【コント】ささくれた縄

あそうぎ零(阿僧祇 零)

ささくれた縄

 時間・場所:がらんとした午後の社員食堂


 テーブルで、一人の女がスマホをいじっている。

 上手かみてから男、登場。


男 (鼻歌のように歌いながら、女に近づく)捨てられた日のー。

女 (あからさまに顔をしかめる)

男 果林かりんじゃねぇか。何油売ってるんだ?

  (女の向かい側に座る)

女 休憩だよ。あんたこそ、またサボってんの?

男 俺も休憩。

女 私、職場に戻るよ。


  女、席を立とうとする。


男 ちょ、ちょっと待てよ。

女 何よ。

男 教えてくれ。俺のどこが不満なんだ?

女 たくさんあり過ぎ。

男 一番は?

女 ……。手の指が、いつもてる。

男 え?


  男、自分の指をまじまじと見る。


女 痛いんだよ、その指。

男 そんな事かい。


  男、右手人差し指のを、左手でむしり取る。


男 いててて。あ、血が出てきた。

女 何やってんの。そういうのはネ、鼻毛切りか爪切りで切るんだよ。

男 鼻毛切りなんか、持ってねぇよ。二番目は?

女 足の指が、いつもてる。

男 足の指? 


  男、右足の靴を脱ぎ、靴下を脱ごうとする。


女 止めろ! あんたの足、水虫なんだよ。

男 そうなのか?

女 医者に行けって、何度も言ったろ?

男 医者は、血を採るから嫌いだって言ったろ?

女 さぁ、職場に戻ろぅっと。

男 ちょ、ちょっと待てよ。

女 しつこい男だねぇ。

男 お前、俺たちはなわの関係だって言っただろ?

女 言ったかねぇ。

男 (歌うように)横の縄はあなたー、縦の縄は私ぃ。

女 ふん、これだよ。あんた、私の言う事、ろくに聴いてなかったね?

男 縄がこんがらがってほどけなくなる事を、人は幸せと呼ぶんだよな?

女 そうさ。でもあんたは、逃げたよね。

男 お前が、あまりきつくしばるから。

女 男だろ? それくらい我慢しなきゃ。

男 我慢したら、りを戻してくれる?

女 まぁ、検討くらいしてやるよ。

男 だったら、何といったかな……。

女 胡坐あぐら縛り。

男 やるよ。

女 途中で泣き言、言わないね?

男 ああ。

女 ロウソクもいいね?

男 ああ。だが、縄は綿めんの縄にしてくれ。

女 だらけの麻縄に決まってるよ。




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