ささくれはパンダじゃない

もちっぱち

ささくれ


僕はゲームをしていた

幼稚園から帰ってきてから

楽しみにしていた。


デジタルのブロックを積み上げては

重ねていろんなものを作る

部屋をたくさん作って

家族みんなのベットを揃えたり、

カラフルにデコレーションしたり、

エメラルドやサファイアをツルハシで

掘り起こして宝箱にしまったり

リアルではできない冒険を楽しんでいた。


ふと、ゲームのコントローラーのカバーが

外れた。くいっと付け直すと、左手からぴょいと伸びるささくれが地味に痛かった。


お母さんに爪切りで切ってもらおうかと頼もうとしたら、ヘッドフォンして鼻歌うたいながら料理している。


珍しくご機嫌だ。


邪魔するのは悪いから

後でにしようか。


でもちょっと触っただけで痛い。


ゲームもやりづらい。


ストレスだ。


右手でクイッと引っ張ったが、

滑って取れない。


小さい僕の手では取れないみたいだ。


やっぱり頼もう。


ゲームをテーブルに置いて、

僕は台所にいるお母さんに声をかけた。



「お母さん、何作ってるの?」



「ゆうが食べたがっていた

 バナナチョコクレープ作ってたよ。

 この間、買ってたでかい生クリームが

 まだ残ってたから消費しないとって

 思ってね。」


「うそ、ほんと。やったーー。

 食べる食べる!」


 僕は台所の隅にある

 折り畳んだ踏み台を広げて

 その上に乗った。

 お母さんのクレープ作りを見学だ。


 いい匂いがしていた。


「お店みたいに上手には作れないけど、

 三角形を意識すればきっと大丈夫。」


 お母さんは、

 薄いクレープの生地をまな板に乗せて

 生クリームを大きく三角形にぎゅーと

 絞った。その上に輪切りバナナと、

 チョコレートを縦縞にして垂らしていく。


 かわいい模様のクッキングシートに

 包まれたクレープが出来上がった。


「はい、出来上がり!」


「わーーい!

 いただきまーす。」


 僕はクレープを持って

 食卓の椅子に座って夢中になって食べた。


 甘くて美味しかった。


 左手に持って食べていたささくれの手が

 気になった。


 また言いそびれた。


 お母さんはもうすぐ帰ってくる

 お姉ちゃんのクレープを作り始めている。


 ささくれがまだ痛い。


 それでもクレープは美味しくて

 ペロリと全部食べてしまった。


 ふと、ささくれーと手を挙げる

 パンダを思い出す。

 

 それじゃないんだけどな。



 【 完 】


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