ささくれ占い

山本アヒコ

ささくれ占い

「なあなあ母ちゃん。これって、なに?」

 たしか三歳か四歳ぐらいだったと思う。俺は自分の指にできたそれを初めて見たので、母親に聞いたのだった。

「あらー。ささくれができちゃってるじゃない。痛くないの?」

「痛くない」

 俺は自分の指にできた小さな傷、皮膚が細くめくれた【ささくれ】を不思議そうに見る。どうすればこんなものが自分の体にできるのか。俺は飽きることなく指を見ていた。

 その日の夜、高熱を出して寝込んだ。


「あれ? 指けがしてるよ」

「えっ?」

 小学一年生だった俺は、友達の言葉で自分の手を見る。

「右じゃなくて左だよ」

「こっちか」

 見るとたしかに左手の薬指に傷があった。皮膚が細くめくれたささくれだ。

「痛そう」

「だいじょうぶ。痛くないよ」

 次の日の朝のホームルームで先生が、その友達が熱を出したので今日は休みだと言った。俺は自分が熱を出したときは、右手の薬指にささくれがあったことを思い出した。


 そういうことが続いて、俺はささくれで近い未来で何かが起こることがわかるようになった。

 右手にささくれがあると自分に、左手にささくれがあると他人に何かが起こる。薬指だと病気関連、中指だとケガ、人差し指だといい事が起こるというように、指によって何があるのかわかった。

「親指、ささくれがあるよ」

「本当に?」

 中学生の俺はクラスメイトの女子に言われて、慌てて指を見た。これまで親指にささくれができたことがないので、何が起こるかわからなかった。

 見るとたしかに左手の親指にささくれがあった。つまり誰かに何かが起こる。それは、たぶん……

「どうしたの?」

 このささくれを見つけた彼女に起こるのだろう。

 翌週、彼女は親の転勤によって引っ越していった。


「痛ってーーー!」

 俺は突然の激痛に布団を跳ねあげて起きた。

 大学生となった俺は狭いワンルームで一人暮らしをしている。これもまた狭いシングルベッドの上で、今もジクジクと痛む指を見る。

「なんだこれ?」

 右手の小指にささくれができていた。しかも血が出ている。

「こんなこと初めてだ」

 ささくれが痛くて血が出ているのも初めてだが、小指にささくれができているのも初めてだった。

「今日は何が起こるんだ?」

 この日、俺は彼女にフラれた。

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ささくれ占い 山本アヒコ @lostoman916

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