも明るくないと♪ とか思ってぇ、特訓だーって飲んでたんだけどねぇ♪ 飲み過ぎちゃってぇ、ビルの十階から階段ゴロゴロ~ってえ、転げちゃったのぉ♪ ふふふ♪」

 恥ずかしそうに笑っているけれど、十階もの高さの階段を酔って転げ落ちて、右足の単純骨折で済んだのは、幸運というか。

「大変でしたね」

「でもねぇ、私ぃ、骨密度が二百パーセントあるからぁ♪ 酔ってなければぁ、骨折なんてしなかったのにねぇ♪」

 酔ってなければ転げ落ちる事も無かっただろうけれど、アイコ捜査官曰く「人生初の骨折」なようで、記念に右足の写真を撮ったりしたらしい。

 輝くような艶笑顔や、柔らかくなりゆく口調から察するに、先の飲酒も、コンパニオンを理由とした、ただのお酒好きのような気がする。

「あ、ねぇねぇ、二人も一緒にぃ、写真、撮って良ぃい?」

「はい。こちらこそ、アイコ先輩♪ 光栄に御座います♪」

 ユキはノリノリで、マコトと二人で先輩捜査官を挟んで、記念撮影をした。

「それでぇ、潜入捜査についてぇ、だけれどぉ」

「はい」

 仕事の話になると、口調はノンビリだけど要点は簡潔に伝わってきて、二人は先輩捜査官の高い情報能力に、あらためて敬意を抱いた。

 

 豪華クルーズ船での仕事内容は、まさにアダルトなコンパニオン業務だという。

「乗客たちが、カジノとかヌード・ダンスのショーとかを楽しむからぁ、ホール内でのお酒の提供とかぁ、テーブル周りの手間暇の色々 とかねぇ♪」

「なるほど」

 以前、密売組織の大物を捕らえる為に潜入捜査を買って出た、マコトとユキ。

 潜入先はグレーな惑星のグレーなヌード・ダンスホールで、オーナーは協力的だったけれど、ダンサーとして潜入をした二人は、ステージ上でヌード・ポールダンスを披露させられた経験があった。

 客層は、黒ではないグレーな一般人や犯罪者としては下っ端な連中で、どちらにしても二人のような特種捜査官ではなく、地元の警察官が取り締まるような、いわゆる三下。

 彼らを相手に「ホワイトフロールのソックリさん」として、源氏名で「マコト」と「ユキ」とあえて本名を名乗り、開脚ヌードダンスを毎晩、公開するハメとなった。

「…恥ずかしかったね ユキ…」

「うふふ…♪」

 思い出してもネコ耳の肌が赤くなるマコトと、同じくでも笑みが溢れるユキである。

「あらぁ~ぁ♪ それは面白い体験じゃな~い♪ 私もぁ、二人のヌードダンス? 観てみたいわぁ~♪」

「もう嫌ですよ」

 中性的な王子様の如き美顔で真面目にお断りをするマコトに、アイコ先輩は、またイタズラっぽくもノンビリとした笑顔で笑った。

「それでねぇ、クルーズ船のコンパニオン業務について~、だけどねぇ♪」

「「はい」」

 アイコ捜査官は、その陽気さと、人に警戒感を与えない物腰により、クルーズ船の人事担当と連絡を取り合える程の信用を得ているという。

「そうなのですか…」

「結構 ここまでの短期間に、ですよね…アイコ捜査官、凄いですね」

 素で驚く後輩の捜査官たちに、アイコ先輩も上機嫌だ。

「でしょ~♪ まぁ~、潜入捜査も人の懐柔から♪ だからねぇ~♪ あなたたち二人もぉ~、そんなに可愛くてセクシーなんだから~、ちょ~っと男性を性的に擽る事を覚えればぁ~、潜入捜査、ちょちょいのちょいよ~♪」

「「い、ぃえ…」」

 後輩の女性捜査官を、女体を使った誘惑技へと誘う、危険な先輩捜査官だ。

 それから、アイコ捜査官がクルーズ船で担当する予定だったコンパニオンの仕事内容について、マコトとユキも確認をして、任務に関する打ち合わせは終わる。

「~くらいかしらぁ~」

「仕事の内容としては、本当に アダルト要素の強いコンパニオン業務 なのですね」

「それにしても、ドレスコードがトップレスという可能性は…とても高そうと感じられますわ♪」

 裸好きではないけれど、マコトに比して、ユキは肌の露出への躊躇いが薄い。

「それでぇ。二人についてぇ~、私の方から人事の人にねぇ、怪我をした私の替わりに 面接してってぇ、お話を通しておくわねぇ♪」

 クルーズ船の出港は明後日であり、会社側としても、欠けてしまった人員を急いで補充したい筈である。

「私が怪我した事もぉ~、これから電話するからねぇ♪ お昼過ぎくらいに電話をすればねぇ、会社側も私の提案に飛びつく筈だから~♪」

「「了解いたしました」しました」

 二人は立ち上がり、先輩捜査官へ綺麗な敬礼を捧げた。

 単にセクシーなお酒好きではなく、流石は潜入捜査を任された先輩という認識が、マコトとユキの印象。

 この先輩の捜査準備を、無駄にしてはいけない。

 中性的な王子様みたいに美しいマコトの美顔が、優しく愛らしいお姫様のようなユキの愛顔が、輝く様に引き締まる。

 病室から退室する二人を、アイコ先輩はニコニコ笑顔で見送って、手を振って応援してくれていた。

 あらためて、潜入捜査への意識が高まった、マコトとユキ。


                    ~第三話 終わり~

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