第3話 舞踏会①

「やっぱり、参加しなければよかった・・・」



たくさんの人が綺麗なドレスを着飾っている会場で、

私は現在進行形で後悔をしていた。



たくさんの人々の目線が私に注がれている。



目線の理由は、明らかに

私が着ているドレスであった。



今私が着ているドレスは、

この舞踏会のために改めて作ってもらったものだ。



仕立屋さんの意向により、

肩も出すタイプになっている。



一年前まで肌を一切出すことのない服を着ていた私にとっては、

着ている姿を想像することもできないものだ。



最初に見たときは恥ずかしくて着れません、と断ったのだが、仕立屋さんのこれが一番似合いますよ!!

という猛烈な推しに屈服してしまい、結局着るはめになってしまった。



舞踏会にいる人達の目線が、

私の肌に向いているのが分かる。



意識してしまうと、余計に背筋がぞわぞわとしてきた。

耳が熱くなってくる。



ああ、たぶん顔も赤くなってるんだろうな、わたし。



行儀が悪いと分かっているが、

つい自分を落ち着かせるために自分を自分で抱きしめた。



大丈夫。落ち着ついて。

前みたいになることはないのだから。



笑顔の練習もしたんだ。

だから背筋を伸ばして、立っていれば大丈夫。



まったく、元々、舞踏会など大嫌いだったのに、

どうして調子にのってしまったのだろう。



ああ、ウィルの馬鹿!

何が一緒に踊ってほしいだ。



あなたのせいで変な勘違いをしてしまったんだからね、

と、心の中で悪態をつく。



当然だが、ただのいちゃもんだ。



ウィルからの手紙には確かに仕事も落ち着いたので一緒に舞踏会に参加しないか、と

書かれてはいたが、強制していた訳ではない。



手紙を読んで参加を決めたのは私自身の意思だ。



だからウィルの方にはまったく非はないのだが、

恥ずかしさをごまかすために彼には犠牲になってもらった。

ごめんね。ウィル。



でもお誘いは、すごく嬉しかったんだ。



昔、まだわたしが太っていたとき。



両親によって無理矢理参加させられた舞踏会

では嫌な思い出しか残っていない。



変なミスをしないように一杯練習をして望んだにも関わらず、

豚が踊っていると、影でわらわれた。



逆に、美人な方は多少のミスをしていても、

すばらしいと褒め称えられていた。



結局、舞踏会という名であっても、見られているのは容姿であり、

努力でも立ち振る舞いでもないのだと、幼い自分でもさすがに理解した。



・・・でも、ウィルは違ったんだ。



みんなが豚と私を罵る中、

彼だけ私の舞踏を見てくれていた。



そうして、誰があんな奴と踊るかと

皆が拒絶する中、私の手を取ってくれた。



あのときの感謝は、今でも忘れていない。



だから、彼には恩返しがしたいのだ。

あのときはありがとう、と。



・・・アレクへの復讐はあきらめていない。



でも、それは後だ。



罵る事ばかり考えて、大切にしてくれた人を

ないがしろにしてしまえば、私はあいつらと同じ

土俵に墜ちてしまう。



そんなことはしてやらない。



私はあいつらとは違う。

もっと立派で、高貴でありたいから。



そう心に誓った。

その時だった。



「気分がすぐれませんか?お嬢さん?」



「え?」



男の人の声が聞こえてきた。



思わず私は顔を上げる。



・・・顔を上げた私の目の前にいたのは、

礼服に身を包んだ男性だった。



知っている顔だ。



それもそのはず、

それは私をこの舞踏会へと招待してくれたウィルだったのだから。

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