平良三郎···後の現代の織田信長
浮ついた空気が漂っているクラン内の雰囲気であるが、シメるところはしっかりシメている。
特にダンジョンアタックの際にはメンバーの恋人関係や友好度を確認しながら三チームに分けて運用を開始している。
私の固有能力の発動条件は私が意識すれば付与することができる。
なので最初の数週間は私が新人チームの育成に入ることで顔と名前を一致させて付与するに至る。
なので正月休みが終わってから三月になるまで下級ダンジョン中心にレベリングをしてきたが、新人達のレベルの上昇速度は加速度的に上がっている。
特に令嬢組は三ヶ月ちょっとでレベル二十七に到達し、一ヶ月に九レベル近く上がっていた。
私が才能を付与していることを新人達は知らないので本人達は才能があったと大喜びしていたが···
なのでこの三ヶ月は赤字が続いていた。
ただ来月からは六基のトレーニングをしながら中級ダンジョンにアタックすることになるので資金面はジワジワ改善していく見通しだ。
更に同棲が多数となったことで買った小型マンションの部屋が空き、岐阜県探索者高等学校を今年卒業する八人の混血メンバーを全員受け入れる事ができそうである。
私がまた面接をするが、もし先輩達が全員受かったのだから俺も受かるだろうみたいな舐めた態度で来たら普通に落とすつもりでいる。
私達も慈善事業ではない。
利益を求める会社だ。
実力不足は別に気にしないが性根が腐ってたら、それは会社をも腐らせる原因になる。
その可能性がある人が今年の卒業生予定の子に一人いる。
私のクランにも混血のドラゴンの子がいるけれど、その子は協調性がしっかりあったのだが、今年卒業する子は混血とイジられたことで激怒し、複数人を病院送りにした事件を複数回起こしている。
混血クラス内でも厄介者扱いを受けているらしい。
面接をしてみるが、どうなることやら···ただそんなタイプと今まで会った事がなかったので興味はある。
なのでその子は詳しく知りたいと東横に伝えたら、面接前に会ってみませんかと言われ、彼がよく行くという食堂に顔を出してみた。
東横に言われた食堂は古いながらも繁盛しており、女将さんが席に案内してくれた。
席に座って厨房を見てみると、強面の店主と一緒に料理をするドラゴンの混血···ドラゴニュートの男の子が店主と一緒に料理を作っていた。
女将さんに彼は? と聞くと店主が街でやさぐれていた彼を二年前に拾ってきて、学校が休みの日にアルバイトをしてもらっているのだとか。
「良い子なんだけど混血でも普通に暮らせるって証明したいらしいの。私達はここの店に就職しても良いって言ってるんだけどね···」
料理を作っている彼は真剣だ。
その姿に覇気すらも感じた。
私は彼···ドラゴニュートの平良三郎に強い興味を更に覚えた。
「女将さん、私探索者のクランを経営している者なのですが、彼と少し話したいんですけど、お店が終わってからまた伺っても良いですか?」
「え、ええ! 今からでも良いですが」
「いや、今彼は仕事をしている。それを途中で止めるのは悪いと思いますので···」
「では彼は十九時に帰しますのでその時に」
「ヤバいですね」
「ああヤバいね」
私と東横は頷いて確信した。
彼は上に立つべき人材だと。
調理風景を見ていたが、常に先の事を考えて動いていた。
店主が欲しい食材を用意、加工し、タイミングよく渡す。
とても話に聞く粗雑な人物には見えない。
どちらかといえば神経質な様にも思える。
「でもとりあえず話をしてみよう」
時間になり、私達がもう一度店を尋ねると、上下ジャージを着た平良君が私達を待っていた。
「···ガイアクランの後藤代表と東横副代表だな」
「知っていたか」
「進路先で一番可能性があるところだからな」
「少し話をしたい。車に乗ってくれるかい」
「あぁ、俺も話してみたかったんだ。良いぜ」
車に乗せ、移動を始める。
「今お腹は空いている?」
「あぁ、食べ盛りだからな。まだまだ食えるぜ」
「じゃぁ焼肉屋に行こうか」
東横に頼んで少し高めの食べ放題のお店に入店する。
店員が混血の彼を見て個室でも良いか聞かれたので、個室に移動する。
「差別しやがって···」
平良がそう呟く。
個室で座り、改めて挨拶をする。
「ガイアクランのリーダーをしている後藤伊吹···イブキって呼んでよ」
「副リーダーの東横雪子。東横と呼んでくれ」
「平良三郎」
自己紹介を終えて、私から話を振る。
「今年も岐阜県探索者高等学校から混血の人材を登用しようと思っていたんだけど、注意人物として君の名前が挙がっていてね。気になったから話してみようと思ってね」
「まぁだろうな。複数回暴力事件を起こしているからな。先輩達に俺の事を聞いても情報が出たろ」
「傲慢で自尊心が強く、自己中心的って言っていたね」
「まぁそうだろうな」
肉が届き、私が焼き始める。
「ただ実際見た君は誠実に見えた。ちゃんと自分の感情をコントロールし、社会に適合しようとしているように思える」
「このギャップはなんだ?」
「定食屋のオヤジに叩き込まれたんだよ。礼儀って奴をな」
「ふーん、ねぇ私のクランに入る気無いでしょ」
「あ?」
「君は人よりもメンタルが強く、逆境状態でもへこたれずに前に進める人材だ。私が求めるのはクランに依存する人であって、リーダーじゃない。君はリーダーになるべき人材だね」
「おいおい、混血はチームを組むのも難しんだぜ。リーダーなんて無理じゃないのか」
「と口では言うけど目が座っているよね。それが証拠だよ。ただ混血の闇は根深い」
「だったらどうしろと」
「人生をリセットしてみないかい?」
時間を遡ること十二月二十五日。
そう、マーちゃん(辻聖子)と会っていた時のことだ。
「実は私からイブキにプレゼントがある」
「プレゼント?」
そう言ってマーちゃんは私を連れて、前に私が生き埋めになった場所に案内された。
「ここを掘ってみな」
言われるがまま墓石の前の地面を掘ると長方形の宝箱が現れた。
「これは?」
「前に言ったろ。ここは私のダンジョンだと。···【ヘブン】に天使病のガス入り宝箱が出現した。二年に一度のペースで湧くんだよあそこ。で、イブキなら使い道があるんじゃね〜かと思って地面に転送させて保管していた」
「【どんな人間】も天使へと作り変える病だ。固有能力が付与されるとはいえ、レベルリセット、性別が女性に固定されるデメリットもある。種族の変更は人工のマジックアイテムでは作れないまさに神の域だ···占いでお前に渡しておけば吉と出たからな。イブキに託す。上手く使えよ」
そう言われていた。
「天使になれば混血による差別や暗黙のルールである社会の上層部に上がることができないという事も無くなる。平良、上を目指してみないか?」
平良は私の言葉に凄く悩んだ末に、箱を掴んだ。
そのままトイレに行って、帰って来ると天使になっていた。
「ずいぶんと美しくなったね」
「悪いが俺は上を目指したい。この腐った国を変えたい。協力しろ」
「良いよ。でも貸しだよ」
「構わねぇ。高校も辞めだ。大検取って進学する。貸しのついでだ。渡米費を貸せ、二年で卒業して帰って来る」
「ククク、面白くなってきたね。まぁ期待しないで待ってるよ。私は血縁に凝るけれど、君は能力主義でいくと良いよ」
「そのつもりだ」
多分これも何かの縁なのだろう。
平良三郎は後々改名し、平良密(三をみっつ→みつ→密にもじって)となり、アメリカに渡米後、アメリカが天使を優遇していることを活かして富豪にパトロンになってもらい、探索者をやりながら大学に入学、そのまま飛び級をし、二年で卒業、そのまま二年間アメリカで活動して財界と繋がりを作ってから帰国し、政治家として活動を始めるのだった。
···土岐先生とは同政党の他派閥という関係性となり、生涯競い合う事となる。
このイブキの気まぐれの投資が、社会にどう影響を与えたかは後年の歴史家が考えることであり、今はまだ···わからないのだった。
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