ベビーブーム

 十月下旬、相変わらず工事で賑わっている北稲荷では新たに二つのダンジョンが誕生していた。


 まず一方のダンジョンは潜ると洞窟型で、ヒカリゴケや電球コウモリが光源になって明るくなっており、壁を掘るとゴロゴロと秋津鉄の塊が出てくる。


 坑道の様なダンジョンかつ、広さは最奥の部屋まで五キロ、中間地点に大部屋が一部屋あるだけ、モンスターも電球コウモリと最奥のボス部屋に居るアイアンゴーレムくらいで危険度がほぼ皆無のダンジョンとなっていた。


 一度クランメンバーで半日採掘したところ、ド素人のメンバーでも二十トン近くの鉄鉱石を採掘できた為、ダンジョンが最奥のゴーレム以外はほぼ無害で、機械を導入できる点も合わせ、イブキはこのダンジョンを高く評価した。


 もう一つのダンジョンは浅い川のダンジョンで、潜って直ぐに足首程度の水が流れている。


 その足元には丸い石がゴロゴロ転がっており、緑色の石が翡翠で、朱い石が朱餅鉄であることがわかっている。


 出てくるモンスターはドロボウという宝石や綺麗な石を集めて袋に詰め、敵を見つけると走って逃げるが、袋が重いと動けなくなるという変わったモンスターが徘徊していた。


 なのでドロボウが石を集めたなーと思ったら襲うと動けないドロボウは簡単に倒されて袋の中の翡翠や朱餅鉄を簡単かつ大量に奪うことができる。


 更に川底の粘土は上質で焼き物に適していることもわかった。


 長門が百回近くリトライしてできた二つのダンジョンをガイアクランが保有することで明聖社へアピールすることができるようになった。


 明聖社に保有する土地から秋津鉄が産出したと連絡すると、最初は少量だろうと思っていたらしく、下っ端の方が現地調査に来たが、機械の導入可能かつ大量に採掘可能なダンジョンだと判明すると明聖社から坂田(ガイアクランの担当職員)が飛んできて、私と面会を開くことになった。


「是非とも採掘権を売って欲しい。いや、ダンジョンの利権ごと買いたい。千億出す」


「まぁ落ち着いてくださいな。売る売らないの話は後ほどで」


 とりあえず落ち着かせ、私と伊藤が坂田の相手をする。


「まず前提として出雲を含めた日本全国の特殊鉄産出量が二千万トン、うち出雲地方の十箇所ある秋津鉄が産出するダンジョンでも年平均百万トン程度の採掘量しか無く、探索者の護衛を必要とし、警護料金が必要になりますよね?」


「今回のダンジョンのモンスターの電球コウモリは天井で基本光っているだけなので無害かつ、機械の導入も可能。試算だと一千万トン以上の産出が可能です」


「それを踏まえて千億ですか?」


 と伊藤が凄む。


 この子もレベルが上がったのとロドリゲスと付き合ったことで自信に満ち溢れているのかハッタリが上手くなったと私は感じた。


 まぁ私達ガイアクランとしては金よりも街の共同出資者に明聖社を巻き込みたい。


 その事を話すと出雲に支社の権限を強くするよりもこちらに注力した方が良いのではないかという話に誘導し、今ならばもう一つのダンジョンからも朱餅鉄がある程度産出することを話すと全力で支援することを約束してきた。


 本気で明聖社の拠点を置くと決まれば捨て値で買い取った土地の一部と二箇所のダンジョンの経営権を百億で貸し出し、社宅や空き地に明聖社と懇意にしている企業を誘致することを約束した。


 また明聖社としては武具の製造工場を近くに建設し、地域雇用を産み出す(混血も雇う)と約束してくれた。








 明聖社との交渉が成功し、次に岐阜県探索者支部に三箇所(【食道楽】を含めて)のダンジョンの情報開示を来年にして欲しい事を話した。


 探索者支部も派出所の改装をしており、混乱を避けるために開示の時期を調整したいと話していた為に渡りに船だったらしい。


 で、派出所の所長に東横が、補佐として萩原と松田が異動するのが正式に決まり、三人の離脱が来年の一月に確定した。


 なんだかんだ初期メンバーだし、一軍として上級ダンジョンへ挑む準備をしていただけに、それが無駄になってしまって少し残念である。


 ただ少し離れてしまうが、いつでも会いに行ける距離なのでこれからも交友は続くだろう。


 さて、問題はまーた一軍メンバーを再編しなければならないということである。


 中級ダンジョンへアタックするメンバーは既にクランメンバーの約八割が二軍へと昇格して稼いでくれているが、そろそろ子供が欲しいという懇願が届くようになっていた。


「こりゃ当分上級ダンジョンへのアタックは不可能だな。メインメンバーはまーた半壊したし、かと言って下から上げようにもまだレベルが足りないし···まぁ人員も追加するし子供作りたい人は解禁するか〜」


 とクランの連絡板に結婚したい人や子供産みたい人は事務員はレベル関係なく、戦闘員は上級になったら良いよと許可を出した。


 すると一ヶ月後には大量の妊娠報告が届き、一ヶ月だけで二十組のカップル共ができちゃった婚をした。


 伊藤や四葉もこの期間で孕んだらしい。








 毎度のこと、私の周りは子供を作ろうと決めたら見境無いなと思いながらも、混血メンバーは学生の頃から抑圧されているため抑えが無くなればこうもなるか···と私は思った。


 で、混血だと妊娠期間も変わってきて、例えばゴブリンとの混血の小風とオークの混血の南波の二人は胎児の成長速度が滅茶苦茶早く、三ヶ月で出産し、二人のタガが外れたのか、ここから年三人ペースで子供が増えていく事となり、マンションから引っ越して畑近くに大きめの家を建てていた。


 で、まだこれでも可愛い方で倫理観が一番ぶっ壊れていた人物を紹介しよう。


 スカーレットである。


 東横が派出所関係でマンションから引っ越して一人部屋となったことで抑えが無くなり、スカーレットは下腹部部分の紫色の液体が上半身と下半身を繋いでいるのだが、そこに小さな人形みたいなのが複数体浮かんでいた。


「スカーレット、このお腹どうしたの?」


『回答、精子ドナーで精液入手して人工受精しました。スカーレットは一度に複数体孕めるので、種を変えて沢山子供を作ってみました』


『戦闘行動には支障が無いのでこのまま一軍でダンジョンアタックを続けます』


「いやいやいやいや」


 スカーレットの行動に月精と山姫は更にドン引きしていたが、コイツはこうなんだと私は諦めた。


 事実、お腹が三倍くらいに膨張していたが、戦闘には全く支障が無く、普通に戦い続けていた。


 というか精子ドナーで受胎したことを普通に配信で話してスカーレットは大炎上していたし、小風、池田のそれぞれの結婚報告に祝福と嫉妬でまた燃えて、関連スレは酷いことになっていた。


 私はその様子を笑っていたが、混血の人達からしたら諦めていた子供を産める環境があると知り、更に人が集まる結果となる。


 それこそ全国だけでなく、東南アジアやオセアニアから移住を求める懇願書が届いたりもした。


 はっきりいって計画はもう無茶苦茶である。


 それでも私は前に進むために新人教育を頑張るのであった。

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