ささくれを剥がせば
酸性元素
第1話
ある日、彼女の指にささくれができた。
「恵美ぃ、ささくれてるよ?」
きっかけは、クラスの女子に指摘された事だった。
有原恵美。それが彼女の名前。
普段から、彼女は肌を気にしていた。クラスの男にどう見られているか、クラスの女子と比べて汚くないか、兎に角それにばかり目が行くような人間だった。
このささくれに関しても、彼女にとっては死活問題だった。どうにかして、取り除かなければ。クリームでも塗るか?いや、でも…治るには時間がかかる。
ペリ、と剥がしてみる。ズキリ、と肌が痛む。僅かばかりの血が、肌から出る。
「ああもう、焦ったい。」
ついに彼女は、思い切りそれを剥がしてしまった。
「痛っ!」
思わぬ激痛に、彼女は手を押さえる。ささくれとは、こんなにも痛いものだったのか。
だが、これで無くなった。これで解決した。
そう思っていた。
「恵美、またささくれ増えてるよ。」
何気ないクラスメイトの指摘。それが彼女を絶望させた。
早く、早く早く早く早く……なんとか無くさなきゃ。指についたささくれを次々と剥がしていく。ベリベリ、ブチ。聞こえるはずのない音が聞こえる。痛い、だけどこの痛みは治ってる証だ。満面の笑みを浮かべる彼女は、ふと後ろの鏡が気になり、振り返る。
「汚い……!」
なんと汚い肌だろうか、あちらもこちらもささくれている。剥がさなきゃ、剥がさなきゃ剥がさなきゃ剥がさなきゃ剥がさなきゃ剥がさなきゃ剥がさなきゃ剥がさなきゃ剥がさなきゃ剥がさなきゃハガサナキャハガサナキャハガサナキャハガサナキャハガサナキャハガサナキャハガサナキャ……
腕から背中に至るまで、ひたすらに肌をかきむしる。要らないものを、無くしていく。なんと言う快感だろうか。これで私も綺麗な肌になる。みんなに汚いと言われずに済むんだ。
「ねー、恵美が転校した理由…知ってる?」
「自分の肌掻きむしっておかしくなっちゃったんだって。」
「ていうかさ、あんたささくれ酷くない?」
ささくれを剥がせば 酸性元素 @sanseimotonari
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