第4話 舞踏会②
「気分がすぐれませんか?お嬢さん?」
「あ、えっと、その」
突然の事で、続きの言葉が出てこなかった。
ウィルがこんな大胆なことを
してくるとは予想していなかったからだ。
家では何度も、ウィルと出会ったときに
どう声を掛けるかの練習はしていた。
でもこんな唐突な出会いは想定外だ。
彼は昔の面影を残しつつ
立派な男性へと成長している。
それだけでも、対応が大変なのに。
こんなの卑怯だよ。
私は思わずうろたえた。
どうしよう。
なんて返せばいいんだろう?
頭の中で思考がグルグルと空回りしてしまう。
えっと、えっと。
「よろしければ、手をかしましょうか?」
混乱し、言葉が出ない私に対して、
ウィルが続けていった。
・・・そこで私は違和感に気づいた。
あれ?
まさウィル、本当に私だって気づいていない?
本当に別の子が、気分が悪くなったと思っているんだ。
私はジッとウィルの顔を見つめる。
ウィルは頭に疑問符を載せながら首を傾げていた。
どうやら本当にそのようだ。
ウィルの勘違いに気づくと、
思わず私は心の中で微笑んでしまう。
そうだ。
そうだよね。
少し痩せたということを
手紙には書いてたけれど、
ウィルは実際の姿を知らないもんね。
私もウィルを昔のイメージの
ままで考えていたんだ。
彼も、同じように誤解していてもおかしくはない。
ごめんね、ウィル。
私がちゃんと伝えておくべき
ことだったね。
ウィルが気づかないくらい自分は
変われたのだという幸福と、
自分だけが状況を理解してるという優越感
が私を襲う。
・・・こんな状況も悪くないかも。
そう、心の中で思った。
「いえ。大丈夫です。ありがとう」
私はウィルの誤解を理解しながら、
他人の振りをしてウィルの言葉に
返答をする。
・・・ウィルは私の事を舞踏会へと招待してくれた。
だから彼のことは信じている。
でも、私の中には、まだ少し不安があった。
こんな私と踊るよりも、
もっときれいでかわいい子と踊りたいと
内心思っているのではないか、という不安だ。
もし、もしだ。
今この状況で、一緒におどりませんか?
とお誘いをしたら、ウィルはどんな反応をするのだろうか?
醜い私など捨てて、手を取ってしまうのではないか。
そんな悪い妄想が、自分の中から湧き出でしまう。
性格が悪いのは分かっている。
でも、試してみたい、と思ってしまった。
「もしよろしければ、一緒に踊っていだだけませんか?」
私はウィルの手を取って、言った。
ウィルは少し驚いたような顔をした。
ウィルは、どう反応してくるだろうか?
不安で胸がざわざわとする。
でもウィルはそんな私の不安をよそに、
にっこりと笑いながら、
「お誘い、ありがとうございます。
ですが、申し訳ありません。私にはもう、
共にするパートナーがいるのです」
と優しく告げた。
彼のそんな態度をみると、
ふふふ、という笑いが自然と漏れてしまった。
「何かおかしなことでも?」
再びウィルが首を傾げる。
私は笑いながら彼の手を強く握った。
試してごめんね、ウィル。
疑った私が馬鹿だったんだ。
君はそういうことをする人じゃないのに。
でもほんとうに、うれしいよ。
「いいえ?自分から誘っておいて、
断るだなんて、失礼な人だなあって」
今度は、スッと言葉がでてきた。
優しい彼に対しての、ちょっぴり意地悪な言葉。
ウィルは私の顔をしばらく見つめる。
「・・・・・・?まさか!エレナか!?」
※エレナ=エレオノーラの愛称
そしてやっと気づいたように、目を見開いた。
おどろいてる、おどろいてる。
そんな綺麗な反応をされてしまったら、
嬉しくないわけないじゃない。
「そうだよ?ひさしぶりだね、ウィル」
「・・・・・・・!」
今度はウィルの方が言葉が詰まってしまっている。
立場逆転だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます