帰還 弐 神の奇跡とアダムとイブキ

 さて、私は一足先に【ヘブン】から現世へと帰還し、大和と長門の子供なので紀伊と名付けられた神様を連れて家に帰った。


 今はすやすやと眠っているが···これからが大変だと、覚悟を決める。


 翌日、まずはクランのメンバー達に帰還した事を話し、クランメンバーは長門が妊娠していたことを知っているので、長門の子供が無事に産まれたことを話し、私が壇上で赤ん坊を抱きながら経緯を説明していると、眠っていたハズの紀伊が浮かび上がり、透き通るような声で


『我、道を示さん。故に人は道に従い、歩くと良い。さすれば新たなる時代を生き抜かん!』


 といきなり宣言した。


 最初は一瞬にして静かになったが、ざわつき出して、そして会場中が熱狂した。


 紀伊は私の腕の中に戻るとまたすやすやと眠ってしまった。


 私は一瞬にしてクランメンバーの心を掴んだ紀伊に恐ろしいという感情を抱くのだった。


 約一年クランから離脱していたことで大きな変化は配信の箱であったエッセンスのメンバーの再生数が池田とスカーレットを除いて下落していたことだ。


 クランから新人は定期的にデビューさせていたが、伸びが悪く、そして池田とスカーレットがなまじ配信者としてのセンスが高かった為に後続が食われ続けてしまったこと、混血なので外部コラボが難しく、箱内でコンテンツを消費し尽くしてしまい、そして支柱であった私が長期離脱したことで箱の勢いが死んで、結果見るも無惨な状態となってしまった。


 で、これでは混血との融和は望めない···というか混血メンバーが内輪で楽しむだけの配信になっているので箱を解体し、別の名前と外部コラボができるメンバーだけを残して再編成を行った。


 これが帰還後直ぐの動きで、次に私がSNS上で長門、大和の次の子を産んだと発表。


 で、今日の紀伊様という題名で動画配信を開始した。


 まぁコメントは私関連で大炎上していたが、赤ん坊の紀伊がいきなり起き上がり、手を擦ると持っていなかったハズの木の実がボロボロと手からこぼれ始め、視聴者大困惑。


 という三分程度の動画を毎日投稿する形にしたことと、私が配信をしないので掲示板やSNSでは叩きたくても叩きにくいという状態を作った。


 そして育成の方では、今まで新人の育成速度が凄まじく早かっただけに、先輩方に続けと入った新人達は私の加護が無いので成長速度が歴代で断トツでワーストであり、幹部から新人育成はイブキ無しじゃ成り立たないと改めて言われた。


 イブキあってのクランだと下も上も再度認識するキッカケとなり、私が戻ってきた事を皆喜んだ。


 ただやはりというか天使病は遺伝しないのに、例外が大和と長門だけだったのに、紀伊も天使の姿をしていることに多くの人が突っ込んだ。


 そして父親は誰なのか、また受胎のイヤリングを使ったのか···そこら辺をイブキはあえて全て黙殺し、語りたくないという雰囲気を出した。


 お陰で自称情報通とか考察家が持論を展開しまくり、余計に混乱する状況が作られた。


 そして投稿される今日の紀伊様の動画が増えてくると異質さが目立ち始める。


 毎回紀伊が何かしらの奇跡を起こす動画だったのだが、最初に植えた木の実をベランダで育ててみたという報告を毎日SNSに写真をあげていたが、二ヶ月ほどで木になり、更に数日すると木の実が実った···


 なんか実った果実なんだがドライアドが実っているんだが···


 水をあげると


「おお! 聖祖母様、今日も私に糧をくださりありがとうございます」


 と普通に喋っている。


 流石に問題になったので佐久間教授に送ったが、ダンジョン植物を初めて外で作れたとして世間から注目を浴びた。









 毎日の様に奇跡を起こす紀伊だが、マジで神様というか神の子イエスと同じ奇跡を普通にやる。


 まだ一歳になってないのに時折意味深なことを話したり、普通に歩いたりするのもあるが、口にする飲み物を全て酒にするので粉ミルクを飲ませるが、なんか乳酒ともいえるそれを浴びるように飲んではケロッとしているが、試しにクランの人に紀伊のミルクの残りを飲ませたら、おちょこ一杯でベロベロに酔っ払ってしまった。


 ただ翌朝古傷が治っていたとも報告があり、神酒であることが判明した。


 またある時は【おいなり公園】ダンジョンに私と遊びに行ったら、子ワタが集まりだして、ベッドを作り、それに乗って眠っていた。


「觔斗雲? えぇ、中華の神話もなの?」


 と和洋中の神話を網羅した奇跡を起こしていた。


 それを見た周りの子供達は子ワタを自在に集める姿を羨ましがっていたが、大人達は恐れ慄いていた。


 そりゃそうである。


 またある日は泥人形を創るとみるみる人形になり、紀伊が涙を垂らすと人の形となって男の子が産まれた。


 更にその男の子の脊髄を引き抜き、半分に折ると半分を男の子に戻し、もう半分から女の子が産まれた。


 みるみる大きくなり、子供大人の誕生である。


「アダムとイブかーい!」


 勿論泥人形から人間が作られたということを言うわけにもいかずに探索者協会と協議したうえで東横雪子が今暇なので養子にするとアダムとイブを私の命名方式を真似てか、男の子を薩摩、イブの方を四万十と名付けられた。


 紀伊の気まぐれで生命が誕生しては、周りがどうにかするを繰り返すのだった。










「なんか日本で凄い赤ん坊が居るらしいですよ書記長」


「え? そうなん?」


 前の書記長登場から十年が経過していたことで中国の書記長も代替わりをしており、前の書記長は国士というべき常に中華と世界の事を考えていた偉人であったのだが、今回書記長になった人物は人徳で成り上がったという特殊な方だったので中国なのに民意で選ばれた書記長とも言われていた。


「へぇ、ドライアドを生み出す子供ねぇ···何加工された動画で君はマジになってるの?」


「いや、日本にいる同志の連絡によるとどうやらこの動画は本当らしく···」


「ふーん、じゃぁ日本にできるなら中華でもできるんじゃないの?」


「それは···」


「まあいいや、前政権が力を入れていた人工ダンジョンの方はどうよ」


「魔力が高い者を複数人、人柱にすることで無理やり作ることには成功しましたが、内部構造はランダムですので有用とは限りません」


「人柱を出さない方法を考案しなさい。人がいてこその中華だからね」


「「「は!」」」


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