ガチ主神

「マジックアイテムというとダンジョンから産出する物と各種製造メーカーが魔石を加工することで作る二種類があるよね。私の教えるのは両方だよ」


「はい! 先生! どちらも一緒じゃないの?」


「いい質問だね長門、どちらも一見同じだけど効能が変わってくるのだよ」


「効能?」


「例えば水を生み出すマジックアイテムがあるとする。片方はデザインが悪いけど水を時間経過である程度生み出してくれるのと、もう片方はデザイン性が良くて水の出る量を調整できるけど魔石が必要なの···どっちが優れていると思う?」


「後者?」


「いや長門、前のやつは魔石がいらないじゃん。だから僕は両方とも優れていると思うな」


「大和正解。答えはどちらも優れているだ」


 デザイン性が悪ければ持ちにくかったり、飲みにくいとか使いづらいとかがあるかもしれないけど、魔石がいらない利点は大きい。


 逆に後者は必ず魔石が必要という制約がある。


 前者がダンジョン産で、後者が工業製品である。


 では両方の製法を覚えることができれば···魔石いらずの工業製品並みの物が作れるようになるという話だ。


「もっともダンジョンで拾えるような高性能だったり特殊なマジックアイテムは劣化コピーしか作れないし、デザイン性とかも個人の力量だからデザイン工学とかの一流の品には残念ながら劣るんだけどね」


 と言う。


 実際マーちゃんが私が二人を産む原因になった妊むマジックアイテムの劣化品を作れたらしいが、神は産まれないし、母体のコピーが産まれる為クローンを作っているのに似ているらしい。


 それでも需要はあると思うが(臓器ドナーとかの素材として···まぁもっと効率の良い方法が現代ではいくらでもあるが)


 そんな品を再び使う気にはならないし、子供がこれ以上増えても困るし···


「では実際に設計図の書き方と理論を教えようか」


 とまずは基礎から教え始める。


 マーちゃんの説明を聞くが、魔法工学という単語が出てきてから私はちんぷんかんぷんであった。


 子供の二人は必死に喰らいついていたが、私は魔法工学の翻訳からスタートした。


「イブキは馬鹿だなー」


「仕方がないじゃん凡人なんだから···天才と一緒にしないでよ」


 ただ魔法工学もやはり基礎は魔法理論からの派生であり、魔法理論がマーちゃんの様々な魔法体系の基本となっているのがよく分かる。


 というかそれが魔法的には正しいのだろう。


 これを神の導きがあったとはいえ独学で体系化したマーちゃんはやはり天才だ。


 私が三ヶ月かけて文字に起こしていると、長門と大和は水を自然に生み出すコップを作ることに成功した。


 勿論魔石無しである。


「流石飲み込みが早いね。では私が知っているマジックアイテムのカタログがあるから、それを使って再現をしてみよう」


 とカタログを見せて色々作らせてみるが、二人が興味を示したのは治癒のマジックアイテムであった。


 治癒は魔法としては色々あるのだが、薬草をポーションにするのはできても、そのポーションを自動で作ってくれるマジックアイテムの製品化には失敗している。


 故に回復の水が湧き出るマジックアイテムとかは貴重だし、治癒が使える人の居ない小さな病院とかではそういうアイテムは命を繋ぐため重宝されている。


 故に長門と大和はダンジョン内で倒れそうになってもそういうアイテムを個人携帯していれば助かる人が多そう。


 という理由で作り始めた。


 最初は水が出るだけのマジックアイテムだったが、味が付いたり、毒になったりという過程を得て、完成に漕ぎ着けた。


 ただマーちゃん曰く時間がかかり過ぎているとして、単品に集中するよりも劣化品でいいから多くの物を作ってみて、後から修正していけば良いと言った。


 私は作れる気配が無かったので、マジックアイテムのカタログの複製に注力し、他にはマジックアイテムの設計図の模写を頑張っていた。


 そんな姿を見た大和に


「イブキも作る練習すれば良いのに」


 と言われたが


「できないと判断したら、早急に切ることも大切だよ。時間が限られている以上、時間内でやれるべきことをやった方が良いからね」


 と私なりの持論を伝えた。


 で、そうこうしていると長門のお腹が大きくなり、天使の輪っかと翼が長門のお腹から出現した。


 もう少しで産まれそうである。


 マーちゃんが安産の魔法を定期的にかけており、私的にはそういう生活魔法の方が利用価値が高いため、生活魔法を教えてもらい、魔導書に書く作業もしていた。


 そしてダンジョン【ヘブン】に来てから八ヶ月後、長門が出産となった。


 母体として既に育っていた事もあり、痛み止めの魔法で無痛分娩となったが、赤ん坊を取り上げると息をしていない。


「え、死産ってこと?」


 と私達が必死に蘇生を試みても息を吹き返す事は無く、長門と大和は大泣き。


 マーちゃんも首を傾げていたが、翌日、可哀想なので土葬してあげようと話すと、いきなり目を見開き


「天、我の上に立つ者作らず、皆我の下なり」


 と喋って数歩歩くと倒れて眠り始めた。


 皆驚愕である。


 寝息は正常だし、止まっていた心臓も動いている。


「マジで神やん」


 と私の呟きに皆が同意した。


 で、この子をどうするかだが、私が連れ帰り、育てるとした。


 長門の子より、私の子にしたほうが世間体的にダメージは少ない為、私が酔った勢いでお持ち帰りされ、ヤリ捨てられたという架空のエピソードを作り、できちゃった者は仕方がないと育てるという感じでお茶を濁すと長門と大和に説明し、二人はあと二年間は反省の意味も込めて、マーちゃんの下で修行しなさいと改めて伝えた。


 ただこの子がまぁヤバい。


 奇跡を起こしまくる。


 例えば歩きだして石を握ればパンに変化させ、歩いた場所からは稲穂が実り、水を口にすれば酒になる。


 私は現世でこの子を育てられるか不安になったが、やるしか無いと決断し、数カ月後、ダンジョンから出て、現世に戻るのであった。

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