30:まぁ理由わね、うん……

「はい! というわけで到着しました『へスぺリベス』!」


「……誰に言ってんんだ?」



そりゃもう大自然によ! アユティナ様はリアルタイムで見てるっぽいしいいかな、って。


いや~、思ってたよりも長旅でしたからねぇ。ペガサスの群生地がある地帯で一番大きな町である、『へスぺリベス』! 到着したとなればティアラちゃんの感慨もその分深くなるってやつですよ。いやほんと道中辛かったからさ……。


基本的に何か大きなトラブルに巻き込まれるってことはなかったんだけどね? 朝起きて馬車移動させて、町があったらそこに寄って物資の補給。もしくは交易の真似事。ある程度進んだら馬車止めてご飯の用意しながらいつもの鍛錬って感じだったんだけど……。



(も、もう訓練はいやですっぴ……!)



あの、普通にキツいんです。『今度あんな変態とぶつかるって考えたら、今の実力じゃすぐ喰われるぞー。』ってことで、とてつもなく強度が上がったオリアナ師匠の指導。ダンジョンに潜って実戦を積む、ある意味休憩時間とも呼べるそれがなくなったからさ……、クソキツイんですよ。いや確かに今のままじゃマジでどうにもならんって言うのは理解してるんですけどね? もう少し手心というか……。



「そんなのしてると戦場で真っ先に死ぬがいいのか?」


「ア、イエ。ガンバリマス……。」



私は“知識”のおかげでこの世界の“未来”について詳しいけれど、オリアナさんの方が“この世界自体”について詳しい、戦場についてなんかもってのほかだ。人生のほとんどをそれに注ぎ込んできた彼女がそう言うってことは、ほんとに死んじゃうのだろう。が、頑張らないと……。


常に私の限界の一歩先を想定した訓練達、手加減はかなりしてもらってるんだけどオリアナさんとの模擬戦が特に滅茶苦茶キツイ。おしっこちびりそうな殺気をガンガン飛ばしてくるし、何かミスった瞬間即死しそうな攻撃ばかり飛んでくる。本当に死ぬことはないんだろうけど、プレッシャーがヤバいの。きちゅいの。……え? 帝国には私よりももっとヤバいやつゴロゴロいた? うそん……。


まぁそんな感じ頑張った結果が、こちらになります。



〇ーーー〇


ティアラ 空騎兵 Lv2→3


HP (体力)10→11

MP (魔力)6

ATK(攻撃)6→7

DEF(防御)6

INT(魔攻)6

RES(魔防)7

AGI(素早)8→9

LUK(幸運)0


MOV(移動)4(7)


〇ーーー〇



道中見つけた魔物や野生動物は、定期的に刈り取っているので何とかレベルを一つ上げることが出来た。それ自体はAGIを一つだけ上げるっていうクソ成長だったんだけど……。オリアナさんの訓練のおかげで、HPとATKを上げることに成功したって感じだね。



(上がったのはとっても良いことなんだけど、あれぐらいしないと上がらないって言うことだから……。うへぇ。)



“ティアラ”というこの身は、決して才能あふれる体ではない。すでに私の体だし、別にそれはいいんだけど……。やっは原作主人公とかのことを知ってるとね? もうちょっと何かないんですか、って言う気持ちが出てきてしまう。私『村人』から転職して『空騎兵』っていう下級職になったのに、まだ幼少期主人公に勝ててないんですよ……?


才能はお察し、となれば努力で出来るだけ差を詰めて、残りはステータス以外のことで頑張らないとだからねぇ。……訓練頑張らなきゃ。



「あぁ、そうだティアラ。言っとくが……」


「解ってるって“お婆ちゃん”。ティアラちゃん演技力はあるんだぜ☆ 主演女優賞もらえちゃうぐらい!」


「それが何なのか知らんが、初対面のこと忘れてねぇからな?」



うぐっ! それを言われると痛い!


現在私たちは、町の中に入る検問待ちの列に並んでいる。そんな時に言われたのは、『設定』に関してのお話だ。現在私たちは誰かに追われてるってわけではないんだけど、この戦乱続く世界の中でのんきに旅してるって言うのは……、ちょっとおかしい。


比較的王国は帝国に比べて立地が恵まれてるから豊かな方ではあるんだけど、それでもどこも余裕がない生活を強いられている。戦争ばっかしてるからね。というかそもそもお外に魔物が出るから危険だし、盗賊たちもわんさかいる。そんな状況だから普通の人間はお外には出ない、自分の生まれた町や村から出ずに一生を終えるってこともあるぐらい。


そんなところに血縁関係もなく一緒にいる婆と幼女、しかも婆はクソ強くて、私は違う神を信仰している使徒。欠片でもバレたら怪しまれるし、依然として『異端者』は火あぶり直行ルートであることは変わりない。宗教関連の問題は保険適用外なんだよね~、保険入ってないけど。



(というわけで“設定”として、オリアナさんは私のお婆ちゃんで、軍から退役した後に交易を始めてみた人。んで私は両親死んじゃったから付いて行ってる感じの娘っ子って設定だ。)



カバーストーリーとしては、才能に恵まれて『空騎兵』になることが出来た孫のために、お婆ちゃんが一肌脱いでこの町まで連れてきてくれた、って感じだね。基本的に“そういう設定の元”で私たちは動く。というわけでそろそろ門番さんたちが積み荷のチェックに来るだろうから、ティアラちゃん年齢相応のクソガキに成りますね!!!


ちょっとだけ声のトーンを上げて、っと。



「ねぇお婆ちゃんまーだー! 私もう、つーかーれーたー!」


「(こいつ……)はいはい、解ったから。」


「すみません、積み荷の検査を……。お孫さんですか? 大変ですね。」



そうこうしていると、門の方から門番らしき二人組がこちらに向かって歩いてくる。案の定積み荷の確認をしに来たようで、若い方の兵士が話しかけて来た。ほらほらオリアナさん笑って笑って! そんなんじゃ怪しまれちゃうよ!


確かに私の“空間”の中には発覚するとかなり不味いものばかり! アユティナ様からもらった神器こと【オリンディクス】とか、【アダマイトの槍】とか! 他にも色々入ってるけど!


積み荷はまともなのしか置いてないぜ! カモフラージュ用ってやつだな!



「ははは……。」


「あ、兵士さんだ! こんちわ!!!」


「はいこんにちは、ちょっと積み荷見せてもらうけどいいかな?」


「もっちろーん! あ、そうだ! いいものたくさんあるからついでに買っちゃう? 高くしちゃうよ!」


「……そこは安くするんじゃないのかい? というかお兄さんたち仕事中だからね。」



……ほーん。この町の門番さんは当たりっぽいですね。いや良かった良かった。長旅だったから道中結構色んな村や町にお邪魔することになったんだけど、門番ってほんとピンキリなのだ。袖の下要求して来る奴もいるし、難癖付けて商品持って行こうとする奴もいる。


そういう時は基本私がおくるみにお金包んで手渡しして“ニコー!”ってするか、オリアナさんが鉄拳ぶち込むんだけど……。今回は何もなくて良かったぜ! 2,3人色々とヤバすぎて埋めちゃったからな……。あ、オリアナさんにちゃんとゴーサイン貰ってから“やってる”ので安心してね! いやだって初対面で私の身柄要求して来るとかヤバいでしょ。伯爵か?



「……特に問題はなさそうですね。身分を証明するものはありますか? なくても記帳していただくだけで大丈夫です。」


「これでいいかい?」



そういいながらオリアナさんが兵士さんに手渡すのは、王国兵時代の階級章と冒険者組合のカード。そして二人&馬車の入場料だ。冒険者組合の奴は迷宮都市ぐらいでしか使い道はないんだけど、相手が冒険者について知識がある場合は身分証として効力を発揮する。階級章は言わずもがな、ね。



「ッ! 百人隊長の方でしたか!」


「元、だけどな。」


「お婆ちゃんねー! 兵士さん辞めて商人さんしてるの! でもとっても強いんだよ~! すごいでしょ!」



百人隊長は、いわば平民でなれる王国軍のトップ。それ以上は異様と呼べるような実績や貴族階級でもなければ先には進めない。まぁ基本それ見せるだけで顔パスってところも多いみたい。凄いよねぇ、オリアナさん。私一人じゃ色々巻き込まれてただろうし、こういう時に頼れる大人がいるってのはありがたいね、ほんとに。



「でしたら問題ありません! どうぞ!」


「ありがとう。」


「じゃ~ね~!」



元気いっぱいな幼女として、手を大きく振りながら町の中へ。



(ようやくついた、『へスぺリベス』。)



比較的整備された街並み、ちょっと空を見上げればペガサスが天高く羽ばたいているのが見える。そんな『空騎士』の町が、ここだ。


原作に於いて、ほとんど描写されなかった地域の一つであり、フレーバーテキストの中に記入された『ゲームの外』。とあるキャラの生まれ故郷だったりするのだが……、そっちには全く興味がない。私が興味のあるのは、ここがペガサスの群棲地の近くに存在し、ペガサスの大きな調教施設があるってことだ。


私の職業である、『空騎兵』。十全にその力を発揮するには、ペガサスという相棒がいる。



(幸い、伯爵からパクった金貨200枚がまだ残ってるし、それでよさそうな子を買うってのもできるかも!)



もちろん後々必要になってくるだろう“私専用の軍”の運営費用に回すため節約し、野生から捕まえてきてもいい。調教施設が整っているここなら、野生のペガサスを訓練することもできるだろう。夢が広がるってやつね!



「……っと、もう人目ないからトーン下げていいよね。この“幼女モード”って喉が疲れるからしんどいの。まぁ好きだからやるけど。んじゃ無事に町の中に入れたわけだしさ! 早速ペガサス探しに行こうよ“お婆ちゃん”!」


「先に市場だ“バカ孫”。“商人”としてやることやった後に行くぞ。カモフラ用の奴売り捌いて、馬車預ける宿も探さないといかんし。」


「あ、そうだった! 了解☆」






 ◇◆◇◆◇






はい、というわけで商人の真似事して、お宿見つけて部屋とって、馬車を預けてペガサスを飼育してるところまで来たんですけど……。



「な、なんか避けられてません?」


「避けられてるな。」


「さ、避けられてますね……。」



私の言葉に同意する、オリアナさんと馬屋の店員さん。


ちょうど今いるのは、ペガサスたちが放牧されている巨大な柵のなか。羽が生えてるこの子たちに柵なんか必要なさそうだけど、普通に地上を走ることもあるから必要みたい。それにお空飛んで帰ってくるときの目印にもなるみたいでね。まぁそんなところに私の相棒を探しに来たんだけど……。


ジリ


ススス


ジリジリ


スススス


一歩進めば、二歩ぐらい遠ざかる。もっと進めば、滅茶苦茶逃げる。な、なんかペガサスに避けられてるんですけど!? なんで!!! というかお前らなんか怯えた目しながら耳後ろに引き絞ってない!? ガチであかん奴やん! 私何もしてないぞ!?



「あの~、お孫さんって動物に嫌われたりは……。」


「ねぇな。」


「馬ちゃんの世話だって私やってるよ!?」



二代目三代目のお鼻とか“もにもに”しても許してくれるぐらい仲良しだよ私! 時間あったらブラッシングしてあげてるし、ちょっとお腹叩いたらしゃがんで『背中乗る?』みたいな反応返してくれるし、ご飯あげたら嬉しそうに食べてくれるし……。普通に良い関係築けてますけど!?


故郷の村にいた犬とか猫とかにも嫌われてなかったし、家畜のニワトリにもそんなのなかったよ!? ほんとになんで私ペガサスに嫌われてるの!? 顔合わした瞬間にずっと私から視線外さないまま怯えた目を向けてたよこの子たち! ほ、ほら! 店員さんからもらったニンジンやで、おいしいで!



「ほらこっち来たら好きなだけあげるで……。」



あ、だめだ! なんかさらに怯えの目が強くなった!



「馬とペガサスってあまり変わらないハズなのですが……。確かにペガサスの方が羽が生えてたり、体重が軽かったり、少し勘が鋭かったりするんですが、基本は同じ。少なくとも馬に嫌われてないのにペガサスに嫌われるのは……、とても珍しいですね。」



て、店員さぁん! 珍しいで済ませないでよ! どどど、どうやったら受け入れてもらえるの!? このままじゃティアラちゃんただのクソ弱い『槍兵』に成っちゃうよ! ペガサスなかったら『空騎兵』じゃないよぉ! アイデンティティ崩壊しちゃう!



「そうですね……、ではウチで管理してる一番気の強い癖馬を……。ってその子でもなんか避けてますね。」



そういいながら店員さんが指さした先にいたペガサス。そっちに私が視線を向けた瞬間。即座に走り去っていく気の強い子。お、お前顔合わただけで逃亡ってそれでも癖馬なの……? もっと私に近づいて噛みつくとか蹴飛ばすとかしてよぉ! なんでみんな逃げるのさぁ!


もう破れかぶれになって無理やりペガサスの集団に近づくが、それが良くなかったのだろう。より強く怯えたペガサスたちが一斉に大空に飛び出していく。しかもかなり慌ててるせいで、ちょっと姿勢制御がおぼつかない。


なんでそんなに私のこと嫌うの……?


か、神様ぁ! アユティナ様ぁ! お助け、お助けくださいィ! このままじゃティアラちゃんなんで『空騎士』選んだの、っていう話になっちゃうぅ!!!



【ごめん、正直ここまで相性悪いとは思わんかった。ほ、ほら私未来予知とかはできない神だし。というかできてたらあのクソ女神二人にこの世界奪われてないし……。】


(あ、はい。……でも、そんな!)


【一応何とかできないわけではないけど、見た感じたぶんコレ魂自体を弄らないといけない案件だから……。だいぶ前にも言ったけど、それやっちゃうとティアラちゃんがティアラちゃんで無くなるというか、最悪体ごと爆発するというか。うん、ごめん。私には“ペガサスに好かれるようになる”ってのは無理かな。】



あぁぁぁあああああ!!!!! アユティナ様でもお手上げとかもう終わりだァ! というか何ですかそれ! 私魂レベルでペガサスに嫌われてるの!? え、もしかしてLUK0ってそういうこと!? ほわぁぁぁ!!! 終わり! 閉廷! 人生終了! ティアラちゃんの冒険はここまでとなります! 来世はご期待できません! にゅやぁぁぁぁ!!!!!



「あ~、その。なんだティアラ。そんなこともあるさ。何、ペガサスなんて数えきれないほどいるんだ、絶対いい奴が見つかるって。」


「すみません、お力に成れず……。他の厩舎への紹介状を書かせていただきますので、ご容赦を。」



ーーーーーーーーーーーーーー



〇ペガサス

基本的に馬と同じだが、翼を持ちそれに適応した軽い肉体を持つ。馬が物理タイプ(ATK・DEF高)とすれば、ペガサスは魔法タイプ(INT・RES高)。そのため動物でありながら、ちょっとだけ精霊とかに近い性質を持ち、勘が鋭い。争いはあまり好まないようだが、信頼関係を結べれば主人を守るために戦場を駆けることが出来る。


またこの世界には存在しないユニコーンのような性質も持っているため、男性よりも女性が好み。そのため騎手は女性が務めることが多いが、男性が全く乗れないわけではない。しかし空を飛ぶための重量制限がある事から、騎手に女性が多いことは変わりない。



〇ティアラ

転生し、本来存在していたティアラの魂と別の魂が入り混じって構成されているため、少々特殊でいびつな魂を持つ。混じった魂の性別もそれぞれ違うっぽいので、“見るモノからすれば、とても不気味”


ところかまわず戦闘を仕掛ける狂人ではないが、一定の基準を超えると普通に手が出る。現代社会で生まれ育った記憶がある癖に即座にこの世界に適応してる、ある意味異常者。何人ころころしちゃいましたか……?


そして驚異的なLUK0。どんな危険が待ち構えているか解らない戦場に、運勢災厄な人と一緒に行きたいですか……?


アユティナ様によると『驚異的な心の強さか、タフさがあれば受け入れてくれるかも。あと他にも色々手段あるから頑張って気付いて……! 私から言ったら意味ないから……!』とのこと。



〇馬ちゃん(二代目三代目)

なんか最初は怖かったけどご飯くれるし、遊んでくれるし、あのちっこいののことは嫌いじゃないよ。でも一代目ってどこに行ったんだろ?(最初の町で種牡馬生活中)




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る