岐阜県で犯罪が少ない理由

 私は夜にマンションに帰ってきた東横を部屋に呼び、今日の事を話す。


「話ってなんです?」


「今日、私は前に行方不明になったダンジョンに行ってきた」


「ほう?」


「そこで辻聖子に会ってきました」


「まてまてまて、え? 会えるの?」


「私に限りですがね。いや、具体的にはマーキングした人物には···なのでマーちゃんの本体が居るダンジョン【ヘブン】に行き、マーちゃんと直接会った人か、私の子供達みたいに私の精神を介してマーキングされた人じゃないと現世では会えないみたいだけど」


「それは···実質不可能だね」


「ま〜そういう事。ただ今回の話はマーちゃんに会ったよりももっと別の爆弾があってね」


「爆弾?」


「どうやらマーちゃん曰く···長門、将来ダンジョンを創れる様になるらしい」


「はぁ!?」


 東横は凄まじい慌て方をする。


「人工ダンジョンってこと?」


「そう。で、いつできるようになるかわからないけど、将来コントロールができるようにマーちゃんに修行してもらう」


「それって···【ヘブン】ダンジョンに送るって事?」


「そうだね。現状長門の事を師事できるのはマーちゃんしか居ない訳だし···もう少し詳しく話すから、この事を支部長にも話してね」


「···わかった」


 私から話した内容はそのまま支部長にも伝わるのだった。








「人工ダンジョンが現実味を帯びるか」


 支部長である松田努は次期支部長に指名している東横の父である東横守を呼び、内容を共有した。


「一つなのか、複数なのか···どこまで制御できるかも未知数だが、人工的なダンジョンの創造が可能···それだけでヤバいですね」


「この内容は秘匿しなければならないと共に、制御できるまで我々の制御下に後藤君の子供は置かなければならんな」


「それと同時に理想的なダンジョンを創造してもらわなければならん」


「理想的というと···」


「複数あるが、日本で一番必要なのは資源だ。大量の鉄、石炭、石油、ゴム、天然ガス···近年はダンジョンから産出される鉱石や素材もここに加わる。そして食糧だ。これらのどれかを大量に産出できるようになれば···日本はさらなる飛躍が約束される」


「その莫大な利権に我々が食い込むということですか」


「ああ、我々は後藤家が産み出す利益を上手くコントロールするのが役目だ。多少の役得はあれど···な」


「なるほど」


「東横君には子供がまだいるよな? 彼らを後藤君が創るクランに姉の交代の人員として送り込むか?」


「いえ、残念ながら雪子から下の子は探索者に向かない性格をしていまして、探索者用の武器を作る職人の道に進んだり、普通の企業に勤めているので呼び戻すのも酷です」


「まぁ私があと数年、その後を君が十年引き継いで娘の雪子君が支部長になるまでの間に私の親族を挟んでいけば円滑に行くだろう」


「世間では世襲と言われますがね」


「世襲で何が悪い。まぁ能力が無ければ外部に回すが、この問題は外部に漏らす方が危険だ。···となると東横君の家柄を上げる必要があるな」


「家柄ですか? 確かにうちは由緒ある家系ではありませんが」


「上になるほど家柄というのが響いてくるものだ。松田一族が土岐一族と密接になったように···な」


「では私も土岐一族と血縁を結びましょうか。雪子ならば氏親先生とも懇意であったからな」


「松田、土岐、東横に後藤家の四家で岐阜を牛耳る。政治は土岐に、ダンジョンを松田と東横が、そして象徴として後藤家を立てる」


「現代の執権政治ですか···」


「まぁそれが上手くいく頃には私は死んでいるだろうがな」


「支部長、まだ六十半ばでしょうに」


「老害になって家を傾けたくない。ちゃんと若手が育っているのだから意識がしっかりしているうちに静かに去るよ。···ただ警戒すべきは」


「ギルドナイト暗部の隊長である泉ですね」


「ああ、奴が何を考えているか私にはわからん。戦闘能力は岐阜県···いや、中部地方でも五本の指に入るが、決して表に出ないで暗部としての職務を全うし、そして金を持っているのに家庭を作らない変人だ。東横、警戒を怠るなよ」


「はい」











「うぉぉぉ! 右旋回ドリフト!!」


 探索者支部から少し離れた場所にあるビルの隊長室と書かれた部屋で、瓶底眼鏡をかけ、ガリ勉かつ何回も浪人しているような小汚い格好をした男性がテレビゲームをしていた。


「ファ○ク! 死ね! まじで死ね! はー萎えた···ガン萎えですわぁ!」


 そう言いながらベッドに倒れ込みぼーっとする。


「はぁ、我、萎える」


 すると扉が開き、黒色の迷彩服を来た暗部の隊員が部屋に入ってくる。


「うわ、汚いなぁ! 隊長片付けろって私言いましたよね!」


「はぁ、なんでこんな限界大学生みたいな人が暗部で隊長してるんだか」


「あ~波多野に涼宮か〜仕事か?」


「いえ、隊長室に一週間近く籠りっぱなしって他の隊員から聞いたので様子を見に来ました。···最後に風呂に入ったのはいつですか?」


「五日前だな」


「あんたさぁ···」


「ギルドナイト最強の自覚を持ってくれません? というか歴代最年少で暗部の隊長になっているんですから···泉さん、今二十六でしたよね?」


「まだ二十五だよ。まぁ来月には二十六だが」


「いい大人なんだからシャキッとしてくださいな」


「え〜やだ〜」


「なんでこんな人がマジでギルドナイト最強なんだ?」


「本当に強いのに···凄い勿体ないよね」


「彼女できませんよ」


「いいよーだ、俺はゲームと二次元の彼女が居ればいいもんだ」


「はー、マジで風呂入ってください。臭いっすよ」


「イカ臭い、マジで最悪。職場で···しかも隊長室にベッドを持ち込んで自慰行為とかマジで勘弁してください。下に示しがつきませんよ」


「いいよ、暗部の仕事なんて年に数件有れば多い方だし、表に人材を増やした方が健全だろ」


「あのね、表からしたら暗部は探索者ギルドの最後の砦なんですよ! 探索者の捕縛ではなく殺害の権限を貰っているんですからね!」


「わーってるよ。あー、うっせぇなぁ」


 泉はポリポリと頭をかいて廊下に出ていった。


「風呂入って、そのまま散歩でもしてくるわ〜」


 そのまま風呂場に消えていった。


「···この部屋どうする?」


「泉隊長片付けないでしょ···私達で片付けるよ」


「へーい」









「さてと、なぁ兄ちゃん。おいたが過ぎたな」


「ひ、ひぃ···」


 散歩すると出かけた泉が向かったのは一見普通のカラオケであり、そこに居た三人の男女のうち女二人の首から上が消えていた。


「ダンジョンの薬草も悪意を持って加工すれば麻薬になる。あんたらのチームは他県でずいぶんと悪さをしていたみたいだねぇ···他の県ではできたかもしれねーが、うちの県は俺が居るからな。全部筒抜けよ」


「う、噂で聞いたことがある。サーチを極めれば数千キロメートルの広範囲で人の挙動を確認できる者がいるって···まさか!」


「残念ハズレ、星六探索者はそんな無駄はしない。正解は数値化の魔法だ」


「数値化!?」


「サーチで探知してそこから悪意みたいなのを俺は数値化できるんだよ。それで一定値を超えた奴は捜査するの。俺凄腕のハッカーでもあるんだよ。お前らが若い人の人生潰して金にするためにダークウェブ使ったろ。わかるんだよ。そういうの」


「まぁお前らはやりすぎたんだよ馬鹿め」


 瓶底眼鏡の奥の瞳が紅く光る。


 すると首がキュッと音と共に消えてしまった。


「はい、お疲れー、じゃ体の方も消すか」


 次の瞬間体の方も痕跡無く消えていた。


 切断に転送の魔法を使ったのだ。


 彼らの体は宇宙空間に飛ばされ、そのうち大気圏に突入した瞬間に消し炭になるだろう。


「あー、はい、仕事終了。帰るか」


 他県に比べて岐阜県の組織犯罪は異常に少ない。


 それは内陸故に海外から来る事がないのと、岐阜に入った瞬間に消されるからである。


「さーて、今日こそレースゲーのレート五千到達がんばるぞー」


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