三軍構想

 さて、平良に支援金を渡し、そのまま彼は大検···いや高等学校卒業程度認定試験を受け、アメリカへと旅立っていった。


 私としては彼の才覚に賭けたが、どうなるかはわからない。


 まぁアメリカでは東横曰く天使は優遇されていると聞いているので、彼も上手くやるだろう。


 彼以外の七人の卒業予定の混血の学生とその後面接をし、特に問題も無かったために、受け入れることにした。


 これでクランの総人数は三十七名となる。


 とりあえず七名の新規加入組の年俸は最低年俸の年収三百六十万円スタートとなり、レベルや貢献度でも変わってくる。


 ちなみに十一月加入の混血組も年俸は年収三百六十万円で今年はやってもらう。


 他の一部メンバーは年俸が少し上がり、今年のクランの総年俸は十六億円となる。


 前年度は赤字計上であったが、秋組の育成完了が六月予定、四月からの七名も十月頃から本格稼働が始まれば、黒字の計算をすることができそうである。


 クラン運営は始まったばっかり! 


 頑張っていこう! 







 七月上旬、年度の半分が過ぎ、四半期決算の第一期(四月から六月)が終わったということで明聖社本社に役員が集まり、各クランの話し合いが行われていた。


 東日本のクランに関する人事を管轄している坂田が各クランの近状を説明していく。


「まず大きな変化から。チームガイアがクランガイアへ成長し、人材の拡張体制に入りました。主に四月に地元の学生を中心とした新卒を採用し、十月に明聖社のコネクションを利用した中途採用をする方針を固めたとのこと。今年も五名ほど送ることができる人材がいますので送ろうと思っています」


「ガイアクランは我が社が混血にも気を使っているというアピールをすることができ、高レベルの混血の方々から大口契約を結ぶ事に成功しています。またクランリーダーの後藤氏がインフルエンサーとして大きな発言力があるため、クランの武器が明聖社で統一していること、コラボグッズを販売し、大きな利益を挙げることができたと経理から報告させてもらいます」


「またガイアクランの目標としてクラン主体の街作りを計画しているらしく、我が社にも意見を求める書類が届いています。我が社としても自社主体の都市開発を行った過去があるため、将来的には支援をし、利権に食い込めれば良しと考えております」


 とこの発言に対し、役員達がクラン主体の都市開発は成功例が日本に無く、海外でも僅かということから消極的な案が出たが、人口減少による国内の売上低下が今後の課題となると、中部に大きめの拠点があれば活動がしやすいと意見が出る。


 しかし、国内の特殊鉄の産出量の過半数を占める島根の支社長が、だったら島根に大きめの拠点を設置してほしいと意見具申する。


 島根···特に出雲地方の約十箇所のダンジョンから大量の特殊鉄が採掘することが可能で、その十箇所のダンジョンの利権を持つ武具メーカーがそのまま国内の武具製造主要十社になっている。


 事実上の寡占であるが、新規参入するにも出雲のダンジョン利権を持たなければ製造費が高騰し、武具の大量生産によるコストダウンをすることができない。


 しかも日本産の武具は近隣諸国の品質を圧倒しており、メイドインジャパンの武具は世界中で使用されるため、主要な輸出商品となっている。


 なので対外貿易による利益を考えても島根支社の拡張もしくは権利の拡大をし、他社よりも優秀な探索者を多く抱える必要がある。


 東日本支社の役員達は苦い顔であるが、ずば抜けた育成能力を誇るガイアクランの様子を聞いて、将来性を高く評価した。


 役員達は厄介者扱いをされて孤立している各地の混血を集めることで新たな需要と顧客を産み出そうと考え、明聖社としても都市開発の試案を作るように計画が始まるのだった。







 ガイアクラン内でも夏の幹部会議が開かれていた。


 議長は勿論リーダーのイブキである。


「とりあえず新人達···いや、十一月加入組を含めて、一ヶ月五レベル上昇のペースは維持できているね」


「ええ、お陰で下級ダンジョンから中級ダンジョン三箇所(【サザン海】【関ヶ原】【フラワータウン】)の第一階層のローテーションができるようになりました」


 と萩原が答える。


「ただ今後拡張を考えると三チームに新人を随時加入させていくやり方だとレベルが下の人に合わせないといけないから、中級の上層でしか戦えないよね」


 と東横が言い、私に改善案を言うように目線で指示を送ってくる。


「まず私が考えるクランの構造を伝えるけど、上級探索者による中級ダンジョン深層と上級ダンジョン中層を継続的に行けるメンバーを量産すること。ここに居るメンバーは私の固有能力は知っているから言うけど、レベルと魔法理論による地力で殴る。その為にチームを三軍構造にしたいと考えているよ」


「三軍は新規加入した新人教育を行う。メインは私が入り、サブに新人組で良さそうな子を見繕って育成専門の人を育てる。で二軍は新人教育を終えて基礎能力がある人達に中級ダンジョンで魔法の習熟度を上げたり、レベルを百二十まで上げてほしい。リーダーはスカーレット、(椎名)洋介、南波を各部チームリーダー及び育成計画を作成する」


「一軍はとにかく金を稼ぐ組でスポンサーからの依頼を受けたり、中級ダンジョン深部から上級ダンジョンに潜って稼いでくる。人材が育つまでは東横をリーダーに、小風、山姫、月精、池田、内藤、ロドリゲス、ドナルドの戦闘員で八人チームを組んで上級ダンジョンに挑む準備及びレベリングを初めてほしい」


『イブキが一軍じゃないのかと質問します』


「適材適所。私は育成型だし、レベルも才能を付与した人よりも遅い。勿論クランのリーダーを辞めるつもりは無いけどね」


『理解』


「東横は業務過多になると思うけど何か要望はある?」


「令嬢組をそろそろ事務業務に集中させてほしいのと令嬢組の手足となる人材が欲しい。彼女達のコネがあると思うから引っ張ってきてもらうことはできないかな」


「引っ張ってきても最低中級には潜れる程度には鍛えるよ」


「それで問題ない。混血はどうしても人数が少ないし、戦闘要員として人数を確保したい」


「わかった。十月の中途採用は三人の部下となる人材を中心に採用するよ」


「ありがとう」


 私の三軍構想に反対は出なかった為、以後クランは三軍構想に基づいた運営がされていくこととなる。








「新人の発掘かぁ···」


 令嬢組の伊藤はイブキからの命令で自身の手足となる部下を方法問わずスカウトしなさいと言われ、採用枠を三つ貰った。


 三葉は実家に支援要請を、四星は中途採用の企業説明会にブースを借りてそこで人を引っ張ってきた。


 ただイブキが求めているのは私の手足として動かしやすいか。


 となると二年間の大学生活で気の知れた人物の方が能力と人格を知っているので扱いやすい。


 また高校で私を慕ってくれていた二個下の後輩が居るので彼女を新卒採用しても良いかイブキに聞くと問題ない、自由にやれと言われた。


 全員同性で統一し、特になんとなくで経済学を専攻しているメンバーに大学を辞めて働かないか提示した。


 イブキに条件をどこまで出して良いか聞いたらマックス手取り月給五十万と言われていたので、その金額プラス四星に賃貸の斡旋をしてもらい、住む場所を社宅として良い物件を低賃料で貸し出す事を約束した。


 こうして私は三葉よりも実家の影響力が無く、四星よりも能力に自信を持て、かつ気の知れたメンバーを集めることができた。


 ただ加入時期が全員四月になるため、その間は私が頑張る必要が出てきたが···

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