第三話

 次の日の朝10時から湊音と待ち合わせすることになった。

 彼の大改造計画。気前よく彼の上司は一万渡してくれた。正直それじゃ足りないけどもね。

 かと言ってもっとちょうだいなんて言えないし言ったらあの婚活パーティーのサクラをしていた身分からしたら恐喝にしかならない。


 くたくたになった体で家に戻る。


 もうあかりはついていた。

「おう、帰ったか」

「ただいま」

 夜も遅いのにまだ起きていてのか……。ここの家の名義人。


 自称美術商で年上の甲斐。

 自称と言ってもそこそこな資産家で愛人のわたしにこのマンションの一室を与えてくれるし、ダイニングバーの資金も半分出してくれたから嘘ではなかろう。


 この部屋では男女何人かを集めて乱行パーティとかしたもんだけども今はわたしの部屋になっている。

 甲斐もよそで女を作ってそっちに入れ込んでいるのは知っている。


 なのにこの部屋に戻ってくる。

 懲りない男。


 ……正直、甲斐と一緒になりたいとは思っていた。とても気前が良くて可愛がってくれた。家族のいないわたしを救ってくれて住む場所も用意してくれて……オネエキャラで偽ってるわたしの気持ちもわかってくれた。

(今ではすっかりオネエしみついちゃったからどうでもいいけど)

 でも特にヒステリックで飽き性で。そして浮気性。


 わたしが仕事に行っている時に平気で女を連れてリビングでセックスしていたし。


 まぁわたしも他の男を呼んでセックスしていたからおあいこだけど。


 あっちも同性とは結婚できないってわかっているから……ああ、やっぱりダメなんだなって。


 なのにわたしは彼の都合のいいセックスの相手をしてくれるわたペット……帰ってきてすぐ彼の前に跪いて彼の欲を満たす。



「こないだ婚活パーティー行ったってな?」

「ただのサクラよ」

「下心ないとそう簡単に行かないよね?」

「……」

「そうそう、妻がさ妊娠したんだわ。でさ、里帰りするんだけど着いてきてって言われたけどさぁ、しばらく帰らなくていいか?」

 とか言いつつ戻ってくるんでしょ? でもわたしは返事ができない。


「好きに使っていいから、な?」


 ……。


 ってわたしが男連れてきたら男共々殴ったくせに。





 気づけば朝だった。

 甲斐はもういなくなっていた。

 わたしが用意した作り置きのおかず達は彼によって食い荒らされていた。わたしはそれの残りをよそう。それを朝ごはんにしよう。


 いつくるかわからない甲斐のために一週間に一回一気に作っておくけど今日は湊音のために時間を使う。

 10時までの時間に作れるだけ作っておこうかしら。

 圧力鍋、フライパン、鍋、グリルフル稼働。食材は店の分と一緒にネット注文で一気に注文しているから昨日の出勤前に冷蔵庫に詰め込んであるけどそこからも勝手に甲斐が手をつけたらしい。

 計画狂うわ。頭の中に色々メニューはあるから組み合わせていく。

 うちの店は創作ダイニングバーだしその日入った食材で作るからなんとかならなんとかなる。


 気づいたら店の時間も合わせて一日中料理している時もある。

 別に悪くはない。料理している時が気が紛れるのだ。


 過去のもっと荒れ狂ってて酒浸ってたり、ゲイダンサーとして腰をくねらせたり売りやホストをして夜の街でハメ外したりしてた頃に比べればまだ健康な方だわ。


 食生活なんとかなれば大丈夫……って……包丁持つ右手薬指にささくれができていた。

 わたしも人のこと言えないじゃない。


 口で噛んでちぎる。血が出ずに済んだ。


「あらやだ、間に合うかな……」

 朝の時間はあっという間でどんどんわたしは料理をする。朝ごはんを食べながら。


 一応バランス良く作ってるけど甲斐はなんも思ってもないだろうなぁ。奥さんの料理メインだろうし。


 店やっててよかった。喜んで食べてくれる人ばかりだから。


 ……湊音の偏食癖なんとかしてあげないと。でも彼も今までの男みたいにいなくなっちゃったりして。


 保証がないもの。一生一緒にいられるかわからないから。


 でももう慣れっこ。今日は楽しもう。

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