お盆には霊が戻って来る

「てなわけでギルドナイトで良さそうな人っていないの?」


 東横含めた松田と萩原にギルドナイトの結婚事情とかを聞いてみる。


 というかギルドナイトの事をあまり知らないのでそこら辺を詳しく聞く。


 松田と萩原は岐阜県でのギルドナイト事情を教えてくれた。


 まずそもそもギルドナイトとはダンジョンからモンスターが溢れないように間引いたり、ダンジョン内で行方不明者の捜索、救助や犯罪を取り締まったり、場合によっては警察への橋渡しを行う組織である。


 なのでギルドナイトは高レベル探索者を制圧できる能力や危険なダンジョンでも生還及び救助ができる必要がある。


 間引きは不人気の下級ダンジョンに潜るため、殲滅能力はそこまで高くなくても良いとのことだ。


 あとは探索者協会での出動の時以外は事務仕事もする必要がある。


 給料は一般的なギルドナイトの年収が二千万円、階級が上がれば更に上乗せされるらしい。


「ギルドナイトは探索者としてみると安い年収かもしれないが、住居や装備が支給されるのでその点を考えるとどっこいだな」


 と松田が言うが萩原が注意点を言う


「ギルドナイトの男性は一般人から人気が高い。わざわざ好んで混血にってのはまず居ないと思うし、ギルドナイトの男共は探索者の女性を妻に迎える人は少ないです」


 ···となると一般人に混血の人を受け入れてもらうのは難しく、相当理解してくれる人じゃないといけない。


 探索者でも釣り合うとなると中級以上、できれば上級探索者となるので相手クランの感情や方針なども関わってくる。


「あれ? 探索者の結婚事情って結構難しい?」


「結構難しいっすよ後藤さん」


 東横がそこら辺調べてくれていて資料を渡してくれた。


 互いに探索者の場合はチーム内が一番多く、次に師弟関係から発展してってパターン、探索者協会が主催する婚活パーティーでマッチングしてってのもある。


 探索者と一般人は民間の婚活パーティー、元々知り合いだった等だ。


 あとは贔屓にしている店員とだったりナンパしてそのままみたいな母数が少ない感じになる。


「こうしてみると婚活パーティーがメインか?」


「そうなります。ただ混血はそういうパーティーでも不人気なので難しいかもしれませんが」


「うーん、できればチーム内で完結させたいかもしれないけどね···とりあえずこの事は伝えておく。クランが拡大すれば触れ合える人数も増えるからね」


 この話はここで終わるのだった。








「よっしゃぁ! 受かった!」


 二級教官免許合格の通知が届いた。


 これで教官としての活動での制限が大幅に解除される。


 三級はクランを創設する際に必ず一人が持っていなければならない最低限の免許であり、効力もクラン内に留められる。


 二級からは塾や道場の様な外部でも人に戦闘技術を教えても良いという免許であり、一級は教員免許の様な探索者高等学校の講師や二級までの教官を教育する為の免許である。


 二級を持っておけば不自由が無いので私はチームを結成した当初から欲しいと思っていたが、ようやく取得することが出来た。


 免許関連だと新人の全員が各都道府県のダンジョン都市で生活していたためか自動車免許を持っていなかったので、この機会に取ってしまえとチームからお金を出して一ヶ月前から通わせている。


 免許区分は新人が取れる最大サイズの準中型免許で、時期が来たら中型、大型を取って貰いたいと思っている。


 混血だから教習所が受け入れてくれないと思っていたらしいが、探索者協会が提携している教習所にすんなり入校できて、教えてもらっているらしい。


 夏休みシーズンと被って座学はほぼ終わったらしいが、実技がなかなか乗れないらしい。


 夏休みが終わればすき始めるのでそこからは一気に取れるだろう。


 世間ではお盆と呼ばれる時期であり、うちのチームもせっかくなのでと長期休暇を皆に取らせた。


 約十日間で、皆思い思いの休暇を楽しんでいる。


 私の場合はこの期間でもダンジョンに潜り、ようやくレベル六十に到達し、探索者支部の方にランクの更新と能力測定を受けに行くのだった。





 支部に報告する前日の夜、私が寝ていると久しぶりに夢を見た。


『イブキはなんで毎度毎度爆睡するかねー、私が毎回精神魔法をしているのに応答無しだからな』


「あ、マーちゃんお久しぶりです」


『おう、久しぶり。と、夢だとあまり時間がねーから端的に話すが、私の作ったダンジョンに来れるか? そこで少し話がしたい』


「え? こっち来れるの?」


『分身を行かせる事は可能だ。ただ言語を話すなどの複雑な分身は作り出してから数日しか持たない』


「いや、数日も持つの凄いけど」


『あと例年ゴールデンウィーク近くとお盆、クリスマスは【ヘブン】が現世に近づくからな』


「あれ? 半年に一回程度じゃ?」


『修行期間中にほっぽり出せるか。今のお前は半年間修行したから何だぞ』


「そうでした」


『全く···明日ダンジョンが開いたら大きな墓を探せ、そこにお前以外見えないように座っているから』


「わかりました」


 眠りが深くなり、マーちゃんとの夢は終わり、翌日、特に予定の無かった山姫に大和と長門の面倒を見てもらい、私は愛知にある墓ばかりのダンジョンに車を運転して再び向かった。









 墓のダンジョンはお盆ということもあり、閑散としていた。


 そりゃご先祖の墓参りに行っているのに誰かのわからない墓が大量にあるこのダンジョンに肝試し目的以外で向かうのはほぼ居ない。


 来るとしても夜なので私以外潜っているのは管理人の家族とかだろう。


 管理人さんに挨拶に行った時には知名度が向上して身の入りや探索者が増えたことに感謝されたが、また行方不明にはならないでくれと念を押された。


 勿論そのつもりは無いので昼頃には戻ると言い、私はダンジョンに潜っていった。


「えっと大きい墓は〜」


 空を飛びながら探すと直ぐに見つかり、墓の所には見覚えのある天使が墓石に背を預けて座っていた。


「マーちゃん久しぶり」


「よぉ、久しぶりだな」


 相変わらず綺麗な天使で見た目だけなら肉体がある様に見える。


「ちょっとまってろ、本体と接続する···よし、今日半日貰うぞ」


「一日でも良いけど?」


「息子と娘が居るんだから無理をするな」


 縁起が悪いが墓の踏み場に座らせてもらう。


 横にマーちゃんこと辻聖子も座る。


「で、どうだ魔法理論は広まっているか?」


「習得者数はぼちぼち増えてきているし、魔導書も今三冊公開しているよ」


「なるほど。サンレイは広まっているのか?」


「いや、悪用できてしまうからチーム内と探索者協会内部のみに留めてもらっているよ」


「なんだ、つまらないことをするな」


「仕方がないでしょ、マーちゃんの頃よりも人が減り続けているんだから」


「人が減り続けている?」


「少子高齢化って言葉しらない?」


「···そんなに深刻なのか? 人口問題は」


「まぁ俗世から離れているから知らないと思うけどあと五十年もすれば人口が八千万人程になるらしいよ」


「それは酷いな」


「子供を増やす魔法とかないの?」


「うーん、人体錬成レベルになるからな。それだったらクローン技術を発達させたほうが現実的だ」


「クローン技術は人間には使えないからね」


「そうか? 優秀な探索者を作るために海外では研究されているとか言う陰謀論をよく聞いたが?」


「無い無い。そんなの」


「そうか···残念だ···ん、よく見るとだいぶ強くなったな。前は十五レベル前後だったが六十くらいあるだろ」


「あ、わかります?」


「まー、私は魂で能力を見れるからな」


「クランを創設することにしました。混血中心のクランになりそうですが」


「そうか! 混血か! いいんじゃないか。探索者としての適性は高いし、活用されていない人材を活用すればライバルも少ないだろう」


「ええ、そうです。隙間産業的なあれです」


「ふむ···なぁイブキ、またこっちに来ないか?」


「行きたい気持ちはありますが無理ですよ。息子や娘が居ますし、チームの事もあります。私がまたそちらに行ったら瓦解しますよ」


「ならお前の息子と娘を時期を見てこちらにこさせられないか?」


「本人達の意識次第だけど···」


「私がイブキに渡せなかった技術を教えたい。マジックアイテムの製造方法とダンジョンの生成についてだ···」


「えぇ···そんな事も可能なの?」


「マジックアイテムはもしかしたら今の民間の企業努力なら抜かされているかもしれないが、お前が現世に戻ってから受胎のイヤリングの複製を研究してな。ある程度形にはなった」


「それは···」


「ただ劣化品だ。身に付けたとしても神は産まれない。母体の性質を受け継いた子供が産まれるだけだ。それに設計図は【ヘブン】にある。こちらには持ってこれない」


「いえ、それとダンジョンの生成についてですが」


「あぁ、人工ダンジョンの生成方法は難しい。私でも理解するのに五年の年月がかかったからな。ただお前の娘の方は恐らく固有能力がダンジョンに関するものだぞ」


「え? わかるの?」


「私が調整した。息子の固有能力まではいじれなかったが、娘の方は私が深層意識に介入を繰り返して誘導させてもらった。後々ダンジョンを創ることができるようになるぞ」


「···長門が絵を描いている時に地図の様な物を描いていたのはそういうことですか」


「だろうな」


「固有能力が開花するのはいつ頃ですか?」


「それは知らない。私達天使病は後天的になるものであって、お前の息子と娘は先天的だ。もう使えるのかもしれないし魔法を覚えてからかもしれない···まぁ本人がダンジョンに行ってみたいと思えば恐らく創るぞ」


 私はおでこに手を当てて天を仰ぐ。


「ただ言えるのはお前の子供達は天使ではない、神だ。固有能力も強力な可能性が高い。私はこんな下級ダンジョンしか創れなかったし、レイアウトもほぼいじることができなかったが、娘の方は制限はあるかもしれないが、ある程度の自由···もしくは完全に自身のダンジョンを制御できる可能性がある」


「現代社会だとマジで神業じゃんか···知られれば日本だけでなく世界中から狙われるじゃんか」


「信頼できる権力者に話すか、なるべく早めに私の所にこさせろ」


「支部長と懇意にしているからそっちに話してみるよ」


「ああ、それが良いな。あと息子の方は恐らく縁に関連するものだ」


「縁?」


「良縁を呼び込みやすいとか周囲の人に良縁を付与するとか、子宝に恵まれやすいとか、悪感情を持たせにくいとか···そういう類だろうな。詳しくはわからないが、そういう類の神だと思うぞ」


「確かに良縁が寄ってきている感じはするね···なるほどね」


「さて、あとの時間は魔法談義といこうか。レベルが上がったのなら防御魔法が完成したんじゃないか?」


「勿論! こんなのができましたよ!」


 私はマーちゃんと久しぶりに魔法の勉強を時間ギリギリまでするのだった。


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