ササクレ団の侵略

金澤流都

ささくれある子は親不孝

 教室の隅から悲鳴が上がった。悲鳴を上げたのはクラス1の美人にして成績どん底女子・ゆみちゃんだった。


「さ、ササクレ団よぉ!!!! ササクレ団が出たわ!!!!」


 なんだそれは。ゆみちゃんの成績がよくないのは授業中に枝毛を探したり指の毛を抜いたり指のささくれをいじっているからだ、とまことしやかに語られているが、彼女のその絶叫の内容のアホっぽさは成績の悪さを語っているような気がしてならなかった。

 そもそもササクレ団ってなんだ。ロケ●ト団的なやつか。そんなのが現実にいるわけがないのだ。クラスはシラけきっていた。しかも授業をしているのは気難しくてヒステリー気質の、学校いち面倒な英文法の女教師である。

 こりゃ面倒なことになるぞ。クラスメイトはみなどんより黙りこんだ。しかし女教師は意外な反応をした。


「ササクレ団ですって!?!? それは大変だわ!!!!」


 最初はみんな教師が冗談に乗ったのだと思った。しかしよくよく考えるとこの教師が冗談に乗るわけがないのだ。いったん黙りこんだ教室は突如騒然となった。

 ササクレ団ってなんだ。みんながゆみちゃんの机に群がる。ゆみちゃんは勝ちを読み切った将棋の羽生善治九段のように手を震わせている。

 ゆみちゃんの指には、ちょうど鉄道模型の駅に並べるサイズの、黒ずくめの男たちが群がっていて、なにやら壊れた蓄音機のように歌っていた。


「さっさくっれあっるこっは親不孝〜!!!!」


 だれでも聞いたことのあるフレーズだとは思うが、歌にされるとインパクトがすごい。ミニサイズの黒ずくめの男たちはスコップを取り出してゆみちゃんの指の肉をつつき始めた。

 そのとき、ゆみちゃんの隣の脳筋男子である坂本が叫んだ。


「ウワァー!!!! 俺の指にもササクレ団が!」


「さっさくっれあっるこっは親不孝〜!!!!」


 その前の席に座って早弁していた小太り男子の岩田くんも、口からタコさんウインナーをこぼしながら叫んだ。


「おぶぁー!!!! ぼぶぼぶびびぼササクレ団があー!!!!」


「さっさくっれあっるこっは親不孝〜!!!!」


 ササクレ団騒動は一瞬でクラスじゅうに広まり、その日の昼休みには学校じゅうまで広がって、ついには警察がやってきた。どうやらササクレ団はいま国内外を問わず、世界中に暗躍する組織になっているらしい。わけがわからないよ。

 わたしはササクレ団が集団幻覚であることを疑ったが、その日ローカルニュースで「北高校(わたしの通う学校である)にササクレ団あらわる」と報じられていたので集団幻覚ではないらしい。集団幻覚なら集団幻覚だと報道されるはずだ。なんにせよろくなものではない。

 次の日学校に行ってみると、なにやら科学部が盛り上がってるらしいよとゆみちゃんに誘われた。科学部はなんとなく不気味なのでいく気はあんまりなかったがゆみちゃんはめちゃめちゃ押しが強いので仕方がない。


 科学部が部室に使っている第一理科室には黒山の人だかりができていた。なんでも生け捕りにしたササクレ団を水槽に閉じ込めてあるらしい。それは興味深いのでみせてもらう。ササクレ団は程よくフカフカのおがくずが入れられた水槽のなかで、小さめのハムスター、いやこんなに小さいハムスターはいないけれど、ハムスターのようにくつろいでいた。

 そしてその数日後、世界中のササクレ団がハムスター扱いに憧れて北高校に押しかけたのは言うまでもない。

 こうして北高校はササクレ団教のメッカとなったのだった。

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ササクレ団の侵略 金澤流都 @kanezya

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