第2話 新しい服

「まあ!エレオノーラ様、とても似合ってらっしゃいますよ!

お洋服も、喜んでいるのがわかります!」



「・・・ありがとう」



それは新しい衣服を作ってもらい、

試着している時のことだった。



仕立屋さんは両手を合わせ、笑みを浮かべながら、

私を賞賛してくれる。



営業のための方便ではなく、

心からの言葉であるのだということはすぐにわかった。



だからこちらも義務的ではない、

感謝の言葉を返す。



ほめられることにあまりなれていないから、

少しぎこちなくなってしまったけれど・・・。



やっぱり、なれないなぁと、

顔が熱くなってくるのが分かった。



減量生活によって、

私の人生は180度変わった。



元々縦にも横にも長かったわたしの体型は、

横の肉がなくなったことで縦に細長いシュッとした体型に変化した。



前にはなかった綺麗なくびれが、今はある。

自分でさえ見るのがいやだった贅肉だらけのお腹は、もうないのだ。



一年前は仕立屋に行くことが嫌いだった。



私が行くと大抵の仕立屋はぎこちない営業の笑顔を浮かべながら、

おきれいですね、似合っていますよ、と言葉をかけてくる。



心では一切そんな風に思っていないことは一目瞭然だった。



ただ着ればいいように作られた、他のお客さんのものより数倍大きい私の衣服と、

ムスッと不機嫌そうな顔をした、丸い私。



この二つが合わさって出てくるモノなど、たかが知れている。



だから私にとって仕立屋はただ居心地が悪い場所で、

何時間もいる子をみると、それが不思議でしかたがなかった。



でも今ならばわかる。かわいい衣服を着て、

似合っていると褒められると、わくわくする。



こころの中でもっと色々な衣服も試してみたいという欲求がわいて出てくる。

ああ、あの子達はこういう気持ちだったんだな、と今更ながら納得した。



(笑顔の練習もしないとな・・・)



私は、鏡に映るまだぎこちない顔をしている自分みて思う。

自分の指で口角を上げて、笑顔を作ってみる。



うん。



やっぱりこうしたほうがもっとかわいくなる。

家に帰ったら練習しよう。



私は、仕立屋さんに代金を払い、お店をでた。

新しい衣服は、そのまま着て帰ることにした。



雲一つない青い空。

太陽が昇り、辺りを照らしている。



「ねえ!あれ!見て見て!」


「え?うわ!すっごくスタイルいい人だね!」


「ね!きれい。憧れちゃうな」



家に帰るために町中を歩いていると、

周りの人が私を見てはひそひそと話す声が聞こえてくる。



たくさんの人が、わたしを見ている。

意識すると心臓がドクンドクンと音を立て始める。



大丈夫。落ち着いて、わたし。

前みたいに馬鹿にされているわけじゃないんだから。



昔みたいに豚だの、醜いなどと、陰口を言われているわけじゃない。

だから下なんてみなくていいんだよ。



背筋を伸ばして、まっすぐ前を見て歩く。



未だに醜い豚と言われた時の事を思い出すことはある。

トラウマになっていて、すごく胸が苦しくなる。



でも思い出すたびに、頑張ってきた自分も思い出す。

もうあのときの自分とは違うのだ。



同じ言葉を、誰にも言わせはしない。



・・・準備は整った。



貰った苦しみを、後は返してあげるだけ。

そうすれば私は本当に救われるのだ。



さて、どうしてくれようか?



家に着くと、玄関の前に顔なじみの郵便屋さんがいた。

こちらに気づくと微笑み、



「エレオノーラ様、いつものです」



と言いって、一通の手紙を手渡してくれる。



差し出し人は、ずうっと手紙のやりとりをしている同級生のウィルだ。

いろいろ忙しいらしく数年間会えていないけれど、手紙だけは欠かさずにくれる。



彼の手紙は、読むとといつも楽しい気持ちになる。

それに婚約破棄されてしまった時に、私の心配してくれたのは彼だけだった。



返信、どうしようかな?と考えながら、家に入り封筒を開いてみる。

封筒の中には見慣れた手紙と、見慣れない一回り小さい封筒が入っていた。



はて?



これはなんだろう?と頭に疑問符を浮かべながら、封筒の表紙をみる。

そしてそこには



「・・・舞踏会へのお誘い?」



と書かれていた。

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