だってささくれが痛いから

元とろろ

だってささくれが痛いから

「あらやだあんた急にどうしたのよ珍しいじゃないあんたから電話するなんて何かあったの? ええ、時間? いや大丈夫よ大丈夫に決まってるじゃない時間なんか幾らでもあるわよそれよりあんた勉強はどうなの? 彼女はできた? え? なにようるさいって息子のことだもの心配に決まってるじゃないお母さんにはなんだって話していいんだからねなんかあるでしょ話たいことが。え? ささくれ? あんたささくれなんてそんなもんねえちゃちゃっと切っちゃえばいいのよハサミは危ないから爪切りにしなさい爪切りでも気をつけるのよあんたの所ちゃんと薬とか絆創膏とか置いてあるの? え? なによまだ切らなくていいじゃないお母さんの話も聞いてちょうだいよそれがねお父さんが最近腰痛くしちゃったのよ心配することの程じゃないわよ全然元気よ一日立ち上がれなかったけど今は普通に歩き回ってるんだから。え? いやそれが良くないのよお父さんったらそれ以来ずっと腰が痛い腰が痛いって言ってるのよ私がご飯の支度してる時にちょっとお父さんお皿運んでちょうだいって言うじゃないそしたらねえ腰が痛いから駄目だってずっと自分の席に座ってるのよお皿なんてちっとも重くないのにそんな調子なのよ。え? いやそれだけじゃないのよ私がねえ手を離せない時ってあるじゃない火を使ってるとかトイレに行ってるとかまあなんでもいいんだけどそんな時に電話がかかってくるわけじゃないそれでお父さん電話お願いしますっていうじゃないそしたらねえ腰が痛いから駄目だって言うのよ腰なんか関係ないじゃないのよ電話にねえ。え? いやそれだけじゃすまないのよまだあるのよいくらでもああるのよ新聞の集金が来た時も宅急便が来た時もそう腰が痛いから駄目だって私が出るのよ寝てる時もねえあの人いびきが本当にうるさいのよ私もう嫌になっちゃっていい加減にしてくださいっていうのよそしたらねえあの人それも腰が痛いせいだって言うのよ関係ないじゃない腰はそれからねえあの人出かけるたびに要らない物を買ってくるのよこの前はニンジンをいっぱい買ってきてね冷蔵庫に入れっぱなしなのよあの人自分で料理なんかしないのにそれで私がお父さん自分で買ってきたニンジンなんですから自分で料理したらどうですかって言うのよそしたら腰が痛いから台所に立てないって返すのよじゃあなんでニンジンなんか買ってきたんですかって言ったらね腰が痛いからついって言うわけよ意味がわからないじゃないあんたはあんな風になっちゃ駄目だからね彼女は大事にするのよ。え? 彼女はいない? もう電話を切る? なんでよもうちょっと話してもいいじゃないのよ」


「ううん、でも、ささくれが痛いから……」

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