3:パワー is パワー



「あ~、うん! わかる、わかるよ! 【力isパワー】でしょ! うんうんうん!」


「……ちょっと雰囲気に酔って、かっこつけようとしてごめんなさい。」


「大丈夫、大丈夫! わかるよ、こういう時決めたくなるよね! うんうん、私だってさっき口調変えたわけだし! とってもわかる。」



あ、アユティナ様。同情が痛いです。



「じゃ、じゃあさ? なんで力が欲しくなったのか~、とかの理由から詰めていきましょう、ね? あ、それと私理解ある神様だから言いたくないことは別に言わなくていいし、明確に欲しいモノ教えてくれたら叶えてあげられるから。さ、一緒に考えちゃお!」


「ありがとうございます……。」



よくこういった転生ものでは自分の素性だったり、原作知識をかなりギリギリまで秘めて置くものなのだろうがこの神の前ではあんまり意味がない気がする。それになんかバレてるっぽい言い方されてるし、しかも私に気を遣ってくださっている。あ、やば。ガチで信仰しちゃいそう。いやもうしてた?


ということでさっきまで自分が考えていたことや、私の現状。これから起きるであろうことすべてをぶちまける。う~ん、スッキリ。



「ほへ~。いや、なんか魂の感じが色々違うし。多分そんな感じなんやろうとは思ってたけど……、エッチなお話になってるのね。あとこのまま放置してたら大陸ごと滅びちゃうと。いやマジであの女神ども余計なことしかせんな……。」


「ですよねぇ。」


「……ちなみになんだけど、そのゲームって私のことも書いてた? その、エッチな感じで。」


「あ。それはなかったです。」



いや公式で無性って言ってたし、なんかそういう神様なのかな、と。実際ファンメイドとか、二次創作とかでそういうの書かれていたことはありましたけど、公式からそういった供給はなかったですね。ただダウンロードコンテンツの新キャラとして追加された、あなたの信者になった女の子が主人公と致すシーンは描写されてました。



「へ~、正直その内容よりなんでその子が私の信者になったか知りたいわ。私今知名度0やで? 今日もなんか呼ばれた時『え!? マジで何経由で私のこと知って呼んでくれたん!?』って感じやったし。うれしさ8割、驚き1割、疑問1割って感じ。……まぁいいや、んじゃ早速加護についても詰めていこうか。ご両親に心配させないようにさっさと決めてすぐに準備できるようにしないと!」


「あ、はい! ありがとうございます!」


「よ~し、じゃあまず……。やっぱその“引継ぎ”? にあった“アイテムボックス”ってのはどうだい。多分聞いた感じかなり簡単に加護としてあげられると思うんだけど。」



え、そうなんですか? アイテムボックス、手ぶらで大量の荷物を持ち運べるというゲームおなじみの機能であり、転生ものの特典として王道過ぎて半ば食傷ぎみというか、むしろ規制される動きになっているあのアイテムボックスさんが簡単に? 流通を思いっきり破壊してお金儲けが簡単にできちゃいそうなアレが!?



「そうそう。言ってしまえば大量にものを置いておける空間と、それを自由に取り出せる“力”が欲しいんだよね。」



そう言いながら手に青い光を宿らせながらちょいちょいと指を動かすアユティナ様。数秒も経たぬうちに頷いた後、その青い光を私に向かってゆっくりと飛ばしてくる。何もせずその光を受け入れると、すっと体の中に溶けていくように消えていき、光が無くなった瞬間私の中に新しい感覚が。


何かに繋がったような、そんな感じ。



「管理者権限って奴、“鍵”を貸してあげてるだけだから、加護としては結構軽いね。その分ほかでドカンといい加護行っちゃおう!」



なんでもアユティナ様は3000年間信者のお願いを聞こうにも肝心の信者がおらず、ずっと暇にしていたらしい。そのため自身で真っ新な空間をいくつか作り、箱庭を作ったりして遊んでいらっしゃったそうだが、その中の一つを私に貸し出してくださるそうだ。ほぼ制限のない延々と続く空間、そこにものを出し入れする“権利”を頂いた形になるらしい。



「解らないこととかあったらまた呼び出してくれてもいいし、試行錯誤で自分で使い方を学ぶのもよし。とりあえず使って覚えてみて頂戴な! というわけで“アイテムボックス”はこれにて完了! さぁ次いこう、次! さぁ要望プリーズ!」



あ、じゃあ私の体の弱さ。病弱なところを何とかしたいんですけどどうにかなりますかね? 魔法で殴り合うにしても、物理で殴り合うにしても、どうしても最大HPと防御力の差で死にそうで……、ここさえ改善できれば色々楽になりそうなんです。あ、それか敵を一撃で倒してレベリングしやすいパワーが欲しいです。



「あ~、それなぁ。……ちょっと難しいかもしれないね。」


「え、そうなんですか。」


「そうそう、知ってるかもしれないけど体と魂ってかなり密接な関係にあるのよ。体が弱れば魂、まぁ気持ちも弱くなるわけで。逆もまた然り。一応加護として体の性質を書き換えてあげることは可能ではあるんだけど……、それに合わせて魂も変容する。今のキミの魂、ちょっと歪な感じなのは理解してるよな?」



もしかして前世の記憶のせいで色々おかしくなっちゃってる感じですか? 体の元の持ち主の魂と、関係ない人間の魂が混ざり合っておかしくなってしまったとか。……生まれた後の記憶、前世を思い出す前の記憶もあるんで私は『ティアラ』だと胸を張って言えると思ってたんですけど、そもそもの前提が間違っていた、という感じですかね。



「ん~、正確にはちょっと違うんだけどまぁそんな感じだね。でもま、キミが『ティアラ』であることは間違いないよ。ただ体を変化させちゃうと魂にどんな影響が出るか解んないからそういうのはやめといた方がいいなぁ、って感じ。最悪飛び散っちゃうかもだし。ぱーんと。」


「とびちっ! ……わかりました。」


「よし! じゃ、代わりにちょうどいい感じの力、レベリングって言うんだっけ? それの助けになるような力となると……。あ! これなんかどうかな、ちょっと今空間の方に良い物入れておいたから開けて見てみなよ。」


「? はい……。」



そう言われて神に手取り足取り空間の開け方、アイテムボックスの使い方を教わりながらやってみる。えっと、この世界以外に空間が存在することを理解して? そこにさっき付与していただいた権限を行使することで内部の様子を確認してみる、



(うわめっちゃ広いどんだけスペースあるなここ。ウチの村丸ごと入れてもスペース余りそう、無制限とは聞いてたけどこんなに広いってわかるもんなんだ。神様の力ってすごぉ。)



……で、この中に存在するものを、ってコレ!


指を縦にそっと動かし、この世と空間を繋げる。そこから全身の力を込めて引き抜いたのは、長く重い槍。この身には重すぎてすぐに地面に落してしまうが、この形忘れるわけがない。



「【オリンディクス】じゃないですか……。いや! これ貰っちゃダメな奴ですよ!」


「そう?」


「そうです!」



【オリンディクス】、三つに分かれた槍の根元に打撃武器かと錯覚させるような鉄の塊が波打つ装飾をされている武器。『永アル』においての武器は基本、銅、鉄、鋼……、という風に素材がランクアップしていくタイプのゲームだったのだが、一部名前の付いた武器も存在している。そしてそんな武器程クソ強い。


しかも、この【オリンディクス】。フレーバーテキストにおいて『神に捧げられた槍、長年神の力に晒されたせいか神器の一つとして新たな格を手に入れた』とか書かれてる奴ですよ! こいつ攻撃力+20ですよ! 20! コモン武器最上級の“アダマントの槍”で+10ですよ?



(RTA勢御用達でうまくやればラスボスでさえワンパンできちゃう“神器”の一つ……!)



使用者にスキル『開闢の一撃』を付与して、最大HPの半分以上のダメージを与えられた場合相手をスタン状態にして1ターン行動不可にする技も使えちゃうんですよコレ!? まぁ使用に使用者の最大値HP3割ぐらい削るうえに、そもそもの武器の重さがかなり重くて素早さが元々クソ速くないと先手取れないようにはなってるんですが……。



「いやいやいや! これラスダンの奥深くで手に入る奴です! 序盤の序盤にもらっちゃだめな奴! あと私じゃ重くて使えないです!」


「え? そう? 一応私の神器扱いの武器だし、私が許可出した相手には滅茶苦茶軽くなってるはずなんだけど? ほらそれ打撃武器の側面もあるからクソ重いでしょ? でも神器だから不思議ちゃんパワーで軽く出来るんよ、銅の槍レベルで軽いはず。」


「……え、そういうシステムだったんですか?」



因みに武器には“重さ”というステータスが存在しており、これは攻撃時キャラのAGI、素早さに影響する。軽ければ軽いほど先制しやすくなるってわけ。でも攻撃力が高い武器ほど重くて、先に攻撃できなくなるわけなんですが……。え? 銅の槍って重さ1のクソ雑魚最低レベルの武器ですよ? その重さでオリンディクス振れるとかもうチートやないですか。というか……。



「……今もその状態ですか?」


「うん、そっちの空間に入れた時に所有者をティアラちゃんにしといたよ? 他人が使おうとしたときは元の重さの5倍ぐらいになる様に設定して置いたし! 防犯も完璧ね!」


「それはありがたいんですが……。も、もてないです……。」


「…………その重さで?」


「は、はい……。」



地面に刃が深々と刺さったまま全く動こうとしない槍。全身の力をどれだけ振り絞ろうと、持てぬものは持てぬ。


恨めしきかなこの最弱の体、重さ1の銅の武器シリーズと同じ重さにしてもらってるというのにそれすら持てぬとは! やはりティアラちゃんは時代の敗北者ァ! ……いやこれマジでどうしよ。というかどうやって空間に戻したら? このままだったらこの場に放置しないといけないってコト?



「あー、うん。…………マジ?」


「まじです……。」



え、そこまで体弱いというか力もないの? って顔をなされるアユティナ様。すみません、幼少期じゃない姿だったら多分これぐらいなら持てたんだと思うんですけど、ちょっと今の体じゃ無理みたいです。文字通り匙より重い物を持ったことがない身でして……。



「見るからに体弱そうと思ってたけどここまでとは……。え、ちょっと待ってね? ティアラちゃん、“ステータス”だっけ? それを見れるようにちょっと加護としてあげたいんだけど、いいかな? 逆にどれだけ貧弱なのか見てみたくなっちゃった。」


「貧弱……。あ、いや、大丈夫です。」


「記憶の方に働きかけて、ゲームだっけ? それと同じようにしとくからね~。」



そう言いながら先ほどの空間と同じように手に青い光を集中させ、何か操作の様な手付きをした後に私にそれを投げてくれる神。同じようにその光を真っ平な胸で受け止めてみれば、体の奥深く。魂のような場所に新しい何かが追加された様な感覚を覚える。私の魂を惑星とするならば、加護としていただいた力が衛星として周りを回っている。そんな感じ。


こちらの顔を覗き込み、コクコクと頷き力を行使してみろと促す神にいう通り、やってみる。意識を衛星みたいに回っているこれに注いで……。



「わ。」


「お~、出た出た。こんな感じなのね。」



目の前に浮き上がるのは、真っ黒な黒い板。そこに白い字でいくつかの情報が書かれている。ゲームでよく見たステータスの表示欄そのままだ。ただ右側の空いたスペースにキャラたちの立ち絵が表示されてたんだけど……、さすがにそういうのはないみたい。



「これ本人と私ぐらいしか見えない奴だから、周りに人がいる時はちょっと注意しながら見てね? さぁ~ってどんな感じのステータスなのかなぁ?」




〇ーーー〇


HP (体力)2

MP (魔力)3

ATK(攻撃)0

DEF(防御)1

INT(魔攻)2

RES(魔防)3

AGI(素早)1

LUK(幸運)0


MOV(移動)1


〇ーーー〇




「わぁ。」


「う~ん……、すごいね。」



えっとぉ、解らない方もいらっしゃると思うので説明させていただきますとぉ。大体の“人間”の基準になっちゃうんですけどぉ、HPとMPが最大で100。それ以外の数値が最大50、MOVは4~12ってのがゲームの中の基準でした。


HPとMPはまぁ個人差あるんで色々違うんですけど、それ以外のステータスの基準としては一般人が10以下、新兵で10くらい、訓練されて15、強めで20、クソつよ30、ボス40、ラスボス50以上。って感じですねぇ。あ、ラスボスはシナリオごとにいっぱい要るんですけど、もう人間じゃなくなってるので普通に50超えます、はい。


一応比較として、主人公くんの幼少期ステータスの方も上げておきますね。




〇ーーー〇


HP (体力)12

MP (魔力)8

ATK(攻撃)6

DEF(防御)4

INT(魔攻)3

RES(魔防)3

AGI(素早)5

LUK(幸運)8


MOV(移動)4


〇ーーー〇




いや~、弱い弱いと思ってはいましたけど……。3以上の数値がないってのは……



「ティアラちゃんさ、足躓いただけでも死ぬんじゃないの?」


「し、死にますねぇ!」


「もっとご飯食べるとかさ、ちょっと散歩からでもいいから運動するとか、そういう根本的なレベルの話になってきそうなんだけど……、えぇ? これ人間の最大値が50ってことなんだよね? それで0って……、えぇ……。アユティナ様すごく心配。」



いやほんと、数値化していただいたおかげでわかりやすくなりましたけど、これほんとにヤバいというか致命的ですよね。ゲームと現実じゃまぁ色々違いあるでしょうけど。ダメージ計算が同じ原理だった場合、相手攻撃力からこちらの防御力を引いた数値がダメージになるわけですから……。


HPが2で防御力が1。つまり私は、攻撃力が3以上の相手に殴られたらそのまま死ぬんですけど。は? 攻撃力3って序盤のクソ雑魚魔物よりも弱いんだけど? それに負けるって何???



「いやここまで体弱いの初めて見たよ。しかもコレ、今だけじゃなくて体質的な問題でずっと、ってわけでしょう?」


「さすがに少しは上がると思うんですが……、成長率も低いでしょうし、はい。」


「となると、目指すとなれば一撃必殺か、一撃離脱が出来る職を取っていくのが良さそうだよね。それにこの攻撃力とHPだったら体幹もクソ弱いだろうし、弓で戦うとかも難しそうだよね。というか弦引ける?」


「無理ですね。」


「となるとやっぱり……。」



そう言いながらもう一度青い光を出しながら手元でコネコネし始めるアユティナ様。“一撃離脱”それを体現する職業、ジョブを私は知っている。



「空騎兵、ですか?」


「そうそう、知ってる? 空騎兵の最上級職、“ルフトクロン”。」



空騎士、かの有名なペガサスに乗って戦う女性専用職の一つ。『村人』→『空騎兵』→『天馬騎士』→『ルフトクロン』という感じに進化していく。天馬に乗って地形を無視した移動を行い、人の足よりも大分速い速度で動ける戦場の遊撃手。


アユティナ神のいう通り、極めれば一撃離脱が可能なジョブだ。そしてこのルフトクロン、通常の空騎士・天馬騎士は槍での物理攻撃しかできないが、訓練次第で魔法による遠距離攻撃もできるようになる。


それまで白いペガサスがランクアップした瞬間にダークペガサスとなり、文字通り騎手と一体化できるようになるジョブ。女性キャラの背中から真っ黒な羽が生えたフォームは色々すごかったよねぇ。まぁ下半身ガチガチの鎧で固めて上半身胸の一部しか隠さない痴女、って言うすごい服装に成っちゃうんだけど。



「そ、天馬一体の私一押しジョブ! 【オリンディクス】との相性もよさそうでしょう? 上空から振り落としてスタンさせるのもヨシ、スタンさせられるぐらいダメージを与えられなければ、そのまま天馬で逃げればヨシ! 弓矢に対しては特攻入っちゃうけど……、まぁアイツら基本防御薄いからね! そこはもう速度とパワーでごり押しよ!」


「おぉ!」



そう言いながらせっせと用意してくださる神、私個人としても習得するジョブは天馬系か、魔法系のどちらかで進むつもりだった。だがここまで体が弱いとなるとマジで接近戦に持ち込まれた場合、終わる。


ならば少しでも距離を稼げる天馬系に進んだ方がいいだろう。え? 弓兵部隊に囲まれた場合どうするって? 原作でも天馬部隊が敵弓兵部隊に囲まれて全部落とされた後に、楽しい凌辱パーティが始まったことあっただろって? …………その時はその時考える!!!



「あ、一応言っておくけど、私が挙げられるのは“パス”だけだからね? ちゃんとレベル上げて、正規のルートでランクアップしながら“ルフトクロン”目指してね♡」



いや実はさ、クソ女神どもに権能奪われそうになった時さ。最上級職へのルート全部封印してね? 私の許可がないと転職できないようにしてあるのよ。だから今の大陸の常識ってそれの一歩手前、上級職が頂点でしょう? いや~、奪ったものが中途半端だった時のあいつらの顔、考えただけでもにやけちゃうわ~。と言う神。


資料集で似たようなこと書かれてたけど、そういう感じだったんですね……。



「よし! これでOK! 各地にある天使像、アレもともと私の分社的な奴だったんだけど、女神どもに奪われた後名前変わった奴ね? あそこでランクアップするとき選べるようになってるから、頑張って!」


「はい!」



…………あ。そう言えば目指す目標は決まったんですけど、これどうやって目指せばいいんですかね? 敵とか魔物とか殺さないと経験値もらえないし、レベルも上げられないですよね? 今の私ATK(攻撃力)0ですし……、魔法も使えない。どうすれば???



「……時間いっぱいまで一緒に考えよっか。」


「はい……。」


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