24:金貨300枚



「ねぇね? 朝だよ?」


「うぇへへ……、現代菓子……。」


「? おきろー!」


「おごぉッ!」



早朝、ペペちゃんのダイレクトアタックを受け、目が覚める。ベッドトランポリンからの急直下。これで起きなきゃすでに永遠の眠りについてるってレベルの一撃。あ、でもペペちゃん? 最悪お姉ちゃんの背骨が真っ二つに割れて神様の元に召されかねないから、次からはもうやめてね……。



「ねぇねが起きないのがわるい!」


「ご、ごめんね……。明日から頑張るから……。」


「ん~? あ! まま呼んでたよ! あさごはん!」



あ、ありがとね……。こりゃ明日も喰らうやつだな。ペペちゃんよりも早く起きなきゃいつかコロコロされちゃいそう。


そんなことを考えながら、眠い眼をこすり、ベッドから降りる。


昨日は丸一日オリアナさんと訓練していたんだけど、今日も同じ、ってわけではない。確かいつも使ってる外の広場が、町の衛兵さんが訓練とかで使うってことで使用できなかったはずだ。なので朝からダンジョンデーってことだね。朝飯食べてギルドで待ち合わせして、オリアナさんと合流したらダンジョンアアタックする感じ。



(結構変則的な潜り方してるみたいなんだよね、私たち。)



聞いた感じ、どうやら普通の冒険者ってのは今潜ってる階層に直接飛んで探索を始めるようだ。ほら8階層まで進んでたら、もっかい潜るときは1階層を経由せずにそのまま8階層から探索を始める、みたいな。でも私たちというか、私は、レベリングと技術向上を主な目標としている。なのでいっつも1階層から始めるのよね。


あの芋虫と【銅の槍】一本で戦って、それだけで無理になってきたら“射出”を織り交ぜて、それでもだめなら“射出”だけで。そんな感じで攻略を進めている。たぶん今日も同じ感じだろう。



(丸一日ダンジョンに潜るわけだし……、5階層ぐらいまではいけるかな?)



ま、とにかくレベルが2から上がってないわけだし。どんどん経験値貯めていくべきだよね。


いつもの服装。最初の町で買った普段着の上に、オリアナさんから支給された皮の防具を着用し、部屋から出る。向かうのはこの宿に併設してる食堂だ。ペペちゃんも一緒に行きましょうね~。お姉ちゃんまだ眠いけど、ちゃんと歩きますよ~。



「ままー! ねぇね起こしてきた!」


「あぁ、ありがとうペペ。おはようさん、ティアラ。」


「はよーございます女将さん……。」



なんやかんや長期でお泊りしてるので、もう呼び捨てで呼んでもらえるぐらいの関係にはなれた。おかげさまで女将さんからは『さっさと顔洗って頭叩き起こしてきな!』と怒られる始末。ご、ごめんちゃい……。いつもの水がめが置いてあるところに移動し、使う分だけバケツですくって顔を洗う。



(あ、そだ。補充しておかないと。)



故郷の村で、母が水の補充をしていたところを見たことがある。村の井戸から水を汲んで、水瓶いっぱいになるまで何度も往復しなくちゃいけないっていう重労働だ。それはこの迷宮都市でも変わらなくて、むしろ宿屋ってことで水の需要が増えたここではとんでもない重労働になるだろう。


だが私にとってはラクチンな作業。実は昨日の深夜に宿から抜け出して、こっそり井戸から水を“空間”に補充しまくっている。これを“空間”を経由してそのまま水瓶に注いで満タンにすれば作業完了ってわけだ。“空間”がある以上、私にとって輸送関係はほぼノーコスト。いつもお世話になってるし、これぐらい手伝わなきゃね。



(ま、川からトン単位で水くみ上げてるからそれを入れても良かったんだけど……。ちょっと味違うからね。ばれないように合わせておかないと。)



そんな感じで顔を洗った後、食堂に戻り朝食を受け取る。



「女将さん、今日は何ですか?」


「いつも通りパンと野菜のスープだよ。けどさっきウチの旦那が卵と腸詰仕入れて来たからね。追加料金くれればつけてやるさ!」


「あ! ねぇね! 私もたべたーい!」


「へいへい。じゃあペペちゃんの分もお願いします。」



ペペちゃんや? あなた看板娘で宿側の人間なんだから私じゃなくてママに頼みなさいな。いやそれぐらいなら金出すけども……。ポケットに“空間”をつなげ、コインを取り出し女将さんの前に。もちろんペペちゃんの料金も払って、女将さんが用意してくれるのを眺める。


迷宮に潜るようになったおかげで、こんな感じでちょっとした贅沢もできるようになってきた。アユティナ様への奉納というか、これまで頂いた加護の返済というか。結構な割合を奉納させていただいてるんだけど、それでも残った分の魔物素材を売れば結構な金になる。


流石にいきなり馬やペガサス、この世界における高級外車とかを買えるぐらい稼いでないけど、ご飯に+1品するぐらいならあんまり痛くないのだ。“妹”のわがまま聞くぐらいなら、聞いてあげられる余裕があるってことさ。……血繋がってないけど。



「いつも悪いね。ほらサービス、ミルク付けとくよ。」


「あ、すいません。ありがとうございます。」


「あ! まま! ペペも!」


「だーめ。水にしときなさい。この前飲んでお腹壊したでしょ? ほら二人ともさっさと座って食べた食べた! 他のお客さんの邪魔だよ!」


「「はーい。」」



ペペちゃんと一緒に席まで移動し、食事を始める。献立としては『ソーセージの入った野菜スープと、目玉焼き乗せパン、それとミルク』だ。う~ん、朝から豪華。量もたっぷりちゃんだ。まぁ肉体労働してるようなもんだし、成長期でもある。これぐらい食べなきゃね。



「「いただきまーす!」」



ペペちゃんと一緒に口を動かしながら、色々と思考を回していく。


目下の目標は三つ、戦闘技術の向上とレベリング、そして金策。けど……、まぁある程度整ったといっても過言ではない。ちとヤバいが師匠もできたし、迷宮の利用許可書を手に入れた今。レベリングも金策も時間はかかるけど、確実に目標達成に必要なものがそろっている。



(あとは焦らず時間をかけてやっていけばいい。)



となると先ほど挙げた目標のすべてが達成できた、と言っても過言ではないはずだ。


このまま時間を掛ければいずれ達成するわけだからね? 私としてはこのままペペちゃんと一緒に楽しい姉妹ライフを送るのもやぶさかでないんだけど……。さすがに時間がもったいない。新しく目標を立てて、それに向けて準備しておくべきだろう。



(ペガサスの確保と、人脈形成ってところかな。)



新しく挙げるとすれば、この二つになるだろう。


前者は私が『空騎兵』である限り避けられない問題だ。ペガサスっていう相棒がいない以上、今の私は『槍兵』よりも身体能力が下がった雑魚だ。早急に確保して絆をはぐくんでおいた方がいいだろう。馬なら“あの町”に売ったあいつっていうアテがあるんだけど……。ペガサスは全くない。


オリアナさんも言ってたし、とりあえず今の迷宮都市にどんなペガサスがいてどれくらいの値段なのか。またペガサスの群棲地がどこにあって、どうやればそれを捕まえることができるのか、ってぐらいは調べておいた方がいいはずだ。



(受付嬢のセルザさんあたりに聞いてみよっかな? それかペガサス売ってるとこに話を聞きに行くか。)



次、二つ目。


後者の人脈形成ってのは、私が今後原作に関わってくる中で、どれだけ動きやすくなるかってことに繋がる。名声を稼いで、権力者とダチに成ればある程度の無茶が通るようになるってわけだ。一番いいのは王都にいる『五大臣』辺りと仲良くなれればなんだけど……。



(そっちに伝手のあるリッテル。あの故郷にいた主人公のお爺ちゃんね? あの人に頼るのは色々気まずいし、どこから教会勢力にバレるか解ったもんじゃない。この町は教会の影響が薄い所だから大丈夫だとは思うけど……。)



オリアナさんの復讐の件もある。トップ層とお友達になるのは難しそうだ。


そもそも急に幼女が遊びに行っても門前払いされるのがオチっていうね? ま、その辺もおいおいかな。原作じゃ迷宮で成果を上げ続ければ、この都市のトップと面識を得るイベントがあった。それを考えると時間はかかるけど、このイベントを利用して人脈を広げていく方が確実そうだ。



「……ねぇね、ソーセージ食べないの? もらっていい?」


「え? あ、ダメ。さすがにこれはあげない。」


「けち!」



ケチだったらそもそもペペちゃんに奢ってません~!


そう言いながら止まっていた匙でスープをかき込み、ソーセージを頬張る。後はパンを口に放り込んでミルクでふやかせば完食だ。それじゃペペちゃんや、ねぇねお仕事行ってくるからな。お家でママの言うことちゃんと聞いておくんやで。


ん? あぁそうそう。あの10年後には全部の髪真っ白になってそうだけど、今はまだちょっと赤髪が残ってる鎧のお婆ちゃんとダンジョンに行って来るやで。ま、ねぇねつよつよだからね! 今日もお土産にウサギ肉取ってきてあげるから楽しみにしててね~。



「やった! おにく! ねぇね、いってらっしゃーい!」


「はいはーい。いってきまーす。」



食べ終わった皿を女将さんに返し、ペペちゃんや女将さんに見送られながら宿を出る。


向かう先は冒険者ギルド、オリアナさんとの待ち合わせ場所だ。あそこで合流した後、即座にダンジョンに潜る感じだね。……っと、そういえば昼ご飯のこと忘れてたや。最悪ダンジョンの中で食べるだろうし、何か補充しておこうかな?



(“空間”の中には色々保存食とか置いてあるけど、こういうのって緊急時のために置いてるようなもんだし。新しく何か買っておくべきだよね。)



ちょっとだけ寄り道して、小麦のいい香りを漂わせてるパン屋さんに入る。オリアナさんの分も含め目についたものをパパッと包んでもらい、お金を払った後にスキップしながらお店を出る。“空間”に入れておけばいつでもホカホカ焼きたてパンが食べ放題。アユティナ様のおかげだね!



「っと! ギルド見えて来たけど……、なんかあったのかな? 人多いな。」



普段はそこまで騒がしくないんだけど、なぜか早朝から人が集まっているようで、何かの話し声が聞こえる。


たまに冒険者ギルドにきた依頼を“クエスト”って形で冒険者たちに受けさせるって受付嬢のセルザっちが言ってたけど……、なんかいい依頼があったんかね? まぁダンジョンに潜る私には関係ない話だけど。とりま話だけでも聞いてみようかなぁ、気になるし。


そんなことを考えながら、ギルドの扉を開ける。



「たのもー! セルザっちいる……、あ、あの皆さん???」



元気よく扉を開けた瞬間、私に集まる全員の視線。いや大声出しながら入るのは私のデフォなんで、視線が集まるのはいつものことなんですけど。なんかこう、皆さん目が血走っているというか、私の知らない顔がいつもよりたくさんあるというか……。あの、皆さんどうしたんで?



「「「さ、さんびゃくだぁぁぁあああああ!!!!!!」」」


「ほ、ほわぁぁぁああああああ!!!!!」



え!? なになになに!!! 急に! 急に襲い掛かって来たんですけど! 何? ティアラちゃん悪いことした!? ちょっと待ってよ今思い返すから……! あ、結構面倒かけまくってますね。はい。


……いやいやいや! でも見ず知らずの奴に襲われることはしてないよ私ィ!!! なに? もしかして私が故郷で滅ぼした盗賊たちの血縁者だったりする!?



(え、なに! これやっちゃっていいの! 正当防衛していいの! “射出”していいの!?)



解らん! わからんけどなんか狂った目で全員が襲い掛かってきてる!? ど、どうしよ! 別にこいつらぶっ殺すことに関しては全く抵抗ないけども! それで私が法に問われるのはご勘弁なんだけど! “ティアラちゃん専属弁護士”兼“信仰させていただいている神”のアユティナ様ぁ! おたすけぇ!



【えぇ……、急だし今の法制度なんてわかんないんだけど……。3000年前のでいいなら覚えてるけど。】



ですよね!!! でも朝早くにこんなクソみたいな質問に答えてくださってありがとうございます!!! しゃぁねぇお前ら文句は地獄で聞いてやる! 正当防衛だぁ!!! 脳漿炸裂(させちゃう)ガール出陣!!! 銅の棒を好きなだけぶち込んでやるぜぇ!!!





「こんの! 馬鹿野郎どもがぁ!!!!!」





私が“空間”を広げようとした瞬間。首根っこが掴まれ思いっきり後ろに引っ張られる。そしてその直後に私の目の前で振るわれるのは、布に包まれた黒い柄の槍。あ、これ見たことある。【アダマントの槍】だ。


刃を当てぬように腹で振るわれたそれは、骨が砕けるような音を響かせながら、私に襲い掛かって来た冒険者たちを吹き飛ばしていく。



「オリアナさん!」


「ティアラ! こんなクズ共に“やる”んじゃねぇ!」



そこには、なぜか肩にセルザさんを担いだオリアナさんがいた。……あ、“空間”のことですね。ごめんちゃい。確かにおいそれと見せていい力じゃなかったですね。控えます……。


というかセルザっちなぜそこに? アレですか? あの兄弟が出てくる漫画でも読みました? ちょうどそんなサイズ感ですし。肩に乗る兄と、巨大な弟。……あれ? でもそれならオリアナさんのお姉さんってことになるわけで……、セルザっち今何歳!? もしや60代後半!?



「なんの話!? とりあえず逃げますよ!」


「あいよッ! ほら吹き飛べッ!!!」



セルザっちがそう言った瞬間。オリアナさんが私を脇に抱えて、即座にギルドから脱出。


そして去り際に追いかけようとしてきた奴らに向かって槍一閃、思いっきり吹き飛ばされる知らない人たち。


すごくいたそ。


というか、ほんとにマジで何があったんですか……?







 ◇◆◇◆◇






「は、はぁ!? 金貨300ぅ!?」



迷宮都市の路地裏。人目のつかない地点まで逃げて来た私たちだったが……。セルザっちの口からとんでもない額が飛び出てくる。



「えぇ。重度の幼児性愛者で有名な“リロコ伯爵”があなたに懸賞金をかけたようです。無傷で捕えてきたものには金貨300枚を与える、って話のようで。本来こういうのは裏だけに留まる話なんですが……、表にも情報がまかれてこんな感じになってしまった形です。……あと呼び方、許してねぇぞクソガキ。」


「あ、ごめんなさい。」


「よろしい。先ほど依頼に関してオリアナと確認してきたのですが……。一応依頼主が誰か解らないようにされてはいました。しかしこんな依頼にこれだけの大金、どう考えてもリロコ伯爵でしょうね。商才ある領主ですし。これぐらいならポンと出せるでしょう。……クソ貴族めッ! あいつら仕事しなくなるせいで私が上から怒られるだろうが! そもそも人身売買に手を出すなクズ共!」



かなりガチでキレながら、壁を全力で蹴るセルザっち。あ、あの~。ちょっと壁へこんでません? 蹴られたら私死にそうなレベルじゃないですか? お願いだから私のこと蹴らないでね。ほんとに他界他界しちゃうから。


……にしてもリロコ伯爵こと“ロリコン伯爵”か。私コイツ原作で知ってるんだよなぁ。マジで面倒な奴に目を付けられちゃったよ。



「いやでも、なんで私!? いや確かにティアラちゃん美少女ですけど……。あいつの趣味って確か金髪で儚げな美少女、触れたら消えちゃいそうな子をグシャグシャにして自分色に染め上げたいタイプでしょ!? ティアラちゃん白髪で元気っこ! しゅみ! ちがう!」


「……なんでお前あいつの嗜好知ってんだ?」


「あ、ちな幼女をボテ腹にして喜ぶっていう性癖も持ってるからマジで近づきたくない。……というか私そんな価値ある!? 金貨300だよ! 一生遊んで暮らせない!?」


「出してる、ってことはそれだけの価値が貴女にあるとみてるんでしょうね、良かったじゃないですか、クソガキにそれだけの値段が付くなんて滅多にないことですよ。」


「全然よくないよ……。」



空気を緩めてくれようとしたのか、ちょっとした冗談を言ってくれるセルザっち。でも全然笑えないです……。あとオリアナさん? なんで知ってるかってのは“例のアレ”と一緒です。にしてもやだぁ! あぁ言うのはゲームの中とかで創作として扱われるからいいんですぅ! 現実で起きちゃったらもうただの事案なんですぅ! そんな事案に自分がなろうとしてるとか最悪以外の何物でもないじゃんかぁ!!!



(……にしても。マジでどうしよ。色々と困る。)



これってもしかしなくても、道歩く人全員が私を狙って来る可能性アリ、ってことだよね? 普通に生活できないじゃん。私が隠れたら絶対探し始める奴がいるだろうし、待ち伏せして来る奴も出てくるはず。宿の情報とかにたどり着いてペペちゃんとこに迷惑かけちゃうだろうし、ギルドの設備はもう使えない。


住む場所も換金する場所もなくなっちゃった……。


え、ほんとにどうしよ。もう襲って来る奴全員ぶっ殺して“ワカラセ”した方がいいんじゃ?



「なんでお前はそう暴力的な方向に行くんだ?」


「いやだってオリアナさんや。暴力よりもわかりやすいモノってないですぜ? ぶっ殺せば数減りますし、殺せば殺すほど近寄られなくなる。死体が増えてお掃除が大変なこと以外は最高の作戦では???」


「……言っておきますがそれすると司法が動きますからね? いくら無法地帯に等しい場所があるこの町でも、やり過ぎれば動きますよ? まぁ数人程度で正当防衛が成立していれば見逃してもらえるかもですが……。ギルドの様子を見る限り、止まるまで結構な死体が必要になりますよ?」



つまりそのルートをとると、確実に私が牢屋に戻されて一生出れなくなるどころか、処刑されちゃうわけか。じゃあ故郷でやってた盗賊レベリングならぬ、正当防衛レベリングはできないのね……。



「え、じゃマジで詰んでない? 町の施設は使えないし、冒険者ギルドもあんな感じじゃ入れない。ダンジョンも待ち構えてそうだから無理だし……、え、どうしよ。セルザっちから依頼の取り下げとか……。」


「できたらやってますよ。明らかに“仕事”の邪魔ですし、胸糞悪い話ですもの。けど相手は伯爵です、この町の市長なら何とか出来るでしょうが……、最悪そっちにも手回しされててもおかしくありません。」



あ~、そういえば市長ってお金になりそうなことなら何でもやるタイプだったっけ……。善悪の価値観は理解できるけど、金の前にはすべてがかすむって感じの人。確かに伯爵と取引になった際に、私の存在で有利になるのなら最悪セルザっちも敵に回るのか……。



「流石に職は失いたくないので従いますが、情報を横流しするぐらいはしますよ? 後味悪いことなんかしたくないですし。だから安心してください。……にしてもあんたら、思ったより仲良くなったんだな。紹介した手前こっちとしてはありがたいんだが……、クソガキは良かったのか? この婆に“秘密”ばらして。」


「あ、ギャルモード。うん、信用できるしいっかなって。」


「そーかい。まぁ私は興味もないが、それならいい。とりあえずこのガキは“出来る”ガキで、放置すれば大量殺人鬼になっていたことが解ったからそれでいい。……にしてもほんとに、面倒ですね。」



あ、仕事モードに戻った。いやにしてもほんとにそうだよねぇ。


まぁ私盗賊ヤバい数狩ってるし、今後も戦争とかいっぱい参加する予定だから大量殺人鬼には変わりないよ? この町でも“正当防衛”何度かしちゃってるし。あ、証拠は“消してる”からご安心ね!


というか取り下げるのも無理、か。マジでどうしよ。……あ、オリアナさんどうしたの?



「どうする嬢ちゃん、町から出るか? 前言ってたペガサスの件。ある意味いい機会かもしれんぞ?」


「あ~。まぁそうなんだろうけど……。たぶんあのロリコン絶対あきらめないと思うんだよね。」



リロコ伯爵、原作ではちょっと有名だった奴だ。たしか12歳以上には全く性的興奮を覚えない異常者で、一度定めた獲物に対しひどい執着を見せるタイプのキャラクターだ。原作では主人公陣営のロリ枠に一目惚れし、『私は真実の愛を見つけたのだ!』とか言いながら襲い掛かってくる。ちな上手く立ち回れば味方にすることも可能。(ロリはお嫁さんになっちゃうけど。)


一応能力だけ見れば有能な方だし、ある程度戦えるキャラでもある。フレーバーテキストでしか知らないけど、ロリコンっていう悪弊さえなければ比較的まともな貴族らしい。……でもまぁ性癖がね、ヤバいからね。現代だったら即豚箱行きだ。



「多分ペガサス探しに行くことで、ほとぼりが冷めるまでの時間を稼ぐ、ってつもりで言ってくれたんだろうけど……。あいつに目を付けられた以上“やる”か“やられる”以外の道はない気がする。執着心やばいし、地獄まで追ってきて襲ってきそう。」


「私もクソガキに同意します。私が知る伯爵もそういう人間です。永遠に追ってきますよアレは。一番いいのは王国から離れて伯爵の手が届きにくい帝国に逃げるという案ですが……。二人とも死ぬほど嫌そうですね。」



うん。今の帝国は正直王国よりも治安終わってるから足踏み入れたくない……。オリアナさんもバチバチに殺し合ってた相手だしね。


正直な話。ダンジョンっていう素敵なレベリング場があるここが使用できなくなるってのは致命的だ。レベリングの方法は他にもあるけど、ここ以外となると故郷でやってた盗賊狩りか、外にいるカス経験値の魔物狩り。もしくは国境線での小競り合いに参加するって方法だ。


一応最後のはまだいい方なんだけど……、暴れすぎると確実に今の私では勝てない敵が出てくる。それこそラスボス前のラストダンジョンで出てくるような敵が出てきてもおかしくない。それにネームドとかち合った場合、もっと話がややこしくなってくる。



(原作開始前にシナリオをかき乱し過ぎて、リカバリーができなくなるのは絶対に避けないといけない。)



クソ狼級の相手がもう少しいれば経験値の問題も解決するんだけど……、そんな話全然聞かない。あいつが異常だった、ってコトなんだろう。


だからいい感じであのロリコンを何とかする必要があるんだけど……。



「……にしても金貨300か。」



普通に欲しいな。……せや!


オリアナさん! ちょっとお耳かして!!!


私にいい考えがある!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る