第4話

  ちぎれない紙のなぞ


 いきつけのスーパーが新都心でも店をオープンしたという。

庶民的だとおもっていたスーパーなのに、デパートに格上げしたのだろうか。

それなら私だって、もうけさせてあげた客のひとり。大いばりで買物カードを使えるはずだ。ためしに行ってみることにした。

新都心には金持ちが住んでいるとの噂だから、見おとりしないよう、よそゆきのドレスに着がえて出かけた。

高層マンションが建ちならぶ一角に、めざすスーパーはあった。近所のスーパーより、高級そうな店がまえだが、値段はおなじだろうか。

気になったが、わざわざ来たのに引きかえすのは悔しい。見てまわるのも客のうちだと、自分を励ましながら入店した。

入ってすぐの右手に、トイレをしめす矢印がみえた。緊張するとおしっこがしたくなる私は。気分をほぐしたくてトイレにむかった。

なかの便座は、近所のスーパーとおなじにみえた。ドレスの裾をからげて腰かけると、いい香りが漂ってきた。

水をながすとメロデイがきこえるのも、近所のスーパーとはちがっている。

かおりやメロデイで、自分が歓迎されたようで、わるい気はしなかった。

トイレからでると、金持ちの奥さん気取りで、ドレスの裾をゆらし、しとやかなものごしで売り場にむかった。

近所のスーパーとちがい、売り場のむこうが見えないほど、長くて高い棚に、あふれるほど商品がならんでいる。

どのコーナーへ行こうか、目うつりして決められない私の背後から、

「あのう」と声がした。

ふりかえると、見おぼえのない女性が立っている。

私の背後の足もとをゆびさし、

「これって、どうやれば、こうなるんですか」とふしぎそうにきいてくる。

ゆびさされた足もとをみたら、ドレスの裾から白い紙がたれさがっている。

まるでトイレから売り場までの足どりのように、白い紙が長ながとフロアに引きずられている。

ギャーと悲鳴をあげた私はきびすをかえした。トイレにかけこみ、白い紙をたぐりよせた。

ドアごしに「ちぎれないよう、もってきてあげました」とさきほどの女性の声がした。

「ど、どうも」と口ごもる私は、その親切さにムチ打たれ、顔から火がふきでた。

トイレットペーパーが数メートルも切れなかったのは、信じがたいことだった。

ちぎったつもりの紙を、尻の間に挟んだまま、ドレスの裾から尻尾のように引きずり、しとやかに歩いたせいで、とぎれなかったのだろうか。

なぞはいまだに解けていない。

                                  完

                       

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