子ども時代の思い出
奈那美
第1話
私には弟が一人います。
今みたいに主婦がパートに出かける時代ではなく、父親の収入で一家が暮らしているという家庭が多かったと思います。
父親の田舎に毎月送金していたのと、家を建てる為にと貯金もしていたようです。
だからスーパーでおまけつきのお菓子を買って貰えるはずもなく、親が買っておいた地味なお菓子を貰うのがおやつ、そんな子ども時代でした。
そんなある日、両親がふたりで出かける日がありました。
父親は私にひと袋のポン菓子と二枚の同じ大きさの皿(金属製で割れない)を渡して言いました。
「おやつには、これを弟と分けて食べるんだよ」
幼い私は悩みました。
(どうやったら半分こできるんだろう?)
適当に分けると、どう分けても弟が『姉ちゃんの方が多い』と難癖をつけてきます(母親が作ったおかずの盛り方でも文句を言う)
必死に考えた末、ひと粒ずつ分ければ同じ数になる!という答えにたどりつきました。
ふたりの前にお皿を並べ、袋からひと粒ずつだしてお皿に交互に置いていきます。
普通だったら、うまく同じ数に分けられます。
だけど……弟は、置かれるが早いか食べてしまうのです。
私のお皿にだけポン菓子がのっている……多分そういうタイミングで親が帰宅しました。
「なぜ独り占めしてる!」
父親から開口一番どなりつけられ、げんこつされて玄関から外に出されました。
弟はすでにその量を食べているのに。
私は分けるのに忙しくて、まだ食べてなかっただけなのに。
やっと今からオヤツだと思っていたのに。
幼い心がささくれるには十分な出来事でした。
あんまりな出来事に玄関前で大泣きしていると、隣の家のおばさんが助け舟を出してくれ、家の中に入ることはできました。
茶の間では、弟がポン菓子の袋に手をつっこみながらひとりで食べ続けていました。
そして、なぜ片方の皿だけに菓子がのっていたかの弁明は、一切させてくれませんでした。
おそらく、人生で最初に心がささくれた記憶です。
子ども時代の思い出 奈那美 @mike7691
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