第四話
料理中に友達の美容院に連絡するのを忘れてバタバタしてたら案の定遅刻した。
「ごめーんっ。おまたせ!」
昨晩は少し抑えていたけどオネエバリバリで登場してみたら湊音、かなりひいてた。……やりすぎたか。
でもやはり私服はダサいし髪の毛ボサボサ。
「大丈夫です。あそこの本屋の前で本読みながら待っていましたから」
あそこはわたしのバイト先。昔、夜の街だけでは暮らしていけないと思ってもう10年近く続いている。店始めてからはもう月に数回だけどね。
「さてさてー、ここの四階に美容室あるから。そこに行ってー、メガネも変えてー、服も買って、最後はスーツもオーダーメイドするから」
「えええっ……?!」
とわたしの休みの丸丸一日をぎゅっとあんなこんなで詰め込んでみた。
相変わらず会ってからテンションの低い湊音だったけど髪の毛を切ってメガネを変えて服を変えて行くうちに彼が自分のことを鏡で見る回数が増えてきた。
スーツオーダーが終わった頃には夕飯時。流石にご飯を作る気力もないから喫茶店に寄ることにした。
鉄板スパゲッティを熱い熱いと言いながらも啜る湊音。左手で食べている……左利き、左利きの男……良いわね。
会った時よりもこざっぱりしたし。眉毛も整えたらなおさら。
「あの……李仁さん」
はっ、見惚れてたらバレてしまった?
「やっぱり左利きって気になります?」
「え、いや……別に」
「直せば良いんですけどね。癖なんで」
最初の頃よりも口数が増えてる……。そんな彼、グリンピースを避けてる。やっぱり偏食。これは直さないと。
って、なんかあれやらこれやらやってたら変わっていくたびにもっと湊音のことをなんかしてあげたいって……。
「あ、名前さぁ。呼び捨てにしてたけどよかった? 普段はなんで呼ばれてるの?」
「……その、普段は下の名前で湊音先生かな。あとはそう友達もそんなにいないけど呼び捨てとか。母さんにはミナくんって」
「じゃあミナくん、て呼ぶわ」
「えっ、あっ……余計なこと言うんじゃなかった」
その焦った姿が可愛い。
「ぼ、僕は……その李仁でいい?」
「良いわよ。同い年だし、さん付けよりも呼び捨ての方がいいわ」
「じゃあ湊音にして」
「ううん、ミナくんにする」
「あ、ああ……しまったなぁ」
可愛い、いじりがいある。
「李仁、その……あと……大変聞きづらいことを言うんだけどさ」
「なぁに? ミナくん」
「その、李仁って……いわゆる、オネエ?」
!!
今更?! わたしは水を吹き出しそうになったわ。
「オネエっていうか、ゲイ。まぁ正しくはバイセクシャル」
「つまり女の人も、ってこと?」
「あら詳しいわね。でも男の方しか恋愛感情抱かないわ」
急に聞かれるのは慣れっこだけど今更聞かれるなんて。焦ったわ。
「あと李仁のお店はゲイバーってこと?」
「それは違う。ただバイの男がやってる創作ダイニングバーよ。よく勘違いされるけど」
「ごめん……」
結構喋る子なのね、実は。ふむふむ。
「じゃあ今日案内してくれた美容師さんとかショップ店員さんとか……」
……まぁたしかに彼らもわたしの界隈の仲間で類は友を呼ぶっていうかなんと言うか。
「そうだけど、最後のオーダースーツならお店の店員は今は違うから。ちゃんと結婚して娘2人いるし」
「そうなんだね。いや、別にだからといってなんかその、あるわけじゃないから」
まぁ普通の人にとってはわたしたちは特殊に見える、それは否めない。
ミナくんがなんかさっきから目をキョロキョロ。落ち着きがない。
「どうしたの? ミナくん」
「えっと……ですね、僕って同世代の友達あまりいなくて。で、李仁さんってかっこいいじゃないですかぁ」
!?
「お友達になって、欲しいです」
!!!!
「も、もちろんよ」
「こんなこと面と向かって言うことじゃないよね」
そのはにかんだミナくんの顔、すっごいかわいい。
わたしはつい手を握ってしまった。とても冷たくてごつごつとした手、そしてささくれのある指……。
綺麗にしてあげたい。
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