7:奉納の儀


〇デカ狼の死体(頭部ナシ)

〇狼の死体×4(破損大)

〇銅の斧×17

〇銅の剣×2

〇添木にしてたので血まみれの銅の剣×1

〇銅の剣だったもの×6(破損大)


〇その他・食料など(半数以上腐ってる)




「これが狩りの成果です! アユティナ様!」



どうですか、アユティナ様!



「まず、さ……。これ腐ってない?」



そう言いながら食料の山を指さすアユティナ様。そうっすね、腐ってます。


いやこれでも頑張って無駄にしないように食べてたんですよ? 体作る為にもエネルギーは必須なので、そのまま食べられる奴は胃の中に収めて、生じゃ無理なのは森の中で火を起こして鍋の中にぶちこんでみたり、色々しながら数を減らしてはいたんですけど……。



「そもそも食べられる量に限界があって、供給が上回ってしまうのはしかたない、と。」


「そんな感じです。」



私の顔を一瞥した後、思いっきりため息をつく神。いや解ってるんですよ! 滅茶苦茶もったいないってことは! でもでもこんなの村に持ち帰っちゃったら『どっから盗んできたの!?』って話になっちゃいますし! 廃棄しようにも村がちっちゃいせいですぐバレちゃいます! 燃やそうにもそんなに大きな煙起こしたら、村だけじゃなく私が把握してない盗賊たちとかも呼び込んじゃいますから……。



「はいはい解った解った。とりあえず受け取りはするよ、ただこれで加護とかはナシ。廃品回収でトントンにしておいてあげる。あと、ティアラちゃんの空間に『時間操作』の能力も追加して置いてあげるから。今度は食べ物を無駄にしないように!」


「え、いいんですか!」


「いいけど次はないからね! 生きる糧になった動物や植物、それに関わった人に感謝しながら食べる事! 余って食べられないとかになったら私が捧げものとして受け取ってあげるから! いいね!」



アイ・コピー! 了解であります! 『いただきます&ごちそうさま』を忘れずに、ってことだね! あ、この世界でも食事前の神への祈りってのがあるけど、私はちゃんとアユティナ様にしてるからね! 『天に召します我らが神よ~』って言うけど私にとっての“神”はアユティナ様だけなので! 王国のアバズレ女神なんか神じゃねぇ!



「あ、うん。その祈りはちゃんと届いてるから心配してないよ。……っと、じゃあ大物は最後にするとして、この銅の武器たちはどうしようか。正直私がもらってもあんまり意味がないというか……。」



そう言いながら手のひらサイズのお体を動かし、ちょっと悩む神。やはり神なのか、そんなサイズでもひょいッと銅の斧とかを持ち上げていらっしゃる。……私? まだ持てないです。


武器とかの奉納は【オリンディクス】のこともある様に過去から行われていたみたいなんだけど、奉納すると言ってもその年一番の出来だったり、より良いものを贈ることが大半だったそうだ。ま、つまり私が持ってきた低レアリティの武器なんか捧げられてもあんま意味がないってことだね。一部壊れてるし。



「ん~。どうしよ。」


「やっぱこれも廃品回収でしょうか?」


「いや? 大丈夫だよ。一応奉納してもらってるから加護は上げられる。これ戦利品でしょう? 質が低くても奉納者の思いが強かったり、私の権能に関わる行為の中で手に入れたものなら、けっこうポイント高かったりするんだよ。……にしても。どうしよっか。なんか欲しいものある?」



神的に言うと、その物体自体の珍しさとその物体に対する想いの違いで加護に変換できるポイントの差が出てくるみたいだ。初めてお会いした時みたいに『初回ボーナス!』って風にその変換具合は神の匙加減だそうだが、あまり一人に贔屓しすぎるのは神としてNGのご様子。過去の信者たちに申し訳がないので、そこらへんのルールはアユティナ様も守るみたいだ。



「でしたら、“弾”が欲しいです。私こんな風に“空間”を使用してまして……。」



実演を挟みながら神に説明をしていく。


ATK的に【オリンディクス】を振るえるようにはなったが、アレは槍でリーチが長い武器だ。その分利点はあるんだけど、柄が長いせいで子供の私には取り回しが少し難しい。常にこれで戦うというのは難しいだろう。


それに依然として自身が紙装甲なのは変わらない。接近戦はやはり危険で、うっかり今日の狼みたいに近づかれれば即やられてしまう。今回は運が良かったから生き残ることができたけれど、次どうなるかはわからない。やはり体が出来上がるか、一撃離脱の手段が整うまでは遠距離をメインに戦っていく方がいいだろう。


というわけで普段使い出来る“弾”、しかも小石みたいに弾かれるような奴じゃなくて、もっと硬くて丈夫で破壊力強い奴がほしいって感じです! アユティナ様!



「なるほどね……。OK、ちょっと待ってな。」



私の話を聞き終えた後。少し考えた後に神は、私が捧げた全ての銅製品を空間に取り込んでいく。私の借り物の“空間”ではなく、神がその力を持って作り出したもの。地面に直置きしていた武器たちが沈みこむように消えていき、アユティナ様が右手の先に赤い光を灯らせてから数秒後、私の前に十数個の物体が落ちてくる。



「っと! 銅の棒1ダースに、銅板3枚。こんなものかな? ちょっと棒の方もってみ?」


「あ、はい……。そんなに重くないですね。」


「でしょう?」



私がお渡しした銅の武器たちを一旦溶かし、銅の棒と銅板に鋳造し直してくださったそうだ。銅の棒は近接武器としても使えるように、また射出武器と出来るようにある程度の長さと太さ。重さは銅の剣と同じくらい。対して銅の板はかなり分厚めで、横幅が私の握りこぶしぐらいある。これは防御用ってことですか?



「そ! さっき銅の斧をかみ砕かれたって言っていたでしょう? 本当ならアダマントとかミスリルとかの……、ティアラちゃん風に言うと高レア? の板ををあげたいところだけど、少し釣り合わなくなっちゃうからね。貰った銅の斧を全部板にしてみた。そのまま売ることもできるだろうし、上手く使いなさいな!」


「あ、ありがとうございます!」



いやマジでありがたい。こういう防御系はマジで助かる。


これで攻撃と防御がある程度整ったわけだ。『アイテムボックス』も強化してもらったし、これでもっと盗賊狩りがはかどるね! うへへ! 今日から毎日奴らを地獄に送ろうぜ! ……でもまぁ、今日のデカ狼みたいにこっちの“投擲”が通用しない相手もいるだろう、小石じゃなくて銅の剣だったら貫けたかもしれないが……。



(いずれ。物語の終盤に関われば関わるほど、DEFの高い敵が出てくる。弾かれる可能性も考えて、新しい“武器”を用意しないと。)


「じゃあ最後にこの狼たちの死体だけど……、これはまぁヤバいのと戦ってきたよねぇ。」


「……そんなにヤバい奴ですか?」


「うん。オリンディクスなけりゃ負けてたのは戦ったキミ自身がよくわかってるだろうけど……。せやねぇ、よく訓練された兵士が複数で当たるレベルかな? あ、群れ全体で考えるともっと脅威度上がるだろうね。」



話によるとこの狼。他の狼と違い、多くの生物が生まれながらに持つ魔力を、完全に使いこなしているタイプだったようだ。


その巨大な体の維持などに魔力を回しているせいで魔法とか使えないけど、鉄の鎧とかを簡単にかみ砕く顎に、ミスリルレベルの武器じゃないとまともに攻撃が通らない毛皮。


ゲーム風に言えば、ATKが高い上に装甲持ちってとこだろうか。そもそものステータスが高い上にDEFの数値に装甲が加算されるから、生半可な攻撃は通用しない。魔法で仕留めようにも足も速いから距離を詰められてしまう危険な敵。



「しかも普通の狼を配下に置いて、指揮も執れる個体。厄介度はさらに跳ね上がるだろうね。まだ若い個体で、このあたりに対等に戦える相手がいなかった。さらに生息範囲が人の居住圏と重ならなかったが故に、対人経験も薄い。まぁ経験不足なのは確かだけど……、よく勝てたな。」


「…………話聞いててなんで勝てたのか疑問になってきました。」



いやマジで【オリンディクス】様のおかげですよ。そしてそれをくださったアユティナ様のおかげ♡



「ま、勝って帰って来れたしそこは褒めてやらんとね。よしよし。」


「えへへ~。」



小さな体をフワフワと浮かしながら私の頭を撫でてくださる。いや~、信仰している神様に撫でてもらえるとか、どれだけの幸運なんでしょうね! 死にかけたけど終わってみればいいことばっかり~! 二度とやりたくはないけど!!!



「そうだね……、頭は潰れてるけど体は綺麗に残っている。それに死闘を制した後の戦利品だし想いの強さもある。他の狼の死体は状態が悪いけど、加工できない訳じゃない。私の司る権能的にも、死闘を制して成長した証なわけだからポイント高い。ティアラちゃん、見返りは期待して大丈夫だよ。」


「おぉ!」


「そうだな……。この狼たちを加工して新しい装備品として仕立てて恩寵にして返すか、オリンディクスには劣るけどそれなりの武器に鍛えてプレゼント。どっちがいい?」



え、え。迷う~! どうしよ、どっちも欲しいな……。


装備品ってことは防具とか装飾品とかそういうのでしょう? あの毛皮を再利用した防具だからすごい防御力ありそうだし、なんか見た目もワイルドになりそうだからすごく興味がある。ほちい。


でもでもやっぱり武器も欲しい。武器だったら攻撃の選択肢増えるし、オリンディクスが重量のある槍だから、それ特有の弱点を補えるような武器とかってのはすごく惹かれる。槍だと取り回しがちょっと悪いから、もう少し近距離でも戦える武器とか……、ほちい。


どうしよ……! 贅沢な悩みだねぇ! 名前もティアラなんて贅沢だから、今日から私の名前は“テ”だよ!



「……決めました、装備品の方でお願いします!」



うん、正直攻撃手段は現状で結構足りてる方だと思う。


【オリンディクス】だけで過剰って言えるぐらい良い武器だし、これ一本である程度何とか出来ると思う。


ゲーム内でもそうだったし、今日会ったデカ狼にも通用したことを考えると、私のレベルを上げてATKを底上げしていくことが一番の近道な気がする。だったら次は防御をプラスしていかないと、って。さっき防御用の銅板を貰ったけど、あれですべての攻撃を防げるわけじゃない。子供じゃ本格的な防具なんて手に入れられないし、神様であるアユティナ様に用意してもらうのが最適な気がする。



「おけ! じゃあ完成までに3分ちょっとかかるから待ってね? ふふふ、これでもあたしゃ結構センスのある神と3000年前はもてはやされていてね! ティアラちゃんのいう最上級職の防具とか全部手作りしてたのよ。みんなセンスがいいー! かっこいー! って喜んでくれてたし、期待していいよ!」



……え、つまり『ルフトクロン』。空騎士の最上位職であるあの下半身ガチガチ上半身マイクロビキニみたいなえちち装備はアユティナ様が作ったってこと!? うわ、ちょっと不安になってきた。確かにセンスがいいのは解るけど、どっちかというと情欲を誘う方のセンスっすよねアレ……。あの、手加減してくれると助かります。はい。



「そう? じゃあ露出控えめにしておこうか。」


「た、たのんます。(い、言ってよかったー!)」


「じゃ、ちょっと出来上がるまで雑談でもしようよ。神に近況報告、大事じゃない?」









 ◇◆◇◆◇









「ひゃー。肉体的には全然だけど、精神的に疲れちゃった。」



肉体の方は神の奇跡で回復してもらったからすこぶる調子が良いんだけど、精神的にはそうでもない。体は元気じゃないのに心が疲れてるっていう結構ちぐはぐな状態だ。お家かえったらマミィのごはん食べてもう寝ちゃおっか。


ま、考えてみればそれもそのはず、なんだけどね?


普段通りに『友達と遊んでくる~』って両親に言った後に森に直行。盗賊を撃滅した後、狼の集団に襲われて死にかけながらもそれを撃退。んでそこからボロボロになった体を引きずりながらアユティナ様のところまで行って、回復してもらったり新たな加護を貰ったりと色々。そりゃ疲れるよって内容だ。



「でも、収穫はたくさんあったし、結果的には良かったよね。」



アイテムボックスに時間操作、中に入れた物体の時間を任意で止めることの出来る新機能の追加に、新しい“弾”として銅の棒を1ダースに防御用の銅板三枚。そして新装備と来たもんだから、素晴らしい成果と言っても過言ではないだろう。やっぱりアユティナ様って太っ腹だよね! しゅっとしたスリムなお腹してるのに器はクソデカ! あのクソ女神も見習えってんだ! あいつ初登場時はまだ見た目だけは抜ける女神だったけど、最後の方になると醜悪な感じになるもんな……。



「……でも、転職できなかったのはちょっと残念かも。まぁ理由が理由だからいいんだけどさ。」



お供の狼たちを殺してLv6、そしてあのクソデカ狼を殺すことでLv7に私は到達することが出来た。神様が言うにはもう少し戦えばLv8にすぐ到達できるらしい。これまで二桁は余裕で超える盗賊を処分してたことを考えると、Lvが上がるごとに必要経験値が高くなることを加味しても、あの狼が吐き出した経験値は多かったことが理解できる。



「上限の10の半分。5を超えているから普通に上位の職に転職できるけど、ここまで来たのなら上限まで上げた方がいいって言われればまぁ従うよね。相手神様だし。」



ゲーム的に考えても、間違ったことではない。『永遠のアルカディア』の内でのレベルアップの回数は最高でも100回、村人などの初期職10、空騎兵などの下級職20、天馬騎士などの上級職30、ルフトクロンなどの最上級職40だ。転職してしまえばその残った回数は失われ、二度と戻ってこない。ステータスの上昇が完全なランダム、ガチャになっている以上出来るだけ多く引いておくほうがいい。



「100連でSSR確定! ってわけじゃないけど、沢山引いた方がお得なのは変わらんからね。」



というわけで上限に達するか、私が不可能と判断した時まで転職。ペガサスへの道はお預けってことになった。まぁただでさえ私のステータス低いからね。出来るだけ回数重ねて底上げしておかないと神様も不安なのだろう。実際頂いた防具もすごい性能だったし……、たぶんアユティナ様の不安の表れだ。精進せねば。



「ま、とりあえず今日も乗り切りましたし! 明日も頑張っていきましょー!」



そんなことを一人で叫びながら、帰り道をテクテクと歩いていく。あのデカ狼に破壊されたスカートや、地面を這いずりながら移動したせいでボロボロになった服のことなんか忘れて、テクテクと。もちろん自分の血でドロドロです。



ま、案の定……。



家に帰ってきた瞬間私の服の様子を見てぶっ倒れた母と、血相を変えて飛びついて来た父を安心させるのに無茶苦茶時間かけたけど……、そこら辺はご愛敬ということで。








〇ティアラ


服を直してもらうことを確実に忘れていた。体に傷が全くなかったおかげで「遊んでる時につまずいて破れちゃった、それを帰ってくるまで忘れてた(精一杯のポンコツアピール)」で何とか事なきを得たが、大事をとって一週間ほど外出禁止を言い渡された。仕方ないので家事の手伝いや、限界まで銅の棒を加速させて遊んだりして時間を潰したそうな。



〇ご両親


大事な一人娘で、病弱で神(クソ女神)にも嫌われてしまった我が子だけど、最近は自分たちの手伝いもしてくれるし、他の子たちとも遊ぶようになって少しずつ体も強くなっていっているみたいで安心していたところに……。ちょっといつもより遅いな、と思って娘の帰りを心配して待っていれば明らかに尋常な様子ではない娘が返ってきた。体に傷は一切なかったけど、心配で死にそうになっちゃった。神よ(クソ女神)、お願いだから私たちの大切な娘をこれ以上……。



〇アユティナ様


普通に直すの忘れてた。ごめんね♡

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