幼稚園

入園

「うーむ」


 私は東横と山姫、月精の四人で話し合いをしていた。


 というのも先日の長門が創り出したダンジョンを含めた今後の戦略の練り直しをしなければならなくなった。


 拠点となる大型マンションの費用が内装工事を含めて八十億と計算が出たため、それの資金抽出と、長門が創り出すダンジョンの維持管理費と運営に人員を抽出しなければならない。


「大型マンションの前に小さめのプレハブ小屋を複数建造して仮住居として開放して、低レベルの移住者を募ろうと思うけど」


「それならば費用は抑えられるかな?」


「ダンジョンの一般公開は今はしない。クラン管理のダンジョンに指定して専有する。そもそもダンジョンができた事を把握しているのが探索者協会の一部と私達しか居ないから···入口を建物で覆ってしまえば当分は隠せるし、新しいダンジョンが出来た時は土地の所有者の意向が優先されるから、土地の所有権が私にあるから、私の意見が優先されるんだよね」


「問題はどう人を集めるかですね」


「明聖社ばかりに頼るのも良くないですよね~」


 伊藤の管理会社に委託する案も出たがなかなか纏まらない。


「あー、難しいなぁ!」


「秘匿性を確保しつつ、複数のダンジョンの管理···しかも利便性が終わってるんだよね···」


「ねえ、探索者協会をもっと頼れば?」


「どういうこと? 東横」


「探索者協会にもっと利益を吸わせて離れられなくする。同じ様に明聖社も一蓮托生にする」


「イマイチピンと来ないけど?」


 東横の話す話だと、探索者協会···特に松田一族は支部の利権を増やし、役職(ポスト)を増やして、そこに一族を送り込むのが熱心だと言っていたので、メインの百合ヶ丘の探索者支部のサブ拠点として派出所を出店してもらうのはどうかと言ってきた。


 探索者支部は東京にある探索者本部の意向が無いと増やすことができないが、派出所は探索者支部の意向で配置することが可能らしい。


 有名なのが沖縄で離島にダンジョンがあるため、探索者支部の指示が細部に届きにくい為、派出所を多数設置し、探索者の数をコントロールしているらしい。


 派出所の機能は五十億円以内のダンジョンで獲れる素材の換金、探索者の登録、探索者証明証の更新、能力測定、電子ポイントの現金への換金と探索者支部でやれる手続きがほぼできる。


 あとは業者向けになるため、探索者以外の立ち入りに制限がかかるのが一般人出入り自由の支部との大きな違いだろう。


「でも派出所を誘致する口実と建物が無いよ」


「いえ、建物はあります。廃校になった小学校を買い取ってリフォームすれば使えます。口実は飛騨方面のダンジョンへの利便性の向上です。探索者支部まで車で数時間かかっていたのが、多少緩和されるでしょう」


 と言う。


 ちなみに何故新ダンジョンを秘匿したいかというとクラン中心の街作りに外部からの介入が増える可能性を考慮してだ。


 それに人の目が増えれば長門による新たなダンジョンを創るというのが難しくなると考えたからだ。


「長門と大和の為にと思うと色々制限がかかるなー」


「まぁそれはしゃーないんじゃない? で派出所は私が後々所長になれるように調整しようと思ってる」


「ん? ギルドナイトじゃなくて?」


「実働部隊よりも政治能力や権力を考えるなら所長の立場の方が上に行きやすいし、松田と萩原を派出所に勤務させればよりクランと探索者支部がズブズブになれるし」


「うへ~真っ黒じゃんか〜」


「東横、じゃぁ明聖社を絡ませるのはなんでだ?」


「明聖社含め、武具の製造メーカーは日本のダンジョンで産出される特殊鉄···特に秋津鉄と呼ばれる鉄を大量産出するダンジョンを求めている。もし、それが大量に産出するダンジョンが創れるのならば···」


「なるほど、明聖社も食い付くわけね」


 補足として島根の出雲地方で大量に産出されている秋津鉄だが、ダンジョンのレベルは関係が無く、出雲地方は下級ダンジョンで大量に採掘できるので企業から人気という背景がある。


 別に貴金属ではなく、鉄鉱石もしくは砂鉄の秋津鉄が採れれば良いので、長門がダンジョンの生成物の練習にもなるだろうという話だ。


 それに企業利益に直結するため裏切ることはないだろうと東横が予想する。


「まず長門ちゃんが秋津鉄が大量に出るダンジョンができたら、それを探索者協会経由で情報を流して食い付かせる感じで、明聖社が本気で資金投入したら凄いことになりますからね」


 昔と違い、ダンジョン産業で巨大な利益が発生し、売上が五兆円規模の会社が二百社近くある現代、本当に人の問題さえ片付けば日本は飛躍できるのに、人口がネックになって爆発できずにいた。


 好景気というのもあるが、私達のクランでも五十億以上稼げるのだからいかに金が日本中で循環しているかがわかるだろう。


 ただだからこそその循環から外れてしまった者達は子供を作るのを諦めて人口の減少に歯止めが効かなくなっているのだが···


「とりあえず東横じゃぁ秋津鉄のサンプルを持ってきてくれない?」


「あ、それなら私からも」


 と山姫が言う。


「私が住んでいたマヨイガのダンジョンで少量産出する朱餅鉄も取り寄せてはもらえないでしょうか?」


「何か意味が?」


「マヨイガの最深部ではその鉄で作った茶器や釜、包丁が使われていたのですが、幼いながらに赤黄色に光るそれらが普通に採掘できるようになれば大きな資源になるのではと思いまして」


「なるほどね···東横お願いできる?」


「サンプルを取り寄せるくらいなら問題ないかと」


 こうして二種類の鉄が取り寄せられることとなるのだった。








「おお! かっこいい!」


「イブキ! かっこいい!」


「やったー!」


 探索者協会の指定で百合ヶ丘探索者協会所属幼稚園に入園することになった。


 そこは探索者協会直轄ということで、長時間の探索を行う上級上位の探索者の親が優先的に入園を許可され、大和と長門は重要護衛対象に指定されていた為に選ばれた感じだ。


 入園式では配信用の高性能カメラで録画をし、二人を送り出した。


 通いだして友達もできたらしく、私は容姿で差別されないかハラハラしていたが、逆に天使の容姿は園児達の心を掴んだのか大人気で、大和はコミュ力が既に溢れ出して友達を毎日増やし、喧嘩の仲裁や率先して園児を率いていると連絡帳に書かれ、長門はお絵描きが大好きで、キャラクターの絵を描いては友達にプレゼントしているらしい。


 先生も三歳児とは思えない画力に舌を巻いている。


 私の方も託児所のママ友が数人そのまま幼稚園にも入ってきたので知らぬ間にボスママの一人にされていた。


 なんか派閥があるらしいが、大和がどんな子とも仲良くしてくれるので敵対している同士のママ達の仲裁役の立場に収まり、多くのママから愚痴を言われた。


 まるで教会の懺悔室や相談室みたいだなと思うイブキだった。








 探索者協会から返答があり、派出所の設置が許可されたら、今のままでは利便性が悪すぎるのでマンションの建設に合わせて廃校の小学校の改装を始めるらしい。


 で、今季は中部地方の混血を募集したので四十人が採用され、クラン人数は八十七名まで拡大し、一時的に探索者協会から指定されたマンションに住んでもらい、プレハブ住宅が完成次第仲の良いグループ毎にそこにマンションができるまで住んでもらう事になった。


 お陰で三葉の建設業者は嬉しい悲鳴を上げてマンションと平行してプレハブ住宅の建設ラッシュが始まった。


 この時に明聖社から都市建設アドバイザーと言う人が来てくれて、プレハブ住宅を後々商業施設に転用できる造りにした方が良いとか、公園や道の場所等のアドバイスを色々と貰った。


 で、パチンコ屋と称した駐車場が多く必要な場所をダンジョン予定地として空けておき、私道を引いて準備を進めるのだった。


 ···なお、やはり予算が厳しくなり、銀行から追加で百億、明聖社やスポンサー企業から良い土地を渡す代わりに二百億の融資を受けることに成功した。


 もう後には引けない···

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