第六話
デート中の話、つまり他人の惚気話を聞くのは悪くはない。あくまでもわたしたちは友達だし。
でもこうして毎晩彼にご飯を提供してきたのは変わっていく姿が愛おしかったし、会えることが嬉しかったから。
家に戻っても1人。
今まで平気だったのに家にいる時間をわざと減らして寂しさを紛らわしている。
きっと友達、として来てくれているミナくんも彼女に入れ込んだらもうここにも来なくなるんだろうな。
彼女に料理作ってもらうようになってさ。
「どうしたの、李仁……」
「ううん、なんでもない。あ、そうそう。これ……ラム肉の野菜炒めー」
「うまそうっ!」
でも彼は毎晩通ってくれて。
でも早く帰っていくからきっとその後彼女のところに言ってるのかしら。聞けばいいのに。ノリで。
食べる量も増えたし。でもやっぱりマメじゃない彼は手はガサガサ。クリーム塗ってないのか。でも爪は綺麗に切り揃えている。
つまりそう言うことだ。彼女の身体に、触れている。その指で……。
あれから一週間。
これは突然だった。今日は休みだったし、ミナくんも彼女と良いところでディナー行くとか言ってたし……。
良いところでディナー……でそっからホテルでセックスするんでしょ?
それを考えるだけでなんか無性に嫌になったからわたしは台所に篭ってストックを作っていた。
と言いつつも少しね、数日前にミナくんと夜の街で遊んだ日のことを思い出した。
お酒飲んで。ちょいと夜の街を案内してクラブ連れてったりカラオケしたり。
で、酔ったフリしてミナくんにキスをしたの。
そしたら……逃げられちゃった。
でも次の日の夜普通にご飯食べに来て昨晩は遊べて楽しかったって。何事もなかったかのようにいつも通りご飯食べて話して……彼は普通に接するからわたしも普通に接していたけどさ。
はぁ、段階踏まずに
とため息をつくばかり。
するとそこに着信音。
画面を見るとミナくん。
デートじゃなかった? もう今ディナーの時間じゃ。
「もしもし? どうしたの」
『李仁ぉおおおお……』
泣いてる?!
『ご飯は食べた? うううっ』
「ちょ、どうしたのよ……まだ食べてないと言うか作っていたって言うか」
『今すぐレストランきてぇえええ』
どうしたのよ?!
わたしは慌てて向かったわ。そう遠くはなかったし。
レストランの前で真新しいスーツを着たミナくんが立っていた。すごい泣き顔で。
そしてわたしを見るなり少し安堵した表情になった。てか、ミナくんだけ?!
「李仁ぉおおおお!」
「ミナくん?!」
「なるほどねぇ……」
レストラン、どうやらここは当日キャンセルするとキャンセル代かかるみたいだからわたしを呼んだらしいけど、彼女と入る直前だったらしい。
「彼女は結婚したいばかりで。僕が離婚して子供の養育費を払ってても別に良い、セックスの関係だけじゃ嫌、もうすぐ結婚を決めてくれって……」
ってセックスなんてこんな良いレストランで言わないでよ、ミナくん。
「で、僕はまだ……前のこともあったしゆっくりって言ったら平手打ちされて。だったら良い、そういうことあるかと思って他に同時進行の男が数人いるから。そっちにいくわって」
確かに頬が少し赤い。わたしはつい笑ってしまったけど可哀想よね。
婚活パーティーだもんね。結婚したかった相手とミナくんは……性欲を満たしたかった相手。
「ショックですよ。ほぼ毎日会ってたのにどこで他の男と会ってたんだって感じだよ」
あー、多分ミナくんと別れる口実だったのかそれとも事実でなくもないような。
帰りは車を運転して来たわたしが送っていくことに。
その中でもまだ落ち込んでいるミナくん。アパートの前に着いたけど降りようとしない。
「……ねぇ、李仁。まだ1人にさせないで」
とわたしの手を握って来た。
「わかったわ。じゃあ少しこの辺を……」
と車を出そうとしたとき
「どこか2人きりになれるところ……行きたい」
と手を握って来たのだ。その手の指はささくれがある。
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