佐久間教授のダンジョン談義
「うーん、なかなか上手くいかないね。ごめんねイブキ」
「なーに、そもそもできれば良いなー程度だし、長門の能力の練習になれば別に良いんだよ」
長門はダンジョンを作れるとわかってから、色々なダンジョンや自然風景の映像や写真、地図を眺めたり、そこから出るアイテムみたいなのも調べるようになっていた。
長門曰く、ダンジョンにはコストみたいな物があり、最初に作った食べ物ダンジョン(仮名はダンジョン【食道楽】)がコスト千らしく、クーマ、分福茶釜、鮭もどき、丼ぶりの成る木で長門がいじれるコスト限界に達したらしい。
しかもダンジョンを探索するとそこまで広くなく、半径五キロの円形の空間であることも判明した。
まぁダンジョン【食道楽】は丼ぶりの成る木でお釣りが出るくらい優秀なダンジョンなのと、出てくるモンスターの有用度も高いのでそのまま管理しているが、次に鉱石系のダンジョンを創ろうと長門は頑張っているが、なかなか上手くいってない。
ダンジョン生成はソシャゲのガチャとAIの自動生成みたいな物に長門の知識量が深く関係してくるため、長門の想像力で考えられない物はランダム生成になるし、鉱物も私達が求める特殊鉄の秋津鉄ではなく、ただの屑鉄が殆どで、運良く生成できた時も、鉱毒の様な毒が周囲に漂う危険なダンジョンだった為にリセットをかけてもらった。
あと何故かダンジョンを潰す作業をするとモンスターを倒した時の魔力が長門に流れるのか、二十回ダンジョンを潰すとレベルが一上昇していた。
長門は自分のイメージ通りにダンジョンができないことに苛立っていたが、そもそも作れない側からすると長門の能力にガチャ要素があっても、当たるまで試行できるのでそんなに焦っていない。
長門のダンジョン生成はとりあえず置いておいて、クランの変化として、一軒五百万程度のプレハブ住宅を多数建築し、新人を中心に移住してもらった。
また、流石に周囲に何も無い土地に住まわせるのもアレなので、ガイアのスポンサーのディープフーズ社と混血メンバーや工事の兄ちゃん達が休んだり生活必需品を買える場所を作りたいと話した結果、ディープフーズ社が提携する個人店を出したらどうかという話になった。
言ってしまえば小型のスーパーである。
ドラッグストアくらいの広さがイメージしやすいだろうか。
ガイアクランが資金を出すから赤字でも良いからほぼ住み込みで働いてくれるスタッフを探したところ、萩原と松田の知り合いにスーパーでバイトリーダー経験があるフリーターとエッセンスの視聴者数名が住み込みでも良いので働かせてくれと履歴書を送ってきたので採用した。
足りない人員はバイトとして新規加入の高卒新人達が持ち回りでアルバイトすることも決まり、六月に私が買い取った土地の地名が北稲荷だったのでスーパー北稲荷が爆誕した。
スーパー北稲荷の特徴はとにかく弁当が安いことで、長門が創ったダンジョン【食道楽】をクランメンバーに開放し、食材を獲ってきてもらい、スーパー内の調理場で加工してお弁当にする。
鮭もどきの鮭弁当と鶏もどきの唐揚げ弁当、油淋鶏弁当、ニラネギを使ったニラネギ玉弁当が普通の定食サイズで二百円で提供していた。
これに飲み物を入れてもワンコインでお腹いっぱいになれるため工事の兄ちゃん達から大人気である。
その他働いているクランメンバー達もスーパーを利用するのでコンビニを大きくしたみたいに日用品も陳列されている。
今は赤字を垂れ流しているが、クランメンバーが増えれば利用する人も増えるので良しとしよう。
他には南波が私に直訴して、中心部から離れた場所を農地にしたいと言っていた。
南波が管理するならと許可を出し、早速畑と田んぼを作っていた。
で、この様子を小風が撮影し、従業員募集としたところ、混血で職探しに困っていた人達の応募が多数あり、多数を採用した。
プレハブ住居ができたら直ぐに人が住み始める為、本当に一から街ができていくので私は面白く感じていた。
勿論心無い人がイタズラをしに来ることもあるが、僻地なのと探索者としての力量があるメンバーのため、イタズラの様子を録画して警察に届ければ普通に動くし、場合によってはイタズラをした人の会社や親に証拠映像と損害賠償を請求したりし、七月には放火をしようとしたバカが出たので取っ捕まえて豚箱にぶち込んだりとやはり混血への差別感情は根強いのだと私は感じるきっかけになった。
「これが人工ダンジョン···」
佐久間教授と助手柊さんが七月の下旬に北稲荷に来て調査を始めた。
長門本人に聞き取り調査から始まり、ダンジョンの入口の調査、内部の実地調査を行った後に私と話をすることとなった。
「初めましてじゃな。イブキさん。兵庫の大学でダンジョンについて研究をしている佐久間じゃ」
「助手の柊です」
「佐久間教授に柊さん、改めまして後藤伊吹です。私の師から授かった魔法理論の証明と普及を手伝って貰い助かりました」
「なんのなんの、本当は辻聖子殿がご存命の時に話を伺いたかったのだがな。儂がもっと早く権力を握ればよかったとあれほど思った事はない」
「それでも助かります」
「人工ダンジョンを拝見させてもらったが、基本構造は下級ダンジョンの草原タイプそのもの。一階層かつ、出てくるモンスターもダンジョンに適したものであったな」
「魔力測定機を使い、魔力濃度を調べましたが他の下級ダンジョンと同じ魔力濃度と測定できました。正直入口が特殊なだけで、自然発生のダンジョンと大きな違いは無いと言えます」
と柊さんが言う。
「佐久間教授、もしよろしければ佐久間教授が思う理想のダンジョンをお聞かせ願えますか?」
「儂で良ければ···そうじゃな。恐らく資源に注目しがちであるが、日本の問題点は人口じゃ。もし人とほぼ遜色が無い···亜人と呼ばれる人種を創り出す、もしくは人と交配が可能であれば大きな進歩になるのではないかね?」
「おいジジイ、混血問題はデリケートなんだぞ。それを増長させる発言は不味いぞ」
「ホッホッホッ···イブキ殿なら儂の意味を理解できるのでは無いかな」
「人に懐くモンスターの生成ですか? それとも繁殖だけを考えたモンスターですか?」
「前者じゃな。後者は必要なかろう。人の繁殖能力が落ちているわけではないからな。···儂の夢はダンジョンに人の生活圏を産み出すことじゃった。ダンジョン内で衣食住を完結させて一つの国の様な役割を持たせる···それができれば将来ダンジョンが増え続け、この星がダンジョンで埋め尽くされるような事が起きても、人が増え続け、星のキャパを超えても、人間はこの星を捨てる選択肢を取らなくて済むからな」
「人が生活できるダンジョンですか···それは考えたことがありませんでした」
「人工ダンジョンならばそれも可能じゃろうという話じゃ。ただ今の日本では過疎化が進んでいるから日本ではそもそも人を増やすところから始めんといかん。そこら辺は儂よりも詳しい人に聞いたほうが良いじゃろうがな」
「···わかりました」
「ホッホッホッ、しかし現人神が誕生するとはな···」
「ダンジョンでの利益を社会基盤とする現代では最強の神だな」
「育て方を間違えんようにな。人のコントロールができないのが本来の神だ。災いと祝福は裏表、川の氾濫が土壌に栄養を行き渡らせるように人の考えだけを押し付けるのはよろしくはない。よーく考えさせるようにな」
「はい」
佐久間教授と柊さんとのダンジョン談義は夜遅くまで続くのだった。
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