【KAC20244】(BL)貴方のささくれを噛みちぎるまで

麻木香豆

第一話

 息苦しくて朝起きて覆い被さっていた彼の腕を持ち上げる。

「んんっ」

 しまった、起きたか。ん? いやまだ起きてないか。

 本当によく寝る人だ。無理もない。


 わたしはこっそり起きてシャワーを浴びる。


 上半身裸のままダイニングに行くと

「李仁、おはよう」

 彼、湊音が起きていた。彼も寝てた時のままの姿、上半身裸だった。

「おはようっ」

 ついわたしは笑ってしまった。なんだよ、と湊音は笑う。


「シャワー浴びてきていい?」

「いいよ」


 彼は高校教師、剣道部の顧問をしていて今日は練習も休みだと言っていたし、わたしも夕方からの仕込みまではゆっくりしたいからと。だったら、って昨晩は何度も愛し合って遅くまで互いの気が済むまで交じり合っていた。

 ようやく彼もこの関係の愉しみ方がわかったようで……でもなんかまだその、性的関係でしかないんだろうな、という距離感で。

 いわゆるセフレだろう。


 湊音にはまだわたしみたいに同性愛者という自覚はない。

 でもわたしはそうやって生きていたわけで。


 そういう相手はなかなかできなくて。身体だけの関係に終わってしまっていた。

 ただ互いの性欲を満たすだけ。


 だって日本が同性婚を認めない限り男女の結婚のような永遠の違いなんてないから。


 だから諦めた感覚もある。


 高校の時に若い男の先生と恋に落ちてから自分の嗜好を知り、家族と離れオネエなキャラで夜の街を生きて処世術と酒と料理を覚えてダイニングバーを1人で切り盛りできるようになった。


 一生フラフラと色んな人と永遠がない関係を続けるのか、それがわたしの運命だと思っていた。

 店に出資してくれた恋人も結局はわたしを性的なおもちゃとしか思ってなくて本当は女が幾人かいる、ただの性欲を満たすだけの愛人ペット……。

 まぁそういう人生でもいいとは思ったけどいつかは捨てられるのよね、今までの男たちのように。


 でも今回、一緒になろうと思った湊音……多分わたしはこの人と一緒にいられるんじゃないかと確信している。

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