第7話 舞踏会⑤

「・・・アレク。君も来ていたのか」



ウィルはアレクの存在に気がつくと、

私を庇う用に前に出て、言った。



ウィルはアレクが私に婚約破棄を突きつけた

ことを知っている。



それに、おそらくだがアレクを見た瞬間に

私が怯えたのに気づいてくれたのだろう。



だから私とアレクの間に入るように

移動をしてくれたのだ。



ありがとう、ウィル。



そして、ごめんなさい。

あなたには迷惑ばかり掛けてしまって。



楽しいはずの舞踏会を、

台無しにしまっている。



・・・心臓が、バクバクと鳴る。



頭では婚約破棄を告げられたときの、

嫌な記憶が再生されていた。



気持ち悪い。

吐きたい。



そんな感情が私を支配する。

今、こんな顔を誰にも見られたくなどなかった。



今さっき、前を向こうと決意したばかりなのに。

どうして。



後悔せずには、いられなかった。



「おう!せっかくかわいい女がいるんだ。

見せつけなけりゃあ、損だろう?」



アレクは、隣にいる婚約相手の

臀部(でんぶ※お尻のこと)をさわりながら言った。



舞踏会と言う場においてふさわしくない態度だ。



周りの人々がザワザワと、

どよめき始めたのが分かった。



「や~ん!うれしい~。

で、アレク、この人だれ~?」



「騎士団の同期だ。

副団長だぞ。あいさつしとけ」



「え、まじ~。あたしリエ。よろしく~」



しかし肝心なアレクと、その新しい婚約相手で

あるエリは、そんなどよめきも無視して会話を続ける。



あの声を聞くたびに、体が震えてしまう。



怖くなって、私は思わずウィルの背中に隠れた。



お願い、気づかないで。

まだ、顔を会わせる覚悟など、

できていないのだ。



「・・・・・アレク、はしたないぞ」



私がウィルの後ろで縮こまる中、

ウィルは低い声で言った。



声からするにウィルもかなりアレクのことを

警戒している用だった。



先ほどまでの子犬のような彼と、

雰囲気は真逆だ。



しかしアレクはそんなことを

気にする素振りも見せなかった。



「は!別にいいだろ?俺達は騎士だ。

口答えしてきた奴は黙らせればいい」



そう言いながらウィルの肩を軽く叩く。



そしてウィルに顔を近づけながら、

小馬鹿にするような顔で、



「お前は真面目すぎるんだよ、ウィル。

俺より早く昇進したからって調子のんなよ」



と言った。



・・・アレクも昔と全く変わっていない。



ああやって人を小馬鹿にして、

相手を傷つく様をみて喜ぶのだ。



昔からそうだ。



そして家柄も、実力もあるから、

誰も言い返すことはできなくて、

今なお留まることを知らない。



アレクは、人の気持ちが分からないのだ。



馬鹿にされたら、気にしていることを言われたら、

どんな気持ちになるかを理解出来ない。



だから、あんなに平然と人を傷付けることができる。



わかり合おうとか、反省させようなどと考える事自体が無意味だ。



関わらない。

それが、一番。



でも、



「あれ?あれれれ?なんだ!かわいい子いんじゃん!」



私は、そんなアレクと、目が合ってしまったのだ。

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