第五話

 ……友達……。

 友達かぁ。


 やっぱり彼はノンケか。

 バイセクシャルと知ってどう思ったのかしら。わたしのこと。

 でも顔赤らめながら私のことかっこいいとか、友達になってくださいって……言う時の顔が……可愛かったぁ!


 ふふっ。

 今頃ミナくんはどうしてるんだろう。

 帰り際にハンドクリーム渡してあげたけどちゃんと塗ってくれるかしら。

 見た感じマメそうじゃないけどルーティーン化させたらやってはくれそうだけども。


 って思い出すだけでもニヤけてしまう。


 でもよく考えたら今日彼をあれこれ変身させたのも彼が婚活パーティーでで会った女性とのデートのためのものであって。


 ……。


 誰かのものになってしまうのか。


 彼はノンケだから……普通に女の人と付き合ってセックスして結婚して子供作るんだろうな。


 食事の時に聞いたけど結婚した奥さんとは学生結婚で10年共にして子供できたけど離婚したって言うから……ね。


 やっぱ女の方にいっちゃうかしら。そう思うと……なんだかなぁ。


 さっきまで喜んでいたのになんかテンション下がってきた。


 そんなこんなしてる時にミナくんは女の子とメールしているんだろうなぁ。


 ってなんだかんだ思春期の高校生みたいな感情に振り回されて気付いてたら寝ていた。




 目が覚めてスマホにメールが届いている。

『夜分遅くにすいません』

 ミナくんだわ。夜分に……ああ、深夜にメールが来ていたのね。


『今日夜、李仁のお店に行きます』




 そしてその通りに彼は店に来た。


 まだオーダーしたスーツは出来上がるのは先だから相変わらずくたびれていたけど、髪型やメガネを変えて少しはマシになったかも。


「いらっしゃい」

「はい……」

 わたしから見て斜め前のカウンター席に座ったミナくん。


 早速わたしはほうれん草のおひたしを出した。

「どう? 学校での反応は」

「生徒たちから何が起こった! ってめちゃくちゃ驚かれたよ」

「何が起こったって。高校生の反応、ウケるわね」

「普段授業聞かない生徒たちがいろいろ聞いてきて一時間授業が質問攻めで潰れたよ」

 と笑いながらほうれん草をパクリ。……よかった、ほうれん草食べられるのね。


「彼女できたのかってのが一番言われて」

 ……確かに聞かれるかもだけど。

「離婚したばかりだしさ、少しは独身気分味わいたいよってかわしたけど」

「あら、例の女の子には写真とか送った?」

「送らないよ、来週末のデートで初お披露目さ。その頃にスーツもできるし」

「そっか……」

 でもまだ指のささくれはそのままのミナくん。ハンドクリーム塗ってくれたのかしら。


「あ、父さんには会ったんだけどさ……たまたま。そこでも彼女もうできたのかって」

「そりゃ言われちゃうわよね、結構変身しちゃったし。てか実家に戻れば良いじゃない」

 ミナくんは首を横に振る。


「駆け落ち同然で出たからさ……帰るにもねぇ」

「兄弟は他にいるの?」

「一人っ子だよ」

「だったら尚更帰ったら良いじゃない」

「嫌だよ……まぁご飯には困るけどさ」

 話をしているうちに出したレバニラ炒めを彼は食べていた。ご飯もおかわりして。


「ご飯は出来合い? 別に悪くはないけど」

「まぁね。朝は抜いてるし昼は食堂かパン、夜はコンビニ弁当かなぁ」

 予想はできた食生活だけど……そんなんじゃ体に悪いわ。


「だったら平日の夜は毎日食べにおいでよ」

「えっ」

 わたしはこそっと伝えた。

「友達価格でお安くするから」

「……友達……価格」

 自分から友達になってください、とか言ってたくせになに戸惑っているのよ。


「そうだな、弁当毎晩買ってたし、しばらくここに食べに来るよ」

「うん。是非」



 したらばミナくん、律儀に毎晩店に来てくれて。わたしもバランスを考えて。少しずつ食べるようになってきた彼を目の前にして。いろいろ話しながら、互いのことを。


 そして一週間後。

「昨日あの子とデートしてきたよ」

 と微笑む彼。


 なんかちくっとなにか心が痛んだ。


「そう、よかったわね」


 全然、よくないよ……。だなんて口から出そうになった。

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