4:やっぱ盗賊は経験値


「襲撃! しゅうげホンヌラバァ!!!!!」


「な、なにがおきブチュシシシ!!!!!」


「に、逃げろ! とにかく逃げニュバッ!!!」



いや~、いい景色ですねぇ。たーまやー! って叫びたくなっちゃう。まぁ居場所バレるんで叫ばないんですけど。


どもー、みんな大好き! 将来は目の前で血肉を大地にぶちまけている盗賊たちに、アへ顔見せつけながら無理やりアへ顔ダブルピースさせられる予定だったティアラちゃんでーす! 汚物は消毒だァ! おめーらはさっさと地獄で便座カバーの洗濯でもしてろォ!


アユティナ様と色々考えて実験した結果、色々試してみたんですけど……、いやはや。こんなにうまく行くとは思いませんでした。



(やはりテンプレ、と呼ばれる方式は再現性が高くて、実用的だからテンプレって呼ばれるんでしょうねぇ。)



そんなことを考えながら、喚き散らしながら逃げようとする盗賊たちに向かってアイテムボックス、“空間”を開ける。そうするとあら不思議、さっきまで汚い顔をお天道様に見せていた盗賊さんが、もっと汚い血肉と成って破裂。汚い花火とはこのことですね。



(私はレベリングできるし、盗賊は減って村の周辺の治安は向上! まさに一石二鳥はこのことですな。)



さて、私が何をしているのかというと……。アイテムボックスを経由した投石である。


この世界において経験値、レベルを上げるための要素を手に入れるには敵の息の根を止める必要がある。ややこしいダメージによる経験値の割合分散みたいなことは一切なく、殺した奴が正義。殺した奴に経験値が入る世界だ。まぁつまり経験値を手に入れるには私が関与した攻撃によって、相手を倒す必要があった。


最初は空騎士の一撃離脱戦法が良いんじゃないかと神と二人で話していたのだが、あいにく私は『村人』という最下級職、レベルを一定以上上げないと『空騎士』、ペガサスに乗る資格が手に入らないってワケ。そもウチの村にペガサスなんかいないし、近場に野生もいない。


ゲームみたいに虚空からペガサスがやってくるわけでもないので、まぁどっちみちこの方法は無理だったわけだ。



(ということでご用意いたしましたのがこちらの小石!)



私の小さく非力な腕でも、石を拾って投げることは出来る。こちらをアイテムボックス、空間の中に投げ入れまして……。ここで空間の管理者権限を発動! 石を投げ入れた方向に向かって重力が掛かる様に設定し、地面に接地する前にもう一度空間を現世と繋げる。そして現世に出た小石を即座にまた重力が掛かる空間へと戻すのだ。そしてコレの繰り返し。



(そう! いわば無限に落下し続ける石! 石と時間さえあればATK0の私でも十二分に人を殺せるってわけだァ!)




この小石を複数用意し、のこのこと盗賊がいそうな森の開けた場所や洞窟の付近に近寄った私は、木々や草むらに隠れながら小石を開放。狙いがブレることも考慮し複数同時に放たれたソレは正に散弾銃。狙われたら最後、頭から上がドロドロの真っ赤になった奴や、上半身と下半身がサヨナラバイバイした奴。他にもいろんな死体が出来上がるって寸法。しかも小石が原料なのでどこにでも材料が転がっている。



(10も投げれば肩が悲鳴をあげるっていう私の非力さを除けば最高の作戦だぜぇ! ……まぁそのせいで10日ぐらい準備にかけちゃったんですけども。)



アユティナ様に会って以降、私はあの方の信者となることで力を手に入れた。そのおかげで、というと少し言い方が悪くなるが、おかげさまで行きたくもないあのクソ女神の教会に行く必要もなくなった。だってもうクソ女神の信者じゃなくてアユティナ様の信者だもん! ま、違う神を信仰している奴が神の家なんか入ったら何されるか解らんからね、もう二度と行かない。



(んで今は体力増強の名目で村の中とか散歩してる感じですね~。今日みたいに脱走しやすいし。)



最初は教会に行かないことに対して無茶苦茶両親に心配されたが、『パパもママも私も、あれだけ祈ったのに神は救ってくれなかった。しかも私は死にかけるほどの熱に悩まされた。多分だけど、私の行動が間違っているって神様が教えてくれたんだと思う(なおあのクソ女神の存在自体が間違ってる)。だから少しでもお外に出て、病気にならないように運動するんだ。』と説得。


二人とも号泣しながら私のことを抱きかかえ、その考えを肯定してくれたけど……。多分アレ絶対勘違いしてるよね? 神に私たちの子が見捨てられちゃった~、みたいな。まぁそもそもあのクソ女神は信仰してないから見捨てるもクソもないんだけど。



(ま、そんなわけでお散歩をすることを許可された私!)



村の地理を記憶の知識とすり合わしたり、主人公率いる同年代の子たちと挨拶したり、彼らが遊んでいる様子を遠くから眺めたり、あとはちょっとだけ両親の仕事を手伝ったりと色々しながら、裏で小石を拾って投げることをずっと繰り返していた。


ま、そんなわけでこんなお天道様が昇っている時間帯に森に入り込んで、盗賊を発見して、血をまき散らすってことが出来るわけですよ。



(今日もお散歩してるんだろうなぁ、って思ってくれてる両親には悪いけど。治安維持に貢献してるから許してね♡ というわけで斉射~。)



「ギャアァァァァァ!!!」



う~ん、良い悲鳴。


最初はちょっと人間水風船みたいな感じでビビっちゃったけど、こっちが捕捉されてしまえばもう終わり。小石の残弾にも限りがあるし、今の私に接近戦なんて不可能だ。絶対に殺される。故に捕捉される前に、撃ち殺す必要があったんですねぇ。



(一応武器もあるッちゃあるんだけど……、【オリンディクス】君は持てないんだよね……。)



アユティナ様によると『大体ATK?っていうこの数値が2くらいあればなんとか振るうぐらいは出来ると思う。あ、でも体出来上がるか、ペガサスを入手するまでは絶対接近戦したらダメだからね? 信者が死ぬのは悲しいのだ。』とのことで、今の目標はATKを2まで上げる事。



(なんでさっさとレベル上げたんだけど、やっぱこんな場所にいる盗賊だと経験値渋いなぁ、っと。)



「おかぁちゃあああああああ!!!!!」


「よしオワリ。母を呼ぶくらいなら盗みなんかすんなし。」



これでちょうどこのあたりにいた盗賊を処理した訳だけど……『ピロン』、お。なんか電子音と共に体がすごく軽くなった気がする。これが俗にいうレベルアップって奴かな? 一応あたりを見渡しまして……、大丈夫そうかな? んじゃ『ステータス』。




〇ーーー〇


ティアラ 村人 Lv1→2


HP (体力)2→3

MP (魔力)3

ATK(攻撃)0

DEF(防御)1

INT(魔攻)2→3

RES(魔防)3

AGI(素早)1→2

LUK(幸運)0


MOV(移動)1


〇ーーー〇




あー、うん。うん……、あ、足がちょっとだけ速くなった上に、ATK3の相手に殴られても死ななくなったよ! やったね! ……ってなるかボケ!



「いやまぁレベルアップで一項目しか増えない時もあるわけだし……、うん……、まだマシ。」



現在使い道がないINTが上がったのはマジで意味がないのだけれども、HPが上がったのはまぁ評価できると思う。


それに元々『ティアラ』ってキャラの特性は魔法寄りだ、INTやRESが上がりやすくて、HPやATK、DEFが上がりにくい。それを考えれば何もおかしくないし、むしろ上がりにくいHPが上がっているのは快挙とも言る。そもレベリングしても欲しい数値が上がらないってのが『永アル』の常だ。正直、村人上限レベルの10まで上げてもATK0なまで覚悟してる。



「ま、ここは切り替えていきましょうか。結構時間取っちゃったし、これ以上ここにいると血の匂いで獣とか寄ってきそう。盗賊の武器とか売れそうなものとか頂いたらすぐに帰りましょうか。」



斧に剣~、全部銅製だし、汚れてて刃こぼれしてるから絶対質悪いだろうけど、まぁ使えないこともなさそうだね。売るところに売ればまぁ金になるでしょ。それに最悪『空間からの射出』で使えるかもだし。空騎士と言えば槍だし、鉄の槍とかあればよかったんだけど……、なさそうだね。斧4本に剣2本、あと少量の銅貨と食料を回収して撤収~!








 ◇◆◇◆◇







「ティアラ、たまに居なくなることあるけど、どこに行ってるの?」


「あ~、おさんぽですよ? ほらパパとママのお手伝いしてる時もあるので。」


「ふ~ん。えらいのね。」



そんなことを話しながら目の前の幼女と戯れる。まぁ遊ぶにしてもかなりこっちに配慮してもらってるし、遊んでもらってるって感じが強いのだが。ふぅ~~! 相手がガチの五歳児だっていうのに精神年齢その倍以上の私が遊んでもらっている!? 申し訳なさ過ぎて土下座しそうだぜ! わるいね“フアナ”っち!



「別にいいわ、だってほかに女の子いないんですもの。一人で本とにらめっこするより大分マシね。」



そう言いながら視線を少しずらし、チャンバラごっこなどをしている同年代の男の子たちに目を向ける彼女。


う~ん、見覚えのある顔ばっかり。ヤバいですわね! ……まぁ確かに男の子ならまだしも、体格的に勝つのが難しい私たち女の子があの輪の中に入って楽しめるか、と言えばNOだろう。このぐらいの年齢の男の子とか、手加減なしで殴ったり蹴ったり棒振り回したりするしね。私が入り込んだ瞬間ガチで死ぬ可能性があるから笑えない。



「あはは……、確かにあの中に入るのはちょっと。こわいですもんね。」


「でしょう? さ、花冠の作り方教えて欲しいんでしょ? ちゃんとみてるのよ。」



ま、原作の“私”はあんな風に自由に体を動かせる主人公たちに憧れて、淡い恋心を抱くらしいんですが……。この私には命の恐怖しか覚えない。おとなしく距離をとって目の前の彼女と遊ぶ方がね、いいんですよ。大人の精神を持つ身からすればちょっと面倒さが勝るんですが、死ぬよりいいでしょう?



さて、目の前のこの子についての説明がまだだったので、整理を兼ねてしておこう。



この子の名は“フアナ”、この村の中で比較的裕福な商家の娘であり、将来『魔法兵』のジョブを手に入れる女の子だ。この村では主人公のお供として様々なジョブを持つ幼馴染たちがいるのだが、彼女もその一人。まぁいわゆる『最初に基本となるキャラをいくつか用意したから、これで物語進めながらシステム覚えてね♡』って奴だ。チュートリアルみたいなもんね。


剣兵に槍兵に弓兵、そこに遠距離魔法が使えるフアナの魔法兵に、回復が出来る僧侶の私。最後に主人公が付いて戦いに赴くって感じ。


彼女は同年代に二人しかいない女性ということでティアラと仲が良く、戦闘の合間の会話や、ティアラとの楽しそうに話すスチルなどが原作で用意されている。もちろん原作がR18なのでエッなシーンも存在しているし、玄人御用達の凌辱系もご用意されているのだが……、ティアラとは根本的に違う点が存在している。


それは『ユニットとして“使える”』ということ。主人公のパーティーでは物語中盤まで魔法詠唱者が少ないのだが、その穴を埋めるようにフアナちゃんは結構強力な魔法、全体攻撃魔法や装甲無効魔法などを覚え戦術の要になりやすい。しかもINT(魔法攻撃力)とRES(魔法防御力)の成長率が高く、HPの成長率も低いわけではない。魔法での打ち合いにしっかりと勝利できるほどのスペックを所有している。



(HPが伸びないのでそもそも前線に出れない私と、バシバシ前に出て殴りあえるフアナ。まぁねぇ……、選ぶとしたら後者だよね。)


「…………不器用ね、あんた。」


「こういうの初めてでして……。」


「ほら一緒にやってあげるから見せてみなさいよ。」



真面に外に出たこともないうえに、手先も不器用な私に寄り添いながら、花の王冠の作り方を教えてくれる彼女。


こんな風に止まっている子を引っ張ってあげたりと、無茶苦茶良い子であるし、原作の中で私が死んだ際は一月近く落ち込んでくれたりとすごくいい子なのだけど……。ちょっと私にはスペック差が眩しすぎるんよ……。



(それに彼女に近づいた理由も褒められたもんじゃないしねぇ。)



原作において彼女は、『ティアラ』の親友だ。


ティアラ(私)が原作の中で死んだとき、結構彼女の心の内を吐き出していたのだが……、その中でティアラの存在が彼女にとって大きなものであったことを話してくれていた。故に元々会うつもりだったし、彼女の人格形成に大きく私がかかわっているのなら原作通りに付き合うべきだろうと考えていた。



(もちろん彼女に降りかかる火の粉(凌辱)も振り払うつもりでいたんだけど……。ちょっと今の私はこの子の前に胸を張って立てそうにないんだよねぇ。)



その理由として、彼女が今後持つであろう『魔力操作』というスキルが関係している。このスキルは文字通り魔力を操作するものなのだが、使いようによっては身体能力の向上などが見込めるのだ、早い話がATKとDEFの増強である。増強率はINTに依存するし、その倍率も決して高くはない。


だがATK0の私からすればそんなもの関係ないのだ。とにかく力が欲しいのである。2に達すれば私はこの周辺で本当に敵なしになる。“おさんぽ”もより安全に行えるのだ。



(だからこそ彼女と仲良くなって魔力操作のコツとか、あわよくば他のスキルとかも教えて貰えたらなぁ~。って思いで近づいちゃってるんだよなぁ~、私。それに違和感を持たれないように“原作での私”と同じようにするのもなんか騙してるようで嫌だし……。うん、心が痛い!)



「……こう?」


「うん、完成ね。やればちゃんとできるじゃない。」


「フアナちゃんが教えてくれたからだよ。ありがとう。」


「ふん! 礼なんかいらないわよ! あんた体弱くて全然遊べなかったんだから、センパイとしてちゃんと教えてあげなきゃでしょ!」



そう言いながら自信満々に胸を張る彼女。え、なにその気遣い。


私のためにわざわざここまで連れてきてくれて色々教えてくれたってコト!? なんていい子なんや……! そんないい子に、私みたいなクソが近づくとか恐れ多すぎるじゃんか! う~んもう! 絶対強くなってフアナちゃんのこと守るかんね! 何が何でも凌辱ルートとか、魔力電池ルートとかやらせないからね! 洗脳落ちもさせないからね!


よし、そうと決まれば……、レベリングだ! この大陸から盗賊という盗賊を消し飛ばしてやる!








〇ティアラちゃん


現在レベリング中、よく遊びに行くと言いながら村から出て“お掃除”しに行っている。たのしい“おさんぽ”ですね♡ 山道は非常に体に応えるため家に帰ってきたときに疲労困憊だと、“掃除し”に行っていた可能性が非常に高い。まだ大人たちからは『子供同士で遊んでいる』、子供たちから『大人の手伝いをしている』と思われているのでバレてはいない。


〇盗賊


食いっぱぐれた荒くれ者がそのまま転げ落ちて盗賊になることが多い、周辺の村々の出身や近くの町から流れてきている。別にリポップするような存在ではないのだが、消えることはない不思議な存在。死体は野生動物などに処理されるため非常にクリーン。


〇フアナ


将来魔法使い幼女、体が弱いティアラを妹判定しているのか定期的に彼女の腕を引く姿が見かけられる。母親が魔法詠唱者、『魔法兵』というジョブを持っているため彼女自身も魔法への強い興味があり、親から何とかして教えてもらおうとしているらしい。ティアラにそのことを話すと彼女も興味津々だったため、今度二人がかりで母親の説得をしようかと思っている。

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