5
「マナねぇ、ジェラートピケの部屋着じゃないと寝れない人なのぉ」
羊の毛みたいなピンクのモコモコに包まって、至福の笑顔を向ける愛美。二週間前に声をかけて仲良くなったコンパニオンガール。
彼女の本業はモデルで、どこかの事務所に所属してるらしいが、今のところ無名。
仕事がない時はキャンペーンガールやクラブのホステスのバイトをしている。初対面であった時も彼女はバイト中だった。
「ね、ね! この部屋着、可愛いでしょお~?!」
「うんうんカワイイ、超かわいい!」
――それが剥けたら、もっと可愛くなるはずだよ。
俺は下心の声に一人でニヤつきながら、ベッドに突っ伏している愛美の背後に腰を下ろし、肩を揉み始める。
今日、彼女の部屋に初めて入った。
ここまでこぎつけるのに二週間かかった。
愛美はモデルをやってるだけあって、男からちやほやされるのに慣れている。
下着の力を使って出会った初日に食事に誘ったり、デートに誘ったりしてみても、ちょっとやそっと優しさをかけられただけでは、絆されてくれなかった。
やはり高嶺の花は他人から受ける親切に耐性がついている。
ちょっとの好感を得るにも、だいぶ時間がかかった。
「マナの誕生日プレゼント持って来てくれたぁ?」
上目遣いで可愛く貢物を催促する愛美。
今日が彼女の誕生日だと聞いて、指定された品物を購入してきた。
――本当に今日が誕生日なのか? いろんな男にそう言って、希望の商品をせしめてるのではないか?
内心毒づきながら、高級ブランドのバックを渡す。
密かに郊外のアウトレット店で購入したものだが、それでもなかなか痛い出費だ。
生おっぱいを御開帳させるために、定価のブランドバックを貢ぐなんてコスパが悪い。レンタルショップや中古店のバッグで誤魔化し、こちらが堪能したら後でこっそり返品しようとも考えた。
しかし、男からの貢物を貰い馴れてそうな愛美の目を誤魔化せるか不安だったので、購入するしかなかった。
「なぁんかさあ、マナのこと軽く見てない?」
バックを手に取り、中をチェックした愛美は口を尖らせた。
「なんでそう思うの?」
「……だって……、ブランドバック一つで言うこと聞く女だって思われた気がする……」
「マナはそういう女なの?」
俺は小さい子をあやすような優しい声を出し、わざとらしく悲しそうな顔をする。
「ちがうよぉ! そう思われたみたいで、なんか傷ついたっていってるのぉ」
愛美は幼い子供がいやいやするように小さく頭を振った。他者からいかに可愛く見られるか、素振りの実演に余念がない。
「マナの誕生日だったんだから、マナが欲しいものを指定するのは当然の権利だろう?」
俺はもののわかった大人な言い方をして、彼女の背中のモコモコを撫で始めた。
「マナはね、記念日に貰うプレゼントは本当に大切に使いたいの。なんの相談もなくサプライズで買われたら、趣味じゃないとちょっと苦痛っていうか……」
「うん、うん、わかってるよ」
――わかんねぇよ。貰えるだけありがたいと思え。
こっちからすれば『女にプレゼントを贈った!』とわかりやすい見た目の物を出して、女が大げさに喜びさえすれば、ミッションコンプリートなのだ。……口には出さないが。
「今日はせっかくの愛美の誕生日なんだ! 高価なワインもあるし、飲もうよ」
俺は用意して来た白ワインを取り出し、コルクを開栓した。
「えー! やったぁ! ずいぶん準備がいいねぇ~!」
愛美はご機嫌な顔で俺が注いだワイングラスを手に取ると、乾杯も待たずに口をつけて飲んでしまう。
「えぇ? もう飲んじゃったの? 愛美ぃ~」
俺がふざけて哀しい顔をすると、愛美はキャッキャと笑いながら「ごめんん~! マナ嬉しくなっちゃって、ついぃ」と目じりを下げて頬を緩めていた。
「もう、堪え性のないやつだなぁ」
そう言いつつ、彼女のグラスにどんどんワインを継ぎ足す。
「なんかぁこれ、エラいおいしぃ……」
愛美は意外そうな顔をして、どんどん飲んでいく。
――知ってる。君のグラスに入れた粉末は、今日のために購入した特別なものだから。
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