配信の近状 話し合い
配信業も水物で、イブキが創った箱のエッセンスでは、あれから新規メンバーは混血メンバーから四人が参加し、配信を始めていた。
ただ天使のイブキとしての活動がそろそろ四年目に突入し始めると外部とのコラボを極端にしなかった弊害か、人気がじわりじわりと落ち始めていた。
本人としてはクランの運営が忙しいし、なかなかクラン収益が黒字に転換せず、人件費やマンション二棟のローン等で財源が圧迫されていたので、配信よりも経営の本体がヤバいため、新しい魔導書として初級治癒魔法の『ヒール』を五万円で公開したくらいで特にテコ入れはしなかった。
ただ、『ヒール』の販売は医療業界への衝撃が凄まじく、勉強しても初級治癒魔法が覚えられなかったために、診療医に回っていた人材が再び外科医に戻るきっかけとなったり、今まであまり注目されていなかったイブキの魔法理論が海外でニュースとなり、私の動画を翻訳し直した動画が爆発的に広まった。
お陰でじわじわ視聴率が落ちていたのにV字回復を果たし、『ヒール』の魔導書に関する紹介動画は二億再生と桁違いの再生数を叩き出した。
今まで出した魔法は『万能防御魔法』『ノッキング』『サーチ』『ヒール』となり、これの翻訳バージョンを出さないか幾つもの出版社から声がかかったが、日本語で完成されているため、翻訳した際に回路が組み変わり、違う魔法になったり、失敗する可能性が高いためと丁重に断らせてもらったし、動画でも改めて説明動画を翻訳付きで話した。
結果日本語を覚えようとする外国人が増えたとかなんとか···
四つの電子版の魔導書のダウンロードと私のメンバーシップの利益でクランの赤字の補填をする状態が続いたが、二月中頃に二軍メンバーが『サンレイ』と『ノッキング』の習得が完了し、そこから収益が一気に上昇した。
なので半年で基礎を作り、数ヶ月で多数の魔法を覚え、加入十ヶ月後に金を生み出せるというのがよくわかった。
まぁ色々と苦労している間にスカーレットが登録者数百万人を突破し、私の代わりに箱の顔として配信者達を引っ張っていた。
特に私がコラボをほぼしないが、スカーレットはオンラインコラボに積極的で、FPS、格闘ゲーム、麻雀、スポーツゲーム、RPGとほぼ全てのゲームジャンルを網羅し、ゲームの腕前で食っていけるレベルまで進化していた。
一方、山姫と月精は配信者としての人気が新人に抜かれてやる気が死んでいたのでクラン運営の方に注力すると配信活動を休止した。
まぁスカーレットもオートマターの肉体なので心無い人達からツール使い呼ばわりされていたが、それを含めての私だと今日もアンチを正論でぶん殴っていた。
「いやー、ガイアクランに融資したのは成功だったな」
「全くですね!」
とある銀行の支店長が部下と話していた。
「探索者支部からの紹介で信用があり、尚且つメンバーの全員がまだ二十代と組織として凄まじく若い。多額の融資でも計画的に使い、人数のコントロールもちゃんとできている。そしてちゃんと利益を出しているのが素晴らしい」
「銀行七社で百億の融資をしましたが、クランは初期さえ乗り越えられればメンバーが壊滅でもしない限り回収できますからな」
「ええ、それに本拠地の開発を始めると連絡がありましたのでまた金が動きますよ」
「楽しみですね」
銀行の支店長達が話していた頃、イブキは東横、山姫、支部長の松田努、三葉の父親、四星の父親の六人で話し合いをしていた。
「ガイアクランのマンション建設について話し合いを始めたいと思います」
そう、クランのマンションの話し合いだ。
ちなみに長門の固有能力については東横と支部長の松田しか知らない。
まず予算からで、周囲の土地を押さえる為百合ヶ丘の隣の市の荒れ地を購入しようと思っていた。
元々畑や田んぼであったが、人口流出が加速し、農業調整区域だったが、田畑を管理する人が居なくなって調整区域を解除しても人口は戻らずに市からも不良債権となっていた場所だ。
その為整地と地盤補強から始まる予定だ。
ただほぼ相続放棄の国有地だったり、安く買い取ることのできる土地なので、銀行から融資を受けた際に、五億数千万で小さな村くらいの広さの土地を既に購入していた。
で、整地作業も始まっており、既にある程度のお金を支払っている。
「マンションの建造で希望が二百戸かつ一部屋二LDK以上かつ最低六十平米計算ですか···となると約六十億となりますね」
内装無しでこの値段なので内装を含めると更に値段は跳ね上がる。
何らかの付加価値を付けなければクランの資金がショートする。
でも今後どんどんクランのメンバーが増えることを考えるとそれくらいの広さのマンションが必要になる。
となると銀行に追加融資を受けながら稼ぎを増やすしか無い。
今年のクランの総年俸が十九億、ローン等を合わせると二十一億の支払いに対して、今年三ヶ月から逆算した収益予想が四十億から五十億、一軍メンバーの収益によっては更に引っ張ってくれる可能性も高い。
これにスポンサー収益が加われば六十億位になり、約四十億近くが自由に動かせる金になるだろう。
これを引き合いに出して追加融資を貰うのは確定で、人材発掘速度を上げるため、来年からは中部から混血の新卒枠と中途採用枠を大幅に増やすことも検討していた。
とりあえずの仮住まいは探索者協会が保有するマンションを貸し出してくれるらしいので、お言葉に甘えることにする。
とりあえずマンション建築の話が終わり、三葉と四葉の父親は退室し、私、東横、山姫、松田(祖父)の四人となり、長門のダンジョン創造能力の話になる。
山姫はそのことを知らなかったが、天使の固有能力と言うと一定の理解はしてくれた。
「今度休みの日に大和と長門を連れて空き地に行ってダンジョンを創らせてみます。何が起こるかわかりませんが、色々な実験をしてみますので、一軍メンバーも連れて行ってスタンバイさせます。探索者協会にも新ダンジョンができる可能性を考慮してのお話です」
「こちらとしては問題無い。ただ東横君(父親の方)を監視員として派遣させて欲しい」
「わかりました」
「あとダンジョンの生成に成功したら前々からダンジョンの研究をしている兵庫の柊教授に調査を依頼したいが」
「探索者支部で完結させないのですか?」
「ダンジョンの研究に関しては柊教授の方が正確に判断することができるし、柊教授は後藤に対して友好的だ。必ず後々力になるだろう」
「なるほどわかりました。ではとりあえず実験をしてから続きは話します」
「土地の所有者は君だからダンジョンの管理や活用法も君になる。それを見越しての伊藤家かな?」
「さあ、伊藤家と繋がった時にはまだ長門の能力がわかりませんでしたし」
「なるほど」
その日の会合は終わり、翌日、クランのメンバーは一軍や幹部以外は休みにし、主要メンバーを連れて長門の能力の確認を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます