「『アマデウス』っていう傑作があるんだけどさ」

お洒落な立ち飲みバルで、おススメ映画を語る俺。


相手は映画好きのコミュニティで知り合った、OLのゆかりさん。

推定年齢は二十代後半、パンツスタイルでしか会わないが、胸の谷間がグランドキャニオン。俺の分身を任せたら、二度と浮上できなくなりそう。

「えっと……たしか、モーツァルトのお話でしたっけ? ごめんなさい、歴史映画ってあんまり観なくて」

物静かで大人しそうな彼女は申し訳なさそうに答える。

初対面で「どんな映画が好きなの」と聞いたら、恋愛とコメディとヒューマンドラマと言っていた。

ヒューマンドラマが好きなら『アマデウス』はどうだろうと、知的で親切な俺を装い上映会を提案すると、彼女は「いいですね」と目を輝かせて食いついてきた。

「善は急げ、今夜は?」と言うと、真面目で勉強熱心な彼女は二つ返事で引き受けた。場所はもちろん彼女の部屋だ。


ゆかりさんの部屋にはソファがないので、彼女のシングルベットを背もたれにして、二人で横に並び、ローテーブルに載せたノートPCの小さな画面を眺める。


「この映画は史実ベースなんだけど、きっとフィクションだと思う。女好きで横柄な天才モーツァルトと、モーツァルトの才能を誰よりも理解して嫉妬する秀才サリエリ。あの手この手でモーツァルトを宮廷音楽界から追い出そうとするのに、モーツァルトの天賦の才を愛していて、彼の作品のファン第一号になってしまう。サリエリの複雑な心情が、胸に迫るんだよねぇ」

ゆかりさんの目が画面に釘付けになっている。

表面上は真面目に解説するけど、腕は別の目的で彼女の背中に迫るんだよねぇ。


上映中に何度か手を出そうと思ったが、真剣に見ている彼女の横顔がなんとなく冒しがたいものに感じて、映画が終わるまで動けなかった。

「本当にこの映画、お好きなんですね」観終わって大きく息を吐いたゆかりさんは、とろんとした目で俺を見つめた。

よほどサリエリに感動したのか、桃色に上気した頬、小さく開いた唇がテカテカと色っぽい。


いざ行かん、俺のロマンポルノ。


「さっきの、モーツアルトの奥さんがサリエリに仕事を求める場面さぁ。サリエリはモーツァルトの才能が憎いから地獄に突き落としたいんだけど、奥さんは可愛くて素直な人だから、彼女へは手を下せないんだよね。食うものも困ってやつれた奥さんにお菓子を勧めるシーンとか……裏があっても泣けるよね」

彼女の耳元で囁きながら、背中に手を回しシャツの上からブラのホックを外した。

「あのお菓子、なんて言ったっけ?」そらとぼけてゆかりさんに聞くと彼女は真っ赤になって小さく答えた。

「『ヴィーナスの乳首』でした。……恥ずかしい」

ゆかりさんがほぅっと浅く息を吐く。


彼女のワイシャツのボタンを上から順に外していくと、既に拘束を解かれたまろやかなふたつの丘が、グランドキャニオンを揺らして誘っている。地球の神秘はここに凝縮された。


「マロングラッセを丸めてホワイトチョコレートでコーティングされてるんだよ、あれ。とっても小さくて、可愛くて、上品で……ゆかりさんのとそっくりなんだな」

俺の舌が彼女のヴィーナスを捕らえる。

「やだ……もぅ」つぶらな目が潤んで俺を見る。

半開きの口から、甘い吐息が漏れる。


こ れ は か な り 期 待 で き る。


「甘さはゆかりさんも負けてない」

歯が溶けそうな台詞だが、グランドキャニオンが迎えてくれるなら、虫歯になってもいい。


彼女の崖は高低差による絶妙な圧力と摩擦を加え、完全なる包囲を俺に与えた。――もう、最後までいきたい。

舌と口でゆかりさんのヴィーナスを丹念にねぶりながら、右手で密林を探ろうとすると、彼女の左手が止めた。

「気持ちよくないの?」少しイラつきながらと聞くと「違うの、今日はダメなの」と言われた。

ダメって、あれか。

女の子だけが迎えるというお客様が、魅惑の秘境に俺より先に来たって言うのか。そりゃないよド■えも~ん。


グランドキャニオンもいいが、俺の内側でほとばしる阿蘇山は、最大水量を誇るイグアスの滝に収まりたいと暴れている。

だけど、俺に許されたのは『この世のおっぱいを堪能し尽くすこと』だけ。

おっぱい天国は地獄に変わる。

どんなに欲望を露にしても、彼女たちの中で果てることだけは叶わない。


我慢できなくなった。

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