第17話 ケンカの理由
「どういうこと?」
泣きじゃくる太子に尋ねる。太子は所々涙で言葉を詰まらせながらも、話してくれた。
まず、私以外の皆は結構早くに起きたらしく、ずっと私を起こしていたようだ。
そんな時に、作者である都町車がこの世界に訪れたらしい。随分疲れた様子だったらしく、太子に甘えることもなく、「ケツアゴは起きてるか」と三人に尋ねる程だったようだ。
そんな時に、太子は作者に「自分も戦いたい」と話したようだ。太子的には、快諾して貰えると思ってたのだろう。
しかし、予想に反して、作者は言葉に詰まった。
多分だが、彼が私を探していたのは、そのことについて相談したかったのだろう。
あれだけ、「太子には傷ついてほしくない」と言い、戦わせることに躊躇いがあったのだ。どうすればいいかわからず、唯一相談できそうな私を頼りにしたのはわかる。
けれど、運悪かった。私だけが起きてないという予想外の事態に困ったのだろう。そこに、トドメと言わんばかり、太子が更に追求してしまったらしい。
混乱した作者は、「ダメだ!」と太子に怒鳴ったそうだ。
太子は太子で、まさか否定されるとは思わず、しかも初めて怒鳴られたことでパニックになったそう。
気付けば、泣きながら「何故ですか!?」と更に追求してしまったらしい。
そこからは、もう想像出来るだろう。
泥沼である。ひたすら言い逃げる作者に、何故何故と追求する太子。
ハムチーやドラゴンたちも止めようとしたが、全く制止を聞き入れない二人に、優しい二人はどう止めればいいのかと戸惑ってしまったらしい。
その内、作者は起きる時間が来てしまった。
結果、喧嘩別れし、今に至るということだ。
ここまで聞いた私は、「神様めぇええええ! こんな時に呼びおってええええ!!」という怒りによる頭の痛さを感じていた。
「本当に、ボクっ、どうしたら、うっうっ」
未だにぐじゅぐじゅと泣いている太子に、私は持っていたハムチーを託す。ぎゅっと、ハムチーを抱きしめる太子は、涙や鼻水でハムチーの背中の毛を濡らしていた。
本当に幼い子供のように泣く太子に、私は優しく頭を撫でた。
「まあでも、ちゃんと気持ちを言えたのは偉いわね。大丈夫、ほぼ十割くらい作者が意気地なしでアホの、いろんなものが小っさい問題あり野郎だから」
「レーヌさん、流石に言い過ぎッス」
フォローしようと言った言葉だったが、思ったよりもキツかったらしい。びしょびしょになったハムチーから、すぐに鋭いツッコミが入る。しかも、未だ泣く太子が「ボク、のが、悪いですっ」と言葉に詰まりながらも、何故か作者を庇い始める。
「作者様と揉めて大丈夫ドラ?」
そんな中、ドラゴンさんがかなり心配そうに眉尻を下げて、私たちに問いかけた。
「どういうこと?」
私が尋ね返すと、ドラゴンは言い辛そうに口をもぐもくし宙をぐるりと見た後、小さく口を開いた。
「今まで渡り歩いた経験の中で、作者と主人公が喧嘩したせいで、作品としてストップしてしまったのを見たことあるドラ」
「え? まじ?」
私の脳裏に先程の光景が過る。あの、神様に見せられたあの壊れていく瞬間が。ぞわっと背中に悪寒を感じ、額からいやな汗が流れた。ドラゴンは私のマイナスの変化に気付いたのか、さらに気まずそうな表情で言葉を続ける。
「特に物語の展開、こだわり、自分でも気付いてる悩みに関しては、作者もナイーブになりがちドラ。特にこの『クラウドステージ』にアクセスできるタイプの作者は……」
言い淀む姿に、太子から息を呑む音が聞こえる。見れば、その顔は青を通り越し、真っ白になっていた。人間の表情からここまで絶望を感じることなんて、ほとんど無いと思うほど。
「ボクのせいで、この世界が止まっちゃったら」
あまりにも消え入りそうな声。太子の身体がぐらりと傾く。私はすぐに身体を支え、力が抜けた腕からハムチーは綺麗に地面へと着地する。
もう耐えきれなかったのか、なんと気絶してしまった。何せ、太子にとって、この世界を続けていくのを一番願っていたのに。
それを自分との口論で台無しにしちゃったとなったら、感情のキャパシティオーバーで気絶するのも理解できる。
「ご、ごめんドラ! 大丈夫ドラ!!」
「いや、ドラゴンちゃんは悪くないわ。ただ、太子にはちょっと荷が重すぎたのね」
ドラゴンは申し訳なさそうに頭を下げる姿に、私はすぐにフォローする。ドラゴンの不安もわかるし、寧ろその懸念は気付くのに遅れれば遅れるほど致命的になる。
それに、私は今、ドラゴンの言葉に
「ねえ、ドラゴンちゃんて、その『クラウドステージ』にアクセスできる人の条件って知ってるの?」
ドラゴンは、意外そうに大きく目を見開いた。
「前に主様に教えてもらったから、知ってるドラ」
私達は一度太子を横に寝かすと、ご飯を食べた時のように焚き火を囲む。なんとなくだが、ドラゴンが持っていた鉄の串に椎茸を挿し、火に炙る。
ドラゴンはその間にお茶をやかんで沸かしてくれ、私たちに配ってくれた。
「『クラウドステージ』のアクセスできる人には、大きな条件が二つあるドラ」
ずずっとお茶を啜るドラゴンは、まるで長老のような風格で話し始める。私はお茶を飲みつつ、焼け始めた椎茸をくるりと返した。
「まず、創作者の中で創作スタイルが
「
「初めて聞いたッス」
「あくまでも、主様が使ってる言葉から知らなくても仕方ないドラ」
気を遣っただろうドラゴンは、優しい口調で前置きし、話を続ける。
「分かりやすく説明するドラ。創作をする時に、何が中心軸かどうかで分けてるそうドラ。『どういうストーリーを書きたい』とか『どういう構図で描きたい』という計画が主軸な計画ライク。『今の気持ちを表現したい』、『自分について知ってほしい』と言う作者自信が主軸な作者ライク」
比較的に分かりやすい説明に、私の頭の中にスッとその説明が入ってくる。
創作しようと思ったことは人生であまり無いが、何かを創り出すにしても主軸が必要なのは想像ができる。計画だったり、自分自身の主張だったりは、わかりやすい主軸だ。
「そして、登場人物ライクというのは『この登場人物の人生を書きたい』、登場人物主軸のことを言うドラ」
「登場人物が主軸……」
私は少し納得がいかず、訝しげに頭を傾げた。だって、登場人物というのは作者が生み出した妄想だ。登場人物を書きたいというのは、言わば『書きたいストーリー』や、『自分の主張の投影』に該当するのではと思うのだ。
「こればっかりは、説明が難しいドラ」
ドラゴンは、そんな私にどう説明するかと小さく唸りながら、説明を続ける。
「実は作者の中には『登場人物に憑依』したり、『神の視点』になったりして、見たもの、体験したものを書く人も居れば、この世界の作者様のように『登場人物たちと対話して書いていく』人もいるドラ。こういう人達は、皆、『登場人物たちが勝手に動く』っていうドラ」
「随分、妄想逞しいわね」
素直な感想を述べると、ドラゴンは困ったように小さく笑う。
「妄想は楽しいからこそ、脳をこれでもかって使うドラ。だからこそ、あまりにもやりすぎると、知らず知らずのうちに頭が疲れちゃうドラ」
「だから、負担を減らすために、『クラウドステージ』なのね」
妄想にあった箱庭を用意し、私のような勝手に動く登場人物たちを用意しておく。そうすれば、わざわざ脳が登場人物たちを動かさなくとも、私たちが勝手に動くから負担を減らせるということか。
それに、登場人物ライクで無ければ、私たちを最大限活用するのは難しい。計画や、首長をするのに、私たちの声は煩わしいと思うし。
神様もその辺りを理解しているのだろう。
一人で納得していると、ふとハムチーが声を上げた。
「でも、条件って二つあるんッスよね。もう一つは何なんッスか?」
それはごもっともな指摘で、私は「たしかに」とドラゴンの顔を見た。
「これが第一条件ドラ、第二条件はもっと難しいドラ」
ドラゴンは、少しばかりキリッとした表情で、私たちの顔を見た。
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