第二話

 とある日。


 わたしが腐れ切っていて荒れ狂っていたころ、経営者仲間から運営する婚活パーティーで男側が少ないからってゲイ(正確には女もイケるバイセクシャルなんだけど)であるわたしに声をかけてきて。


 自分が満たされるのであれば適当に女の子と一晩(男の方が尚更だけどみんな女の子のことしか考えてないだろうし)だなんて思って期待せず。


 参加していた人たちは男と女として出会い、結婚したい、子孫繁栄したいという人ばかりだった。出会い、でなくてもうすぐ結婚ってね。


 今年震災が起こってからなのか。誰かといたい、誰かと共にいたい……震災婚というのか。だから婚活パーティーもすごく流行っていたようで。


 そりゃわたしだって32だし家族とは縁切ってるし、親戚なんていないし。私1人きり。自分で言うのもなんだけど友達は多いけども。


 まぁ妥協すれば種はあるわけだから女の子と結婚したり子供を作ったりできるだろうが気持ちは許さないし、絶対に無理だ。


 ここにいるわたし以外の人たちは異性同士でしか相手にしようとしなかった。当たり前か。


 話し方、その着飾るメイクや服装や態度だけでわかるのもバーで人間観察していたからこそわかってしまったわけで。


 適当にわたしはヤレそうなウブな女の子と話をして適当な理由をつけてパーティ抜け出そうかしら、と思ったけども喉がとても渇いた。


 相手の女の子はわたしを男、結婚する相手にしか思っていない。ましてやわたしがバイであり、ハードプレイでわたしの欲を満たすだけの一晩で終わる関係だなんて思ってもいない子。

 

 って、何やってんだか、自分。若くないのに……。


 わたしは喉を潤すためにドリンクバーに行った時にいたのだ。


 わたしよりも背が低くて髪の毛はボサボサ、整えたつもりだろうが……、纏うものはビジネスカジュアルを意識したであろうモノだがダサい、とにかくダサい。そんな男がボーッと突っ立っていたのだ。


 きっと彼も乗り気で婚活パーティーなんぞ来たんじゃない、他の男達みたく女の子と付き合う気もなさそうって読み取った。


 しかも飲んでいるのはオレンジジュース。 

「そんなノンアルばかりじゃ元が取れないよ、あ……もしや車で来た?」


 オネエキャラは封じてその男に声をかけた。


「電車でツレと来た……酒は好きじゃない。弱いから」


 ぶっきらぼうに返されたその彼が握るグラスを持つ手。つい手を見る癖があって指も見た。

 ごつごつ、マメだらけ、そしてささくれ。とりあえず彼の持っていたジュースを奪ってその場で飲み干してみた。


 シャビシャビのオレンジジュース……ほんと美味くない。わたしの店なら搾りたてのフレッシュジュース飲ませてあげられるのに。


ふと彼を見ると少し顔を赤らめていた。そして目を合わしてくれず去って行った。


……ふぅん。




 結局その時はわたしの店の名刺しか渡せず。あとちゃっかり名前だけは調べておいた。槻山湊音と。


 しかし彼からは連絡は来ないままだった。


 だけどすぐ一週間後に来た。婚活パーティーに湊音と来ていたツレが連れてきたのだ。彼にも名刺を渡して正解だったわ。


「こいつ婚活パーティーで女の子できたんだけどさ。見た目がこれだろ?」


 婚活パーティーの時よりもくたびれた見た目とスーツ。仕事帰りらしい。

 2人は同じ高校教師で剣道部顧問同士の上司と湊音は部下。


 それよりも顔色の悪さと一番気になった指のささくれ。しっかり食べていないのだろうか。女の子と付き合ったけどセックスしたのだろうか、性欲漲ってる感も無い。

 わたしが出した料理も偏食で。食べかけかと思ったらタバコ吸うわ水の氷をボリボリ食べるわ。


「彼な結婚したったんけどなぁ。離婚されたんやわ」


 上司の方は酒を飲んでグダを巻いて湊音に絡む。どちらかといえばがっしりとした上司の方に後ろから犯されたい気持ちはあった……今までのわたしだったら。


 でも湊音のほうがいい。この不健康そうで性欲もなさそうでささくれだらけのこの男の方が。

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