第3話

立ちション禁止、その下で


 寒波にみまわれた大学入試の日、試験場のトイレは、運動場をよこぎった片すみにあった。

 女子トイレには受験生がむらがり、順番をまつ行列がトイレのそとまで長くつづいていた。寒風にさらされながら並んでいる私は、試験がはじまると告げられ、しぶしぶ行列からぬけた。

 一時間めは国語のテストで、なんとか論文をかくことができた。

 つぎのテストまでの休み時間,トイレをめざして必死に走ったが、むらがる人たちのあいだに、すべりこめる隙間はない。

私は肩をおとして教室にもどった。

 二時間めは数学のテストで、問題をよんでいると、下腹がキリキリ痛みだした。

私のボーコーは持ち主の命令をきかないアバズレである。小学五年まで寝小便をやめなかった。母に叱られながら、何回もぬらした敷ぶとんを天日ぼしにした。

 母の悲しそうな顔をみるたび、自分が情けなく、おしっこの出口をきつく縛りたくなった。それがなぜか、出口から血がでるようになった六年生のとき、寝小便はピタッとやんだ。

 とはいえ、朝や昼の尿までやんだわけじゃない。寒い日はとくにアバズレぶりを発揮し、持ち主を苦しめるボーコーになる。

もう限界だと感じた私は、痛みに青ざめ、恥ずかしさに赤らめた顔で、手をあげた。

表情をみて察したらしい監督は、席をはずすことを許可してくれた。

痛くてたまらない下腹をかかえた私は、急ぎたいのに大股では歩けない、ぶざまなかっこうで教室からでた。

おしっこが漏れないように、しずしずと廊下を歩き、外階段までたどりついた。

運動場のはしにみえるトイレまで、とても行けそうにない。失望して階段の手すりに寄りかかった。

眼の下に「立ち小便禁止」という立て札がみえた。

そこでおしっこをする者がいるらしい。

階段の裏にまわった私は、スカートをまくった。しゃがみながらパンツをおろした瞬間、おしっこが勢いよくふきでて、ホッとした。

                                   完    
















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